123天文館通りの下町翁 雑記帳~柳美里「JR上野駅公園口」(河出文庫)を読んで
冒頭とエンディングに太字で書かれた「まもなく2番線に池袋・新宿方面行きの電車が参ります、危ないですから黄色い線までお下がりください」上野駅構内の山手線ホームアナウンスで繋がれた福島県出身のホームレス男の日常、故郷での家族との葛藤ある暮らしが入り交じる話は、東日本大震災後に南相馬に居を移し、本屋も構えながら土地の人々に丹念に耳を傾け、実際に上野の山で"山狩り"と称される天皇一族が美術館、博物館来訪時に目に触れないように排除される措置の対象者にも粘り強く取材した中で紡がれた実話に基づく物語。まるで透明な存在であるかの如く「見ないことにされる」ホームレス者の視点から見える行き交う人々の何気ない会話などが織り込まれ、方言とも混じりあって話は進む。
もはや現実の世界の方が物語の想像力を遥かに越えてしまったディストピアの領域に足を踏み入れた感のする2021年にいる私には、もっとも現実味を帯びた作品と言える作品の1つと言えるかもしれない。最初の刊行が2014年3月の単行本、今から7年前、東日本大震災と福島原発メルトダウンから3年後となる作品になるわけだが、益々、生きづらさに拍車がかかることばかりの中で、一際、現実を呼び覚ませてくれる作品であると思う。
私らにとっては日常的なものであることや方言をどのように英訳したのか?脚注を付す必要性がありそうな内容とも思えるし、モーガン・ジャイルズの英訳本にも当たりたくなる誘惑にも駆られる作品でもある。
https://www.goodreads.com/book/show/43398196-tokyo-ueno-station
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