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夫婦で歩くプロヴァンス歴史散歩#26/ヴァケイラス#02

https://www.youtube.com/watch?v=wuVUEOyfvGI

ドメーヌ・ド・コユーDomaine de Coyeuxを出て、ムシュJのクルマはグラン・ネンミライユ通りを西へ走った。しばらくすると道は灌木の雑木林に入った。そして再度、クルマは灌木の茂みの中に包まれてしまった。立ち上がる勾配を覆う低木な広葉樹の森だ。道路は舗装されているが、状態は良くなかった。それでも徒歩ではなく車両の利用を考えているのだろう。道は大きく何回も迂回しながら山の中へ進んでいた。
「ヴァケイラスやサリアンスは旧い村だよ。フランスよりも旧い」
「新石器時代から?」
「ん。まだ民族ともいえる分化が起きる前からだ。
ダンテル・ド・モンミライユの山塊は、まるで両手を広げるように幾つもの丘陵を持ちながらローヌ川へ拡散しているだろ?」
「ええ」
「ヒトらが早くから此処で暮らすようになった理由は、おそらくこの連なる尾根のせいだろう。捕食の頂点に立つ前のヒトらは、生存を保持するために尾根の間で生きていた。天敵から自分と家族を守るために森の茂みや断崖絶壁という障害はとても大事だったんだ」
「ラスコーへクロマニオンの住居を見に行ったときにも言ってたわよね。ヒトは頂点捕食者apex predatorになる以前に拡散した・・って」
「ヒトは数万年かけて、北アフリカから尾根を伝わって、じっくりと家族を守りながら拡散したんだ。そしてダンテル・ド・モンミライユの山塊に達したとき、ヒトらは、尾根の狭間が指のように広がる間へ営みの地を作り上げたんだ。森に包まれながらね」
国道はこれらの森を迂回しながら村々を繋いでいる。僕がムシュJにお願いしたのは、ダンテル・ド・モンミライユの麓に点在する村々を訪ねるのに平地を迂回せず麓を抜けることだった。

「ダンテル・ド・モンミライユの山塊を形作ってるリスの沖積土壌と氷河段丘は、風雪に侵食されると骨を晒す屍のように硬質なそして巨大な石灰岩の塊を剝き出しにする。ウヴェーズ渓谷へ向かって小さな丘や段丘に、奇異な形の奇岩を幾つも湛えるのは、その地質のためだ」
「その石灰岩の小石が、シャトーヌフ・デ・パプみたいに、この地方のワインの風味を作り上げているの?」
「ん。そのとおり。葡萄はグルナッシュがとてもよく合う。だからジゴンダスもヴァケイラスもベースはグルナッシュなんだよ。でも両者ともシャトーヌフ・デ・パプみたいに石で出来た畑の中にある葡萄じゃない。ダンテル・ド・モンミライユが崩れて出来上がった丘陵だからね、砂質粘土質の部分が多い。麓を下ってローヌ川に向かえばとくにその傾向が強い。それがジゴンダスやヴァケイラスをシャトーヌフ・デ・パプをタンニン感満載にしないでいると思うね。
・・それと、もう一つ大きな要因がある。とくにダンテル・ド・モンミライユ山塊丘陵麓にはね」
「なにそれ?」
「1300年代にオランジュ公がワインの生産を奨励したとき、彼のアタマに有ったのはグルナッシュじゃない。ミュスカデなんだよ。彼は呑みやすい甘いワインを奨励したんだ。」

ムシュJのクルマがゆっくりと下り坂になった森の間を降り始めていた。彼が言った。
「すぐ左手にラヴァン・ド・ロック・ラスカスRavin Roque Rascasseがあります。もしご覧になりたければ、いちど森から出たところで、他の細い林道を通ればたどり着けますが?行かれますか?」
「いや。このままヴァケイラスの村へ向かってください」
「了解しました。それとご提案なんですが、わたしの友人夫妻が直ぐ傍でワイナリーを営んでます。よろしければご紹介したんですが如何ですか?」
これは喜んで請けた。
ドメーヌ・ヴォベルDomaine Vaubelle(990 route de montmirail, 84190 Beaumes-de-Venise)という。
https://sites.google.com/view/domainevaubelle/accueil
グラン・ネンミライユ通りから左に入った道の行き止まりにある。ムシュJが唐突に訪ねたがオーナーご夫婦(Georges&Marcelle Lesbrosさん)は歓待してくれた。
「食事へ行く前なんだ」とムシュJは言ったようだ。ご夫婦は大きく頷いていた。お二人が我々に何か言った。ムシュJは笑っていた。
「私がお客さんを連れてくるときは、いつも慌ただしい・・とのことです」
「お忙しいのに申し訳ないです」僕が言うと、ご夫婦が肩を竦めて笑った。
醸造所を簡単に越せていただいた後、自宅の居間でティスティングをさせていただいた。
ここもやはり秀逸なのはミュスカデだった。あまりの美味しさに嫁さんが感嘆の声を上げていた。facebookをお持ちらしい。
https://www.facebook.com/DomaineVaubelle


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました