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西インド諸島の夢と光と風#09

コロンブスは大西洋の西の奥に島嶼を発見した。しかしそこは予想していた黄金の島ではなかった。彼は、彼のスポンサーにまともな釈明できなかった。なので二回目の航海は、黄金を手に入れるため、大量の人間を連れて出帆している。
ところが最初に発見したサンセバスチャン島に到着してみると(キューバではない)前回の時に作っておいた城塞は焼き落ちて、残った部下たちは全員殺されていた。インディアンは従順なはずなのに?
「お前の家を襲ったのはカリブ族である。」通訳として使っていたアラワク族の若者が言った。そして「カリブ族は、村を襲い、女をさらった後、男と子供を焼いて食べる。」と説明した。
「お前の部下も、全員カリブ族に食われたにちがいない。」と。。
このカリブ族=食人の噂は、カリブのコンキスタドール(征服者)たちに衝撃を与えると共に、根深く話として残った。

食人を指すカンニバリズム(cannibalism)という単語は、カリブのコンキスタドール(征服者)たちが作った造語である。カリブ族(Cannibal)から来ている。
しかしカリブ族が食人したという痕跡は、これまで一度も見つかっていない。たしかにカリブ族はアラワク族の村を襲い、村の男たち・子供たちは全員殺して、女を奪い、食物を奪ったが、食人の習慣はなかった。

それでも勇猛な一族だったことは間違いなく、アラワク族らがコロンブスたちコンキスタドールに唯々諾々と従い、最後は絶滅まで追い込まれたのに対して、カリブ族は奉ろわぬまま20世紀になるまで戦い続けている。結局のところ、戦う者だけが生き残ったわけだ。
しかし、最後には政府の居留地政策を受け入れている。もちろんその地はお約束通りマンジョーカも植えられないほどの荒れ地で、尚且つ切り立った崖だったため漁労も不可能なところだった。現在でもカリブ族の居留地はある。如何ほど苛酷な土地だったか・・訪ねることはできる。

コロンブスの残虐性は同行した修道士たちも慄然とするものだっ。彼らは黄金を手に入れるためには、なんでもした。黄金を持ってくるように命令されたアラワク族が少ししか持って帰らないと、見せしめに両手を切り落としたりした。コロンブスたちのあまりの非道ぶりに修道士たちはこれを本土の教会に報告した。しかし教会は警告を出すばかりで、それ以上は沈黙した。
新大陸発見は、スペイン国にとって新領土の獲得で有ってレコンキスタ/原住民のキリスト教化である。しかし、コロンブスにしろ、二番目のドジョウを狙ったピサロたちにしろ、目的は黄金を得ることであって「原住民のキリスト教化」なんぞはアタマの片隅にもなったのである。再三の警告を無視する彼らに業を煮やしたスペイン・イザベラ女王は、1512年12月27日「ブルゴス法(Leyes de Bergos)」を発令した。これは、先住民を奴隷して使役することを禁止。労働者として使うときは然るべき支払いをする。原住民に教育を与え、自発的にキリスト教に目覚めさせる。という三原則を中心においた法律だった。つまり、先住民の人格と自由を、スペイン女王は認めていたのである。
もちろん略奪が目的のコンキスタドールたちは、そんな法令を守るつもりなぞ、さらさらない。それでもエンコメンデーロ(スペイン王から、土地と先住民を分け与えられた人々)の間では、ブルゴス法はそこそこ機能したようだが、それは焼け石に水程度のものだったようだ。

その、激減する労働者。その壊滅的な労働者不足を埋めたのは・・イベリア半島を経由して運び込まれてきた西アフリカ・象牙海岸で売買されている黒人である。このプランテーションで黒人奴隷を働かせるという方法は、奴隷を運ぶ航路が確立すると急速に広がって行った。
黒人は頑強でよく働く。アラワク人4人分を黒人1人がこなす。そう言われていた。
ポルトガル王室が、スペイン王室に吸収されて、アフリカ利権がスペインに開かれると、スペイン人たちは直接、西アフリカ・象牙海岸に赴き、黒人奴隷を買い漁るようになりる。こうしてプランテーションで働く人々は、早晩黒人奴隷だけになってしまったのである。

となると・・先住民は、スペイン人にとって恭順化させ、手懐けるものではなくなってしまう。ブルゴス法は有名無実化すると、先住民はただの厄介者になってしまった。既に温厚だったアラワク族は殆ど絶滅しており、残るのは好戦的なカリブ族だけになっていたことも有って、かれら「奉ろわぬ土人」は、人食い族として狩られ、殺される人々になっていく。
「良いカリブ族は、死んだカリブ族」という風に思われていたのだ。

1674年の大虐殺の後、ドミニカのカリブ族は島中央のジャングルに潜み、徹底的なゲリラ活動を続ける存在になった。
1797年、セントビンセント島でイギリス軍と戦ったカリブ族は、徹底抗戦し、最後は全員が断崖から飛び降りて死んでしまった。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました