見出し画像

はじめ口先ジャズフアンあとは首までどっぷり漬かる

子供のころは音楽なんか全く興味がなかった。ガッコの帰りに大声でみんなと一緒に歌うのは春日八郎の「お富さん」だったし、三波春夫の「チャンチキおけさ」だった。ンで、それが赤胴鈴乃介に続く。これを合唱しながら毎日帰校していた。あとは「田舎ぁのバスは♪おんぼろクルマ♪♪」あたりかなぁ。熱唱してた。

そのころ僕が通っていた佃島小学校は、西仲商店街一番に有ってね、ウチは元佃だったから、佃堀にかかっていた木の橋を渡って帰宅してた。ンで、興が乗るとその橋の真ん中に立ち止まって隅田川に向かって皆で合唱するんだ。声を限りにね。
死んだはっずだよ♪ おっとみさんン♪
生きていたとはぁ♪ おしゃっかさまでも♪はぁ
知らぬホトケの♪ おっとみさん♪
エッーサオーォ♪ げんやぁだな~♪

歌の中に出てくる「粋な黒塀に 見越しの松に」のところは、ずっと「いきな黒兵衛に 神輿の松に」だと思ってた。そうとう大人になるまでそう思ってた。

ところが。中学へ行くと事態は一変した。中央区は中学校の科学クラブというのがあってね、毎週土曜日はこれに行ってたんだ。そこで出会った女のコとデートするようになった。その子がね、イヌ猫病院の娘でね、ピアノを習ってて、その子に言われたんだ「音楽はなにがすき?」まさかエット春日春夫を毎日熱唱してまスとは言えなくて「え・えっと・・バ・バッハ」と知ってる名前を言っちゃった。「ポップスは聞かないの?」と重ねて言われて「ジミースミスがすき」と思わず言っちゃった。「だれなのそれ?」「ジャ・ジャズのひと」「へぇ~そうなんだ。」
さあ、こまった。そう言っちまったから、焦ってデートの帰りに銀座のヤマノ楽器で、バッハの10inchとジミースミスのEPを買ってきた。売り場のお兄さんの言うがままに買ったんだけどね。
なぜそのとき、とっさにジミースミスって言ったかと云うと、ラジオ関東で「昨日のつづき」という番組をやってて、これを聞いていたからだ。大橋巨泉・前田武彦がパーソナリティだった。青島幸男や佐野洋、はかま満緒なんかが出てたな。「今日の話は昨日のつづき、今日のつづきはまた明日」っていうのがキャッチフレーズで、よくジャズの話をしてたから、その受け売りで口走っちやったんだ。
実は、それが僕のJAZZのことはじめ。

そのとき買ったのが。というかヤマノのお兄さんに買わされたのが「The CAT」。うちでかけてたら、用事から帰ってきたオフクロがびっくりして言った。「あら、ジミースミスじゃない。お前、こんなの好きなのかい?」
オフクロがジャズ好きなのは、その時はじめて知った。
「へぇ~」感心されてしまった。
アトで、このイヌ猫病院の娘とビートルズを武道館へ見に行くのだが、そのときに母に冷笑されて「およしよ、そんなもんに行くのは。マイルスが来るのよ」と言われて、マイルス・ディヴィスの来日コンサートに連れて行ってもらった。しかし・・なんだかよくわからないってぇ点では、ビートルズもマイルスも何ンだかよく判らなかった。
ンで。よく判らないといえばトドメはコルトレーンの来日コンサートで、オフクロに「行くわよ」ってぇ連れてかれたンだけど。こいつはブースカピースカやってるだけで、真剣に何が何だかよく判らなかった。
あのときくらい「JAZZが好きだ」と言ったことを後悔したことはない。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました