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ボージョレーの迷走/beaujoLais nOuVEauに秘められたLOVE#22


ヌーボーの最大輸入国である日本でも、現況は惨々たるものです。ジョルジュ・デュブッフと早くから手を組んでいたサントリーの取扱量は、ピーク時の半分以下に落ち込んでいます。ナンバー2,3のイオン、メルシャンも同じような状態です。

昔は、毎年11月第3木曜日の0時まで、ヌーボーは税関を通れませんでした。だから流通業者は解禁イベントを成田空港で開催し、これにメディアも有名人もヤマのように集ったのに、今はそんな勢いは欠片もありません。

現在、フランス政府からの要請で「春のボージョレー」の広報も、かなりの金額をかけて実施していますが、結果は芳しくない。早晩、国内輸入業者は、他のワインとの抱き合わせで無理やり買わされるのではなければ、仕入れ量を極限まで絞るようになるでしょう。この、まさに生存の危機に。ボージョレーを束ねている人々はどう対処するつもりなんでしょうか。すでに廃業する農家が幾つも幾つも出てきているのです。


さて。ここ数年、とても面白い現象が起きています。 シャルドネを栽培する生産者が、ボージョレー北方地区に急増しているのです。ガメイ種が売れなければ、シャルドネ種を植えるという苦肉の策ですが、急増しています。

もともとマコンがシャルドネの生産地なことも有って、それを倣ってボージョレー・ブラン(Beaujolais Blanc)を片手間に作る生産者は、ボージョレー地区にもいたのです。しかし主たる目的は地産地消でした。それが、他所で販売するためのシャルドネ=白ワインの生産へシフトしているのです。陰にいるのはブルゴーニュのネゴシエーター、メゾン・ボアッセです。


メゾン・ボアッセは、デュブッフに肩を並べるボージョレー・ヌーボーの巨大流通業者です。ニュイ・サンジョルジュに本社を置くブルゴーニュの会社で、土地の者ではない。

彼らの組織は強大で、シャブリから南へ、ブルゴーニュ、ボージョレー、ローヌまでソーヌ川沿岸・ローヌ川沿岸のワインをすべて扱っています。また特筆すべきは、彼らの北アメリカでの動きです。メゾン・ボアッセは、南カルフォルニアと東海岸ニューヨーク州のフィンガーレイクに広大な土地を取得し、ワインの生産を始めていることです。
グローバルな視点と先進的な発想を持った企業です。彼らが、この新しいボージョレーの農家の挑戦を早くから受け入れているのです。

農家側から見るならば、作れば売れる環境が整っているわけですから、悪戦苦闘するしかないガメイ種から、シャルドネにシフトするのは致し方ないことだと云えましょう。


地図をみると判るのですが。現在、ボジョレーはブルゴーニュの一部になっています。面積で云うとブルゴーニュ全体の3分の2はボージョレーです。つまりこれをブルゴーニュのネゴシエーターから見ると、まさに此処はまだ「未開なまま」の地域なのです。

実は、もうひとつ大きな問題をはらんでいます。それはボージョレーの生産者が今、自分たちの作ったシャルドネ種の白ワインを「ボージョレ・ブラン」と名乗らなくなっていることです。彼らは「ブルゴーニュ・ブラン」と云っている。もちろんそこに法的な問題はありません。ボージョレー地区は間違いなくブルゴーニュ地域の一部ですから。彼らが自分たちの作ったシャルドネを「ブルゴーニュ・ブラン」と呼ぶのは嘘でも何でもない。しかし慣習的に、ブルゴーニュとボージョレーは別物です。歴史も違う。

そんなことは百も承知で、ボージョレーの生産者は自分たちの作った白ワインに「ブルゴーニュ・ブラン」という名前を入れているのです。背に腹は替えられぬ・・ということでしょうか。

こうした動きについて、新しい競合者の登場と見做して、ブルゴーニュワインの組織団体BIVBは、名称使用差し止め裁判を起こしました。現在、その裁判が内部的問題であるBourgogne Roougeの使用についてまで広がりそうになっているので、BIVBは最終的な判断をINAOに委ねている段階です。INAOは、アベラシオン・原産地呼称を管理している団体です。

フランスのワイン業界は今、グローバル化の嵐に飲み込まれています。ワインはフランスが一番!という時代は、とっくの昔に去っています。もしフランスのワイン業界が旧泰然のままでいたら・・・ボージョレー地区だけではなく、全てのフランスワインの生産地は、回復不能までの危機に陥ってしまうでしょう。

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました