霧の谷間アンダーソンバレー#02
さて。このアンダーソンバレーという地名ですが、これは初期移民者だったウィリアム・アンダーソンの名前にちなんで名付けられたものだそうです。彼は木材の伐採を生業とする東欧からの入植者でした。
1869年、最初の大陸横断鉄道が開通したことで、続々と新移民が東海岸からカルフォルニアを目指してやってきました。Thomas Hiattという人物が1877年に現在のBoonvilleに近い蒸気動力の最初の製材工場を建設しています。
記録によると1880年には、およそ1,000人の人口が定住し、75,000頭の羊と2万頭の牛を飼っていたとあります。
しかし現在では、畜産業/伐採業はアンダーソンバレーの中心産業ではなくなっています。いま、同地域をリードしている主たる産業はワイン製造です。特に前出のロデレール・エステートとレイジー・クリーク・ヴィンヤードがリーディングカンパニーで、他にも約40の生産者が林立しています。
こうしたワインブームは、1980年後半からロイレデレールが同地でスパークリングワインの製造を開始したことで始まった現象でした。同地が、ピノノワール/シャルドネに適正な土地であることに、西海岸のワインメーカーが全く気が付かないまま100年放置されていたこと・・僕は却ってその事実に強い関心を抱いてしまいます。
主要なワインイベントは、前出2月下旬の国際アルザス品種フェスティバルと、5月の第3週目に開かれるピノノワールフェスティバルです。
今回、当店でお出ししているピノ2種類は、同大会で常にきわめて高い評価を受けている生産者の名品です。ぜひお楽しみください。
▼Lichen Estateについて
2000年創立のワイナリーです。2005年にはBreggo Cellarsを設立し、ここが生産するピノグリ(2006)はロバート・パーカーが「新世界でこれまでにない最高峰!」と評価しています。またフード&ワイン誌が、同生産者を「2008年のベスト・ワイナリー」が選んでいます。
ブレゴメンドシノ郡史上最高のワイナリーです。
Lichen Estateは2008年から生産開始。ピノ・ノワールとピノ・グリスを中心に取り扱っています。
ナパ・ピノらしからぬ名品を作り上げる生産者です。
▼Handley Cellarsについて
メンドシノ郡にある家族経営の小さなワイナリーです。1982年創立。年間約12,000本のワインを生産しています。主要品種は、ピノノワール/シャルドネ/リースニングです。
今回のワイン会では、同生産者のピノノワールとリースニングをお出しします。
▼メンドシノ郡について
同郡は、アンダーソン・バレーの栽培者に加えて、内陸部の谷と山頂部でブドウを栽培する小規模農家が少しずつ伸び始めています。彼らはSyrah、Zinfandel、Petite Sirah、Carignaneなどに挑戦し、いくつかの成功例を出しています。しかし残念ながら醸造設備を持つまでには至らず、他農家へ生産した葡萄を納めるという位置で甘んじているというのが現状です。
一歩下がって、アメリカ西海岸ワインを見つめると・・
その、ワインの絶対生産数と単価、生産者数を比べて見ると・・80%は20%の生産者によって作られており、廉価商品がボリュームゾーンの中心です。一方、残80%の生産者が作っているワインは全体の20%程度で、単価は前者に比べて格段に高い。その生産者たちですが、高い志を持っている方が多く、高品質なワインを生産しています。
こうした80%の生産者たちが、細々と作るワインが「カルトワイン」と呼ばれている理由はここですね。そう考えて見るとやはり、カルフォルニアを含むロッキーの西側は、一部生産者を除いて相変わらず伝統的に、現在でも「安酒の里のまま」でいるということでしょう。
アンダーソンバレーのワインは、まさに「カルトワイン/高付加価値商品」の典型です。
こうした80%の生産者たちが作るアメリカン「カルトワイン/高付加価値商品」の特長は三つです
①美味しいが高い。
②大して美味しくないが希少価値で高い。つまり事業効率が悪い。
③しかし北アメリカという巨大なマーケットの懐内にあるので「高付加価値商品である」というラベリングが機能してしまう。だからそこそこ売れてしまう。
アメリカマーケットにおけるカルフォルニアワインが占めるパーセンテージは、ほぼ90%です。そしてその80%が廉価な安酒です。残りの20%が所謂カルトワインです。にも拘らずマーケットサイズとして見ると、十分ビジネスが成立してしまうほどの大きさだということは、さすがだと思います。
無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました