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夫婦で歩くプロヴァンス歴史散歩#38/タン・エルミタージュ01

https://www.youtube.com/watch?v=S8hYEfm3yOY

ワイン屋歩きの後はホテルFac & Spera Hôtel et Spaに戻って荷物をpickupした。
大した荷物じゃないので、そのままゴロゴロと転がしながら歩いた。ローヌ川をマルク・セギャン橋Passerelle Marc Seguinで渡った。歩行者専用で幅は細い。
「せまくてちょっと怖い感じ・・」嫁さんが言った。渡るのに5分くらいだろうか?橋の真ん中あたりで、少し離れたところのクルーズ停泊場が見えた。
「リバークルーズが走っているの?」
「ん。VIKINGというクルーズ会社がフランス国内でリバークルーズをやってるんだけど、そこの波止場だ。パリから出て、14日間くらいでこの辺りをクルーズしてるんだよ。乗ってみたいなとおもってるんだが・・今度渡来してみるか?」無視された。
嫁さんはクルーズが大の苦手なのだ。二回ばかりチャレンジしたが、客室のベッドに思い切り耳をつけて「ダメ!エンジン音がは聞こえる!」と騒いでた。飛行機に乗ったってエンジン音は聞こえると思うんだが・・
橋を渡ってローヌ川際に走るマルク・セギャン通りを右に進むとすぐに戦争記念碑Monument aux Morts de Tournon-sur-Rhône(2 Av. Marius Juveneton, 07300 Tournon-sur-Rhône)の壁面が見えた。大きな塔を持つ壁面に掘られている。

「第一次世界大戦のための戦争記念碑だ」
「フランスは少し大きな町村へ行くと、必ず第一次世界大戦の慰霊碑があるわね」嫁さんが言った。
「欧州人が最初に経験した、産業革命で得た鉄と蒸気と電力を使用した大量殺戮戦争だったからな」
「殺戮も大量生産できるように機械化した・・」
「ん。機械を利用すれば、こんなに簡単に、かたっぱしに、なぎ倒すように、人が殺せることを証明した戦争だったからな。そして『王国から国家≫という名の大義名分が捏造されて、その御旗の許に町村から若者たちが次々と総当たり制に引きずり出されて、国家を守れという刷り込みをして戦地に赴かせた。そして若者の大半が故郷へ還れなかった戦争だ・・人類は、何度も何度も周辺の人々と戦争を繰り返した生き物だけど・・これほど大量に殺戮できる戦争は、この時が初めてだったんだよ」
「ほんとうに深い傷跡だったわけね」
「ん。それを2回も続けた」
「そんなに深い傷を負ったのに?」
「ん。機械戦争・総力戦という強力な魔力に、人は翻弄されてしまうんだ。心の闇から吹き出てくる"支配欲"にね。親兄弟我が子を生贄にして、勝利という飴玉が味わいたくてね。狂うんだ。
その結果・・第一次世界大戦の死亡者累計は約852万9000人。第2次世界大戦は約912万5000人だった。じゃあ、たとえばフランス革命はどうだったろうか?」
「1/10くらい?」
「いや・・1/20近い。約49万人。長い戦いだった30年戦争で40万人だ。普仏戦争で25万人。産業革命がもたらした機械戦争・総力戦争が、いかに桁違いな戦争だか・・よくわかるだろ?
・・シャブリの丘を歩いたときに言ったじゃん。貧しい村にとっても遺された人々にとっても深刻な事態だったんだ。大義名分で狩り出された若者たちは殆ど還ってこなかった。村は女子供と老人しかいなくなった。働き手を失って、それでも生きて行かなくてはならなかった・・」
嫁さんは無言なまま、レリーフの前に立ち止まった。
タン・エルミタージュのトゥルノン戦争記念碑は2つで構成されている。ローアン・スービーズ城擁壁のレリーフと、マルク・セガン岸壁だ。完成は1922年だった。その少し先のサン・ジュリアン通り側に観光センターOffice de Tourisme Tournon sur Rhône - Ardèche Hermitage(2 Pl. Saint-Julien, 07300 Tournon-sur-Rhône)ある。
「寄るの?」
「今は寄らない。あとでな。今はホテル入ろう」

サン・ジュリアン通りを道なりに曲がっていくと、右にポールスパン広場 Pl. Paul Sevinがある。ホテルはその奥に見つかった。
Hôtel de la Villeon(2 Rue Davity, 07300 Tournon-sur-Rhône)
http://www.hoteldelavilleon.com/

チェックインは15時だったが、受付を済ませると庭先に案内された。道路側から見る風景と違う豊かな自然に溢れていた。テーブルに座ってM.CHAPOUTIERのLa Combe Pilatebrut Nature2017を頼んだ。それとフロマージュを幾つか・・

「全然通り側から見た印象と違うのね。古いお屋敷の跡という感じ」
「ん。らしいな。19世紀の頃に建てられた指定を改装したものらしい。裏に見える丘にも葡萄畑はあるみたいだな。エルミタージュは、とても狭いAOCだ。割と緩やかな傾斜で段々畑になってる。地質は全般に花崗岩/片麻岩/風化した雲母片岩だけど、ローヌ川沿いは黄土で覆われた石の多い沖積段丘になってるんだ。この辺りの特異性は、この地質が狭い範囲で多様に分かれていることだ。赤ワインで使用されるセパージュは殆どシラーなんだが、土地の多様性がはっきりとワインのキャラクターに出ているな。白は、ルーサンヌRoussanneを使用している。もう少し奥にはいるとマルサンヌMarsanneだ」
「ルーサンヌってあまり聞かないセパージュね」
「そうでもない。シャルドネ以外の白じゃ割と開けてるよ。ドメーヌ・ド・フォンボノーDomaine De Fontbonau(Domaine de Fontbonau Lieu-dit Fontbonau, 26770 Montbrison-sur-Lez)とかね、ヴィオニエと合わせたものを飲んでる。
https://www.fontbonau.com/
ドメーヌ・デ・ルイDomaine des Louis(580 Chem. Champs Ratiers, 26600 Chanos-Curson)のブランとか・・これはクローズ・エルミタージュだ。
http://domainedeslouis.fr/
ヴィォニエ種だとドメーヌ・デ・レミジールDomaine des Remizieres(1459 avenue du vercors, 26600 MERCUROL)のvin de payは見つけると必ず買ってる。
https://www.domaineremizieres.com/fr/
花やかな白だ。夕食の時に頼んでみよう」


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました