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甲州ワインの謎#03/大陸からの入植者ラッシュ

ヨーロッパ種の葡萄である「甲州種」をいつ誰が何処から此処へ持ち込んだのか?思い切り想像の翼を広げてみようとたくらんでいるのですが、その前にやはり「渡来人」について言及する必要がありますね。

「日本へ渡って来た人/渡来人」です。帰化人という新造語もありますが、ここは"渡来"という古い言葉を使いましょう。"帰化"という言葉の裏には、帰化した先の国は文化豊かだったというニュアンスがある。2000年前の日本を考えると、やはりこの"帰化"という言葉は相応しくないと思ってしまいます。

さて。日本にヒト類が棲むようになったのは第四氷河紀の更新世の終末から完新世初頭のようです。
1万6000年くらい前です。当時日本は大陸と陸続きだったので移り住んできた・・というのが従来から学説なんですが、どうやらこれは間違いらしい。津軽海峡/対馬海峡は、氷河時代最寒期でも残っていたことが判ってきています。つまり、ヒトの時代になった時には、もうすでに日本は島になっていたのです。とすると・・日本へ渡って来た旧石器人は、舟を操る人々だった。もちろん、そんな"舟"が出土するわけもないのですが、旧石器人たちが使った石器の中に伊豆諸島・神津島産の黒曜石が発見されていることから彼らが渡海する技術を持っていたことは間違いないとすべきでしょう。彼らが縄文人の祖形になっていったわけです。
そこに弥生人と呼ばれる人たちが入植してきた。近年の研究により、その入植はBC1000年頃からはじまったと見られています。前期弥生人はBC800年頃から、中期弥生人の入植はBC400年頃か、後期はAC50年頃ではないかと言われています。
いわゆる弥生人と云われる入植者たちは単一民族ではありません。稲を持ち込んだ人々は、中国大陸(朝鮮半島を経由したグループもあった)から来たのですが、他にも島沿いに南下してきた原ポリネシア人(隼人)そして中国東北部にいたツングース系のグループなどがあった。彼らとの混血あるいは征服によって、原日本人は構成されていったようです。
と、ここまでが考古学的な話です。
古墳時代に入っての「渡来人」の話をするには史誌に触れることになります。

古墳時代、日本は大陸からの入植者ラッシュになります。とくに朝鮮半島からの入植者が唐突に増える。原因は朝鮮半島で始まった戦乱です。半島内にあった高句麗/百済/新羅/伽耶が戦争を始めてしまったからです。もちろん裏には中国王朝がいます。もともと朝鮮半島は新石器時代までノーマンズランドでした(寒すぎて旧石器人は半島を南下できなかった)朝鮮半島の新石器人は原ポリネシア隼人の民が主体でした。そこへ中国王朝の傍系が流れ込んで帯方郡/楽浪郡の形成を経て立ちあがったのが高句麗/百済/新羅/伽耶でした。出自から近親憎悪的な感情があった。
こうした戦乱に追われて、紀元500年代半ばに伽耶が国ごと日本へ移住しました。続いて660年百済滅亡とともに百済人が渡来。668年には高句麗が滅亡し、彼らもまた日本列島へ避難してきています。
もちろんこうした経緯は、日本側の史誌にはない。すべて大陸側の史料です。
日本の古代史を史誌から考えようとすると必ずぶつかるのは、中国の史書と違って書かれている時代の王朝が、自らの手で書いたものだという壁です。日本の天皇家は長く続いています。したがってその真偽を正す別王朝が存在しません。わずかに手繰れるのは、元明天皇が諸国に編集を命じて作らせた風土紀だけ。あまりにも傍証となりうる資料が少ないのです。
うのみにするか、無視するか。あるいは欲しいとこ取りするしかないのが日本の古代史です。それでも手さぐりしながら渡来人について、日本側の史料を探ってみましょう。

たとえば『続日本紀』にこんな記述があります。
「天平八年(七三六年)一月、聖武天皇は中臣朝名代に従五位下を授け、遣唐使の随員たちの労をねぎらわれ、唐人皇甫、波斯人李密医らに位を授け」とあります。
日本書記にも渡来人について書かれている部分が有り、同書では渡来人を「古渡才伎と今来才伎」に別けています。面白いですね。つまりわざわざ「今来た」渡来人と「古く渡ってきた」渡来人を分けたのは、二つの潮流がまったく別物だったからに違いありません。
飛鳥奈良時代、河内国の古渡才伎/今来才伎は、古市郡では十二氏のうちの八氏が今来才伎、高安郡で十八氏のうち十二氏が、安宿郡で八氏のうち六氏、交野郡で十氏のうち八氏、讃良郡で八氏のうち六氏・・つまり河内国に住んだ計六十八氏の渡来人のうち70%が今来才伎だった。この国の中枢を握ったのは今来才伎だったわけです。彼らのデバイスがかかった書紀が、古渡才伎と今来才伎を書き分けるのは至極当たり前な話なんでしょう。

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました