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マンハッタン/メトロポリタン美術館

アメリカ人はエジプトもんが好きだ。
ブルックリン美術館もメトロポリタン美術館も、エジプトもんのコレクションはすごい。おそらく本家カイロ美術館より興味深く散策できるのが、この二つの美術館のエジプト・コレクションである。
もしこの広大で無尽蔵の美術館を1~2時間くらいの予定で観られるのなら、僕はいつもエジプト・コレクションにピントを合わせなさい、と言っている。
なかでもメトロポリタン美術館のメクトラの副葬品のコレクションが興味深いが、やはり強烈なインパクトが有るのは間違いなくデンドウルの神殿である。アスワン・ダムの建設にあたって多大な貢献をしたアメリカ政府に、1978年エジプト政府が寄贈した歴史的建造物である。
実は、メトロポリタン美術館のハイライトは、創設当時からエジプト・コレクションだった。チェズノーラ将軍がキプロス島から持ちかえった数多くの彫刻・副葬品を後悔したことからメトロポリタン美術館は始まっている。
将軍のコレクションに、人々は古代エジプトを夢見た。もちろん今でもそれは変わりない。相変わらずアメリカ人はエジプトが好きなのだ。
メトロポリタン美術館は、1階2階あわせて18のセクションに別れている。前述のエジプト・コレクション、中世ヨーロッパ美術、アジア、中近東、中央アメリカなど、どのコーナーもそこだけで一日が終わってしまいそうな程広くて膨大なコレクションである。
およそ大英博物館もエルミタージュ美術館もルーブル美術館も、前身とも言うべき背景となり得るコレクションが有って出来上がった美術館である。しかしこのメトロポリタン美術館にはそんなものが無い。まったくの無から19世紀の後半に、市民運動によって作られた美術館なのだ。従って後発のハンディは確実に有る。ここには、例えばミロのヴィーナスやモナリザ、ロゼッタ・ストーンに匹敵するような世界的な価値とも言うべきコレクションは殆ど無いのだ。ここのコレクションは、アメリカの金持ちたちが金を出して買って歩いたものだ。
19世紀の後半から20世紀初頭に懸けてヨーロッパ諸国はその疲弊した経済を補うべく、大量の骨董品美術品をオークションに放出した。それらを彼らが買い漁った訳だ。だからといって天下の名品が売りに出されるわけはなく、比較的小物ばかりが彼らによって収集された。しかしその精力的な買い漁りは猛烈を極めた。「質で勝負出来なければ量で勝負しよう」というアメリカ的体質が見事に具現化したのだ。
なかでも中世ヨーロッパの絵画・美術品への執着は壮烈で、メトロポリタン美術館もこれらのコレクションが充実している。二階中央奥がそのコーナーだ。レンブラント、ラファエロ、エル・グレコ、ルーベンスなど、教科書の中で名前だけは聞いたことのある人々の作品がずらりと並んでいる。
また、寄贈者の名を冠したウイングも興味深いものが多い。ロバート・レーマン・コレクションやライライ・アチソン・ワレス・ウイング、ロックフェラー・ウイングには是非寄ってみるべきだろう。
日本でも「何処そこが、ゴッホやリキテンシュタインを何億円で買った」とか伝う話が批判的な風潮として云々されるが、僕は反対だ。金の有るうちは世界の財産を買い漁るべきである。それが次代への偉大なる贈り物になる。成金たちの慈善意識が、どれほど文化を保存し得るか、メトロポリタン美術館はその素晴らしい例なのだ。

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました