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石油の話#12/はみ出し・アメリカの唱える"民族の自由と尊厳"ということについて

旧オスマン帝国の一部だった、月と砂漠とラクダしかなかったアラビアが"大地の血"ともいえる石油がにじみ出る場所であるとわかると、砂漠は吸血鬼のような欧州/米国が跋扈する地になった。
第一次世界大戦/第二次世界大戦を通して所謂「赤線地帯」アラビア半島は全て、吸血鬼らが"大地の血"石油を思うがままに吸い取る地になったのだ。・・吸血鬼たちは「月と砂漠とラクダ」しか持たない民は歯牙にもかけなかった。
砂漠の民は部族単位で小さく分かれて、あるところでは棲み分けされ、あるところでは拮抗し部族間紛争に明け暮れた。そうやって、彼らは数千年、自分たちの文化と生活を維持していたのである。
そこに巨大な「欲」が唐突に大地から湧き出たのである。我が地に!最初は思いもつかなかった「欲」が、吸血鬼たちの様を見ているうちにオノレの中にも湧き上がってきたのは如何ともしがたい・・と思う。

それの「欲」を利用したが吸血鬼たちである。・・ある特定の部族だけ"王族"と認め、真の土地の持ち主としたのだ。そしてその自分らが定めた王に、雀の涙だったが金を支払ったのである。
こうして「砂漠の民」は、何もしなくても「金」が入ってくる旨味を知った・・あとは、転がるように欲に塗れていく。
そして欧州で「同類相い喰む」第二次世界大戦がはじまる。しかし結果として見ると、これが欧州/とくに英国は疲弊させた。結局のところは自国の中では戦場が生まれなかったアメリカだけが圧倒的な「漁夫の利」を得たわけである。
「月と砂漠とラクダ」の民は、この欧州の疲弊に乗じた。"この地は我らのもの也"いうナショナリズム勢力と「国王をもつ英国的議会主義」という、いかにも"文民"なら文句を唱えようのない美味しい話を標榜して、次から次へ「石油国有化法」を独自に可決したのである。・・これもまた第二次世界大戦が産んだ、もう一つの「漁夫の利」であったことは間違いない。
イランはとくにそれが顕著だった。
1946年半ば、AIOC/Anglo-Iranian Oil Company内でイラン人労働者によるデモが起きた。初めての英国への反旗である。これがきっかけとなったイランは労働法が制定されたが、AIOC/英国は権益を守るために国王モハマッド・レザーをたらし込み、軍事による国民の押さえつけと参政権を剥奪する仕掛けを作った。

実は、このAIOCのデモを裏で操っていたのはアメリカだった。アメリカは中東での石油利権を欧州各国の疲弊に乗じて我が物にしようと画策していたのだ。しかし、そのアメリカの傀儡だったカワーム首相は失権し、1947年12月29日に英国の傀儡だったハキミーが首相に任命され、1949年5月4日に議員の半数を国王が直接選出できる上院が議会に創設されてしまった。こうして、国王モハマッド・レザーは英国というオオカミの皮を被った羊と化した。
しかし民はそれを許さなかった。なぜか?もうひとつの「共産主義」という伏兵が潜んでいたのである。

49年2月、パフラヴィー国王暗殺未遂事件が起きる。これが大きな転機となった。「反共」を旗頭にするアメリカが足を忍ばせて、オノレの利権を伸ばすために公然と入り込んできたのだ。
この新興勢力の影におびえた英国は、内政干渉をなりふり構わず行った。しかしそれは逆効果となった。イラン・ナショナリズム勢力のリーダー的存在であったモサデクが政権を奪取し、AIOCをそのものを国有化させてしまったのである。

僕は、アメリカは強引な英国によるイラン内政干渉がもたらす結果を予見していただろうと思う。アメリカは英国とイランの間に仲介役として入ったが、その論旨はイラン国営企業とAIOCの共存だった。そんなことは不可能なことは一目瞭然だ。両社の生産力の差は一目瞭然だからだ。イランはすべて英国から取り上げるつもりでいた。そんなことは、馬鹿でもわかる。それでもアメリカはそれをノウノウと唱えた。

同じような仲介をアメリカは、マーシャルを使って毛沢東と蒋介石の間でも行っている。アメリカの対外戦略はいつでも腹の中にイチモツがあるものだ・・

ここに「共産主義化」が忍び込んだのである。
共産主義というのは、ありていに言えば新型の王朝支配である。"人民の"という言葉を利用した、仲間たちの間で食い合いし勝ち残った者による王朝が民を統べる国家だ。
アメリカは、この地に共産国が台頭することを嫌った。
1953年、モザデグ政権がクーデターによって解体。アメリカは、これを利用してイランの政治的・経済的・軍事的独立を回避し、自らが標榜する「民族の自立と尊厳」を標榜する「アメリカ支配による世界秩序」へ見事に編入させたのである。

ではそのアメリカが唱える「民族の自立と尊厳」とは何か?
民族単位で小国が無数に登場することである。つまり、19世紀末に起きたような日独伊のように新興大国が生まれる芽を摘む。民族は併合するものではなく、互いに自律尊重しドングリの背比べをすることが「正しい自立と自由の道」としたのだ。これによって無数に生まれた国家は、それぞれ国境と法律と軍と・・独自貨幣を持つ。

ちなみに、余談。警察予備隊の進化系である自衛隊しか持たない日本は、国を形作る根本が欠落している。つまり"国"ではない・・どっかの国の植民地だということ。植民地は、何れも独自軍隊はもたないものだ。

しかし貿易に、その国でしか流用しない独自貨幣は使えない。そのために夫々の国は貿易のための世界共通貨幣を貯め込まなくてはならない。
その「世界共通貨幣」とはなにか・・第二次世界大戦によってそれは「英国ポンド」から「米国ドル」にすり替わっていたのだ。
つまり国家ができれば、できた数だけドルは小国の中に貯め込まれていく。・・なんとも膨大な利益をアメリカは得るわけである。
これが、アメリカが"これぞ正義!"と唄った「民族の自立と尊厳」の本質である。


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました