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夫婦で歩くブルゴーニュ歴史散歩6-09/ディジョン#09

https://www.youtube.com/watch?v=29NLBr2QiBM

朝はラモノア通りある本店のラウンジまで歩くことになる。煩わしくない。気持ちのいい朝の散歩だ。

朝食のクオリティもいい。僕らは遅い時間に朝食を合わせて、そのままレセプションでチェックアウトした。ラモノア通りをオペラ座に向かって歩いて、その横を右折。少し先にデジョン美術館Musée des Beaux-Arts de Dijon(1 Rue Rameau, 21000 Dijon)がある。
https://beaux-arts.dijon.fr/
若い学生のグループが何組か見学していた。

「ここはブルゴーニュ侯爵宮殿の中にあった。もともとはガリア人たちの要塞があった地だ。それをローマが継承し、ブルグンド人が奪った場所だ。ボーヌに有った宮殿をこっちに移したのは600年くらいだと云われている。それ以来、ここがブルゴーニュ王国の宮殿になっている」
「ブルグンド人って、ブルゴーニュを支配したゲルマン系の侵略者たちね」と嫁さん。
「ん。パリを制覇したフランク人より、もう少し北に居た部族だ。彼らは川沿いにここまで進んだにちがいない。そしてブルゴーニュ王国を立ち上げた。その北東ヨーロッパに大きく勢力を保持していたんだ。
ところが・・恐ろしい発想の転換で、同じ東からの侵略者たったフランク人(クローヴィス)が唐突にキリスト教に帰依した。こいつはビックリする話だ。フランク人(クローヴィス)は、このことで侵略者ではなく、侵略者から神の土地を守る兵士になっちまった。そして『東から西=侵略』ではなく『西から東=聖戦』へ戦いの方向を変えたんだよ。他の侵略者は大慌てだったろうな。すでに北ヨーロッパは、教会が農耕技術と信仰で各地の人々を掌握していたからね。フランク族は彼らを守る神の兵士として立ち上がり、10年ほどで北ヨーロッパを制覇したわけだ」
「ブルゴーニュも?」
「ん。ブルゴーニュ王国もだ。彼らはフランク族と何とも戦っている。最終的にはフランク族が勝利し、ブルゴーニュは王国ではなく」公国になってしまうんだ」
「王国じゃなくて属領になるわけ?」
「ん。それでも旧支配者として隠然たる勢力を保持していた。ブルグンド人は独自の経済圏をもっていたからな。この地を守っていたんだよ。
・・しかしブルゴーニュ家12代目(カペー家傍系)フィリップ・ド・ルーヴル(1349-61)に男子が出来なかった。そのためブルゴーニュ公国はフランス王・ヴァロワ家の直轄になっちまうんだ。以降、ブルゴーニュ公を名乗るのはヴァロア家の子らだけになったんだよ」
「そう・・でも侯爵宮殿は残ったのね」
「ん。1363年だ。そのときフランス国王はシャルル(賢明王)5世だった。彼は弟のフィリップ豪胆公をブルゴーニュ公に封じたんだ。
実はひまフィリップ豪胆公がすごかったんだ。むちゃくちゃ明晰な男だった。
シャルル(賢明王)5世からすれば、王権継承争いからフィリップ豪胆公を追い出して、彼の芽を摘むいだつもりだったんだが、そうはいかない。フィリップ豪胆公は1384年にフランドル女伯マルグリットと結婚して見せた。
この結婚でブルゴーニュはフランドルと繋がって、北海と地中海を結ぶ交易ルートとして大きく繫栄するんだ。さっき言ったブルグンド人の特有な経済圏をフィリップ豪胆公は利用したわけだ」
「フランス王はびっくりしたでしょうね」
「そうした虚実相い絡まるドラマがこの美術館があった侯爵宮殿で展開された」
「すごいわね・・でも・・これだけ貴重なコレクションがあるわけでしょ???いつも必ず出てくるフランス革命で此処は襲われなかったの?」
「もちろん襲われた。しかしそれより恐ろしい簒奪事件が20世紀に入って起きたんだよ」
「なに?」
「ナチスだ。ナチスはこの街を占領している」
「あ。よくドラマに出てくるナチスによる強奪事件ね。この美術館でもあったの?」
「ん。ドイツからの侵攻が本格化して、この地に避難命令を出たのは1939年 8月だった。美術館はその日に重要なコレクションを持ち出した。フォンテーヌ フランセーズ城Château de Fontaine-Françaiseの地下室に重要に保管されて隠されたんだ。数は14,912点と云われている。なちすがディジョンを占領したのは1941年10月11日だ。彼らは怒り心頭して残っていた絵を簒奪しただけではなく、ブロンズなどの彫像は溶かして金属にして持ち去ったりしたんだよ」
「酷いわね」
「もちろんディジョンでナチスに襲われたのは此処だけじゃない。無数の美術品が彼らに持ち出され、それきりになっている」
「あ、前に言ってたサンクトペテルブルグの美術館のこと・・」
「ああ。うん。ナチスが持ち出したコレクションは、ソ連に敗れた時、彼らに再強奪されてソ連へ持ち出されている。エルミタージュ美術館へいくと、ちゃっかりそれらが飾られているよ。まさに盗ったもン勝ちの見本のような話だ」
「返してくれないの?」
「何度も交渉している。色々なところがだな。しかしソ連は/ロシアは、屁の河童だ」


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました