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ボージョレー・ヌーボーの登場/beaujoLais nOuVEauに秘められたLOVE#15


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パストゥールの発見は、ワイン製造に新しい手法と技術を大量にもたらしました。その一つがマセラシオン・カルボニックです。
1935年、ナルボンヌのフランジィーが無酸素密閉状態にして葡萄果汁を急速にワインにさせる技術を開発しました。これがマセラシオン・カルボニックです。その手法について、簡単に触れたいと思います。

先ず密閉タンク内へ果実の形のまま、除梗せずに投入します。この果実のまま・除梗するというのがキモです。
閉じ込められたタンクの中で、葡萄は自重で破砕し果汁内の糖が酵母菌に触れます。酵母は酸素が有るときは、自分の子供を作りますが、無酸素だと糖をアルコールと炭酸ガスに分解するだけになります。その発生した炭酸ガスが上に重なっている葡萄を圧力で押しつぶします。押しつぶされた葡萄は、前段と同じ行程を誘発する。これがタンクの中で繰り返されます。
こうしてアルコールが作られるわけですが、このとき同時に果汁中に含まれているリンゴ酸もエタノールに変化してしまいます。これがこの醸造法の重要な部分です。
早摘みの葡萄で作ったワインが何れも酸っぱいのはリンゴ酸のせいですが、二酸化炭素が充満して無酸素状態のタンクのなかでは、リンゴ酸も分解されて特有の酸っぱさが消えて、爽やかな口当たりの良いワインになってしまうのです。同時に果皮に含まれている赤い色素アントシアニンがガス圧で抽出されて、美しい赤い色がワインに付きます。
こうやって、ほぼ8日ほどでボージョレー・ヌーボーが出来上がります。

現在は、もう少し技術改良が行われており、生産者は以下に挙げる三種類の技法の何れか、あるいは混合でヌーボーを生産しています。
一番伝統的なのがマセラシオン セミ カルボニック炭酸ガスセミ浸漬法
先ず密閉タンク内へ果実の形のまま、除梗せずに投入します。そしてその発酵によって発生した炭酸ガスだけを利用して浸漬させる。通常、この方法だと20~25度の温度で5~6日間程度でワインが完成します。自然の力に委ねる方法です。残念ながら手間と時間がかかるので、現在では殆んどの生産者はこの方法を採用していません。敢えて名前を挙げるならば、シャトー ド ボアフランですね。

これに次ぐ方法として、所謂マセラシオン・カルボニック(炭酸ガス浸漬法)があります。
先ず密閉タンク内へ果実の形のまま、除梗せずに投入します。そして密封する前に酵母を加える。密封後、二酸化炭素を注入。強制的に発酵させる。この方法だと、2~3日で果汁はワインに替わり、出荷できるのです。現在は、この方法を使う小農家が多いですね。 

大手生産者は、もう少し手っ取り早く作ります。マセラシオン・ア・ショー(高温浸漬法)です。
先ず密閉タンク内へ果実の形のまま、除梗せずに投入します。そして高温の蒸気(約70度)で2~3時間加熱。これで葡萄の果皮についていた天然酵母を死滅させてしまいます。死滅後、発酵のために改良された酵母を加える。同時に加糖シャプタリザシオンChaptalisationする。加糖すると酵母はこれも分解してアルコールにするので、時間をかけなくても既定のアルコール度数になるのです。そして果皮細胞も、人為的に破壊し、色素が出やすいようにします。 こうして2日間ほどで、ヌーボーが大量生産できるわけです。
しかし出来上がったワインは、伝統的なボージョレー・ヌーボーとは似て非なるものになります。それでもこの方法を大手が利用しているのは。製品の品質が一定であり、大量生産が可能だからです。

ボージョレー・ヌーボーは、流通業者も広告屋も販売店も巻き込んだ巨大産業です。すべてのシステムが確実に、着実に機能しなければ11月の第3木曜日に店頭へ並べるのは不可能です。まるでクルマやiPhoneのように、綿密に計算されたスケジュールの上で、製造され業者の手を通って消費者の許へ、決められた日に届けられることで商品的な価値が維持されている商品なのです。

実は、伝統的なマセラシオン・カルボニックは、絶妙なバランスの中で出来上がるワインなのです。発酵温度が高くても低くても良いワインにはならない。かなり熟練の要する醸造法です。失敗も多々ある。比してマセラシオン・ア・ショーは、機械化が可能で熟練職は殆んど必要としない。つまりマセラシオン・ア・ショーだからこそ、こうしたフォードが発明した、流れ作業的高機能・高安定供給が可能になるわけです。
これが僕がマセラシオン・カルボニックで作られるワインを"農業ワイン"。マセラシオン・ア・ショーで作られるワインを"工業ワイン"と揶揄する理由です。

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました