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ボルドーれきし ものがたり/2-6 "多民族都市へ"

人工都市ボルドー/ブルディーガラは、二つの民族①ケルト人(ガリア人)と②ローマ人(ナルボンシスの商人)が拠り合う町でした。二つの言語と二つの文化が折り重なって成り立っていた。出自からボルドー/ブルディーガラは"互恵"を基盤とする商人の町だったのです。

そしてもう一つ。特徴として挙げられるのは、ボルドー/ブルディーガラが多民族都市だったことです。

北からやってくる①ケルト人を、ひと括りで「ケルト人」と呼んできましたが、大きな流れは⑪ブリテン島からケルト人と⑫フランス内陸部のケルト人に別れていました。彼らは"同族"というのはあまりにもかけ離れていた。言語的にも独立しており、ブリテン島の鉄器文明とフランス内陸部のケルト鉄器文明(ラ・テーヌ文明)は異質のものです。埋葬法とも全く違う手法で遺体を葬っています。

一方、②ローマ人(ナルボンシスの商人)の大半は退役軍人で、兵役によって市民権を得た異民族/非ラテン人でした。多くはローヌ川周域のケルト人そしてもっと東に台頭したゲルマン人だった。彼らはラテン語を話しローマの市民権を持っていましたが、国家としてのローマへの帰属感は希薄だった。

同時にアタマに入れておくべきことは、交易にやってくる①ケルト人は所謂"ケルト的"ではなかった・・ということです。ケルト人文化は、原則的に略奪/略奪文化です。交易する/商売するという感覚は持ち合わせていない。相手が弱ければ征服/蹂躙し、同族内だけの繁栄を望む人々です。

そのケルト人が何故、交易に来るのか?それはワインを得るためです。ワインはアルプスの南側ローマの支配地でしか作れません。もともと飲酒の習慣があまり無い(蜂蜜酒/粗製なビールは有った)彼らは、ワインを知るとコレを熱望しました。ケルト人の僧ドイルドたちは飲酒を忌み嫌っていた。しかしワインの味を知ると、ケルト人たちは挙ってワインを欲しがったのです。

ニーズが有ればシーズは生まれるものです。ケルト人の中に(ケルト的でない)仲介者/商人が生まれたのは、まさに必然だと云えましょう。

そして、このケルト人商人たちは大金持ちになって行った。略奪/戦争によって富を得ていく王族/貴族に比肩するほど富を持つ者になっていったのです。彼らは戦争を望まない。ひと度戦争が起きれば、せっかくの蓄財が雲散してしまうからです。それもあってケルト人側商人もまた、陸の孤島/三方を険しい山で囲まれ、広大な沼地の中に浮かぶボルドー/ブルディーガラを蓄財の地/定住の地として愛したのでした。

町が、ガロンヌ川の畔モンジュックの高台に、大きく広がり始めると、主産業(水運を利用した交易)に付帯する様々な職業に従事する人々も増えて行きました。

中で最も多かったのは荷役労働者ですが、次いで増えたのは、船の修繕に関わる様々な職人たちです。帆船の布、船の部品、冶金職人、大工等々、専門職人がこの町に定住するようになったのです。そして同時に、町として機能するための様々な職業に従事する人々。彼らが妻子を伴って移り住んで来ると、町は一挙に多民族化しました。当時は、いずれの専門職も地域性が強かったので、船大工はフェニキア人、冶金はケルト人、パン職人はギリシャ人、会計はローマ人という感じで、職業に民族性が大きく関わっていたのです。それはやはり糧の手段である技術継承が、流出を防ぐため機密性高く、常に家族間/同族間でのみで行われてきたせいでしょうね。

こうしてボルドー/ブルディーガラは、ラテン人、ギリシャ人、フェニキア人、ケルト諸民族、ゲルマン人と・・さまざまな民族が溢れる町になっていきました。

共用語は、ラテン語とケルト語です。しかし家庭に帰れば、彼らは自分たちの言葉を話し、自分たちの文化/生活様式を守ったはずです。

まさにボルドー/ブルディーガラは、世界最初の人工都市/商業都市、人種の坩堝ならではの共存共栄都市になっていったと云えましょう。

・・もうひとつ。おそらく荷役労働者の大半は、つまり同地に暮らす人々の大半は、盆地に面した地域に暮していたアキタニア人だったのではないか?と僕は考えています。彼らの中には、遥かラスコーの洞窟へ繋がる先住民の末裔が多く居たに違い。そして彼らを通して、同地の新石器人たちの血は、そのまま奥底に深く沈んでこの地に残ったのではないか?僕はそう考えてしまいます。 

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました