見出し画像

夫婦で歩くブルゴーニュ歴史散歩おわりに/フランスとイタリアのワイン。祈りと願い

https://www.youtube.com/watch?v=mLmUPREbDXI&t=765s

ボーヌにいます。ホテルは僕が好きなLe Central Boutique-Hôtel(2 Rue Victor Millot, 21200 Beaune)です。テラスでワインを頂いてる。相変わらず嫁さんと二人です。
「シトー修道院にもクリュニー修道院も自分の畑は持っていなかったの?シトーのショップセンターで売ってたのラングドックだったわ」と嫁さんが白ワインを呑みながら言った。
「シャトー・ド・シトーもシャトー・ド・クリュニーもブランドとしてはあるよ。とかしあの二つが残した畑はない」僕はパテ・ジャンボンをツっいてる。
「でも前にシャトー・デ・シトーというワイン、買ったこと有るわよね?」
「ブランド名としては、Domaine Cluny(9 Rue du Rapitot, 21220 Brochon)というのがある。
https://www.domaine-cluny.com/
ここはオーナーの名前がClunyという名前だ。畑はブランソンにあるよ」
「クリュニーの修道僧なの?」
「いや、ちがう。でも良い白を作る生産者だ」


「シャトー・ド・シトーはPhilippe BouzereauがCH. DE CITEAUXというのがある。これはムルソーだ。
ここも良い白を出してる。クレマンも良い」
「え~シトーもクリュニーも葡萄畑はなかったの?」
「あった。あったけど、修道院が解体したとき、小作人たちに分配されたんだ。だからいま二つの修道院に冠した名前は此処には何ない。

Domaine ClunyもBouzereauがCH. de Citeauxももっと北の畑だ」
「なるほどねぇ、シトーやクリュニーの本院が管理していた畑に、その名前は使わなかったのねぇ」
「だな。致し方ないだろうな」
「でも、ガリアで葡萄畑を作ったのは修道士たちでしょ?」
「ん。先例は有った。ローマ人たちがワインのための葡萄を持ち込んだからな。でもローマが滅びたことと東からの蛮族の侵攻が酷かったことで500年代は大半が荒廃にまかされていたんだ。確かにそれを復活させたのは修道士だったし、新しい土地を開墾したのも彼らだ。彼らの強い信仰心が無かったら今のブルゴーニュはなかったろうな」
「でもなんでローマ人がいなくなると、ブルゴーニュのワインは荒廃しちゃったの?イタリアもそうだったの?」
「いいトコつくな。イタリアは自然増殖するんだ。畑の監理がされなくても葡萄は枯れない。暖かいからね。アルプスより北は、そうはいかない。手間暇かけなけりゃ枯れちまうんだ。いくら耐寒冷種でもな。だからフランスの場合、ワインのための葡萄の栽培は精魂込めてやらないといけない。
そのワインの性質が、イタリアとフランスのワインの性質そのままに出ているのさ」
「あ・・イタリアワインの悪口になりそ」
「そんなことない。手間暇かけないと枯れちまう葡萄と、手間暇かけないとクオリティが維持できない葡萄の差だ。・・実はこの差は大きい。僕はいつでもフランスワインは、北の日差しを浴びた香りを感じる。しかしイタリアにそれはない。光を豊富に浴びた真夏の光の香りのワインだ」
「なるほどねぇ」
「北で・・本来は温暖種の葡萄が育つはずのないところで・・葡萄を植えて・・丹精込めて育て熟成させ、そしてワインを作るという・・超人的なことが出来たのは、信仰という強い衝動心を持った修道士だからなんだよ。王から渡された原野に泉を求め、ゼロから開墾し葡萄が撓に実るまで如何ほどの苦闘が有ったか・・考えるだけでも畏敬を抱く。・・実は当初の修道士は平均寿命が短かった。一説によると25歳前後だったという」
「そんなに!」
「人跡未踏の原野を掘り起こし、まったくゼロから始めたんだ。各地で領主から与えられた地で、開墾を司った無数の人々が、当然のように過労死したんだろな。それが強制ではない。奉仕だ。献身だ。信心の力だ」
「ほめてないでしょ?その言い方」
「そんなことない。生きることの目的が幸せの追求ならば・・そして献身から幸せを見出せるならば・・その生き方もあるだろう。否定することではない。しかし・・そうやって作り上げられた組織が本格的な機能し始めると、あとから入った連中はいとも簡単に腐乱する。それがヒトだ。それを考えてしまうな。それでも・・・献身から無類の幸せを得て亡くなった人々に、あとからその成果をネタに腐敗した輩が生まれたとしても関係はないんだろうな」
「つらいことばね」
「でもヒトはスパイラルに進化する。"産めよ増えよ"という言葉の意味を僕らは考えてみるべきかもしれない。産み増えれば・・必ず囚人のジレンマは超えられるんだ。人をヒトとして見るとき、人類は完ぺきに進化する道を辿っている。進化の袋小路に入っていない。それを誇るべきだろう」
「なんか難しい話になっちゃったわね」
「アンリ・ジャイエの甥っこさんのところへお邪魔したとき、彼が言ってたろ。わたしの生活は、わたしの父母が作ったワインを売って糧を得ている。わたしがいま作っているワインは、私の子供たちの生活を支えるんだ。ワインで生きるということはそういうことだよ・・と」

「ええ、すごく感動したわ。あの時に樽から飲ませていただいた、お父様が作ったワインがとても美味しくて忘れられないわ」
「ワインを、良いの悪いので選ぶのは不遜だ。ワインは人の"思い"だ。神の意志で/天候で、良いときも悪いときもある。そんなことも何もかも越えて、作った人々の心を/ワインを嗜むということ。それがワインという文化にengagementすることなんだよ。
だから僕は、これと決めた人のワインは45年以降のすべてを呑む」
「ははは、なんてお金のかかる遊びなの♪あカネのかかる遊びしてる言い訳にも聞こえるけどね」
「すいません」


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました