背景のこと。
こんにちは。まいきーです。
「背景」について僕の経験からなる個人的な意見です。
●背景とは。
『そもそも漫画における背景ってなんだ?』ってとこなんですけども、漫画のシュチュエーション、感情表現やスピード感など含めてメインの絵とストーリーを効果的に演出するサポート的な役割です。
なので、絵画の風景画みたいな、背景として主張がある絵ではなく、あくまでサポート、フォローをするためのもの。超絶極端に言うと、お弁当のバランみたいな感じです。(背景をメインとして描いてるシーンは別)
で、読者的な立場から見た背景って「あればいいけどなくても良い」「簡易的にわかる程度に描かれてればいい」もの。
例えば僕らこっちの業界の人たちからすると「レベル10」の背景を描ける人と「レベル8」の背景を描ける人は、格段にレベルが違います。
でも、素人目にはおそらくあまりわかりません。
ここで、自分の好きな漫画のコミックス1巻分思い起こしてみましょう。
背景がメインのシーンは置いといて、それ以外のシーンでこのキャラが話してたあのシーンはあんな背景だったと具体的に答えられるところがどれだけあるでしょうか?
大事なのは「具体的に」です。
どんな間取り、窓がどこにあってどんな造りの窓か、外観はどうだったか、木は何本生えていたか…
具体的に思い出せる人は少ないと思います。この業界で生きてる僕だってそう。(自分が描いたものはある程度覚えていますが、それでも全部完璧には覚えていない)
なので、先に言ったようにレベルがどうこうより「わかればいい」。
弁当に入ってるバランがどこのメーカーのバランか、質の良いバランかは気にしてないのと同じ。
この段階で漫画を買う、「需要(読者)」側には「背景レベルの高さ」はあまり必要ない。
気にならない程の「違和感のない背景を描き上げている」という、一定のクオリティを担保している、といった意見もあるかとは思いますが、背景の違和感はレベルに限るものでなく、合わせるセンスの問題もあるのでここではそっと部屋の隅に置いておきます。
●ではプロの現場ではどうか
プロの現場においては、仕事場により様々な表現やルールが違いますが、基本的にはクオリティの高さを求めます。
特にベテランの職場になると、スピードと共によりクオリティ高い背景を求められることが多いです。
しかしながら、先の「読者」と「作り手」の背景に対する需要に差があると思うんですよね。
簡単に図解にしてみました。
これはあくまで例えで個人的な僕の感覚ですが、それぞれの需要の重なる部分以上は「こだわり」「エゴ」のような、作り手側の「そうしたい」という気持ちの部分であって、字の如く「必ず要る」というものとは言い切れない部分かと思います。
ざっくりいうと「読者の需要は満たしてるけど、雇用主がそれ以上に労力をかけてクオリティアップしたい部分」なわけです。
今、漫画は量産の時代、とにかく本数描いてどんな作品が当たるか見つける流れもあり、そうなってくると背景もとにかく質の良いベテランしか描けない時間かかる背景よりも、早くて量産できるライトな背景の方が需要が高い。
これはあくまで背景の「需要と供給」に関して言えばですが。
●クオリティ高い背景は無駄?
では、「クオリティの高い背景は無駄?」と思うかもしれませんが、全然無駄じゃないです。
ライトなものに比べ量産スピードが落ちる、というだけで、クオリティ高い背景を描けるに至るまでに積んだキャリアで得た「描くこと」に対する引き出しや応用力もあると思うので、むしろ能力の幅としては素晴らしいこと。
有能な人はクオリティを需要ラインに落として、その代わりスピードを速くすることもできると思います。
そして読者にも、心血注いだ背景により無意識化で作品自体のクオリティの高さを評価する部分に貢献しているのではないかと思います。
●クオリティには対価が必要。
アシスタントもやはりクリエイター。より良いものを作る、よく描けた時の喜びなどあり、無駄とまでは思わないし良い物を描きたい気持ちはあります。
僕個人的にはすごい背景見るのも楽しいし、「すげー!」って感動したりもします。すごい背景のクオリティを意識して読んでいなくても入ってくる空気感やリアリティがあるとは思います。
ただし描く側の「仕事」として考えると、そういう「かもしれない」部分に労力を注ぐのって相応の対価があってこそだと思うので、大変な背景を描いてもらう時はそれに見合った対価が必要だと思うんですよね。当たり前のことですが。
あと単純に、アシスタントが描いた背景を褒めてくれるのって漫画家さんかギリギリ編集さん(SNSがある今は稀に読者も居るかも)しかいないので、いい背景を描いてくれた時は褒めてあげてください。
Twitterでよく流れている、ファンの声が力になります、って言う漫画家さんと同じです。ただアシスタントにはその分母が漫画家と編集者、アシスタント仲間くらいしかない。
実際、僕も働いてる時に漫画家さんに褒められたり、編集さんに僕が描いたところとは知らず褒めてくださったときとかとっても嬉しかったし、いまだに覚えてます。
●今後の背景描きについて
話がちょっとそれましたが、クオリティ高い背景を描く人も時代に合わせてどう動くか、自分はどうすべきか、みたいなのを見定めないといけません。
ただ「ハイクオリティな背景が描けます」だけではなかなか厳しいのかなと思います。
クオリティ高い背景は描けるけど、時代に合わせて応用してくのはちょっと難しい…という人の唯一の望みは、超ベテランの先生のところで固定メンバーとして雇用されれば、割高な給料で雇ってもらえるかな…?と言うとこですかね。
割高と言っても相場と比べて、で、労働力に見合ってるかは別の話ですが…
あとは突き詰めるだけ突き詰めて、日本でトップクラスと言われるくらいのレベルになるか、この人じゃないと困る、という独特の背景を描くようになるか。
そこでの可能性に賭けるというのも、そうなるまでの間はどうするのか?など、なかなかリスキーだと思いますが、この辺はプロデュース能力が高い友人がいるか、セルフでやる能力が高ければやれるのかなぁくらいですかね。
●今からの人たちへ
とりあえず今から背景描く人たちは、ひとまずプロLv3~5辺りに到達できれば良いかなと思います。普通にアシの現場に入れたとしたら早ければ半年〜一年、長くても二年で十分読者側の需要は満たせる背景は描けると思います。
それと同時にそもそも漫画家志望であれば、背景はそんなに気にしなくても良いかなとも思います。
昔はアシスタント勤務することによって背景の上達ももちろん、あまり表に出ていない仕事場の作り方や仕事の回し方も学べて多少なりとも人の繋がりが出来るっていう、現場に居なければ得難い付加価値が大きいので、遠周りになってもプラスも中々でかいぞ、って感じでしたが、最近はデジタルで在宅で…となって来て、データで原稿も見れたり割と密にたくさんの話を聞けたりするので情報共有してくれる仲間さえ見つければ良いんじゃないかなと思います。
現在まだ漫画業界自体がそうであるように背景を描くという事(仕事)に関しても過渡期ではあるので確定的なことはないんですが、最低限のレベルで描けるようになってれば良いかなと。
さらにアシスタントの先の展開も考えてはいますが、長くなるのでここまでにします。
思ったよりも長文でゴールの見えないマラソンみたいになりましたが、ここで終わりです。安心してください。
読んでくださってありがとうございました。
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