堀留日本橋まぼろし散歩#01

僕は「うどん」は食べない。その、食べない僕が2回だけ唸った「うどん」がある。・・ひとつは徳島・大橋の傍にある店で地元の人に連れられて出かけた店だ。おろし大根と生醤油だけで食べる。こいつは驚いた。美味いも何も言わずに黙々と食べた。実は、そのときのショックで、徳島だけは例外・・と思って、何回か他の店でも食しているんだが、残念ながらあの衝撃には出会っていない。じつは・・店の名前が判らない。場所も定かじゃない。だからもういちど!!が叶わないまま20年以上経っちゃった。料理は一期一会を絵に描いたような出会いだった。
もう一つは、名古屋吹上で食べた味噌煮込みうどんだ。汚い店だったけど・・ここもしゃべるのを忘れるくらい夢中で食べた。
ここはね、店の名前が判る。前回の徳島の痛恨が有るんで、ちゃんとメモしてきた。「山本家総本店」という。
東京は秋葉原にあった。いまはない。
ところが・・うちの嫁さんに言わせると、あれは「うどん」ではないという。似て非なるものだという。
「だから、あなたが美味しいと言ったうどんは、たったひとつ・・というわけ」とバッサリ切られた。

それなんで・・ではこれならどうだと八重洲地下街にある「玉丁本店」へ連れてった。「これならどうだ」
「こちらのほうがたべやすいけど・・でもきっとうどん好きなひとは、やっぱりこれはうどんじゃないというわね」と冷たい。
「でも美味しいけど。美味しいからいいんじゃない?秋葉原のより食べやすいわ」とのことだった。
というわけで、東京で味噌煮込みうどんを食べるとなると、秋葉原じゃなくて八重洲地下ばかりになっちゃった。
てころで、ここ数年で八重洲の地下街は、哀しいほどチープな飲食店ばかりになった。日本の玄関ともいえる駅の地下街が安さばかりを強調する店になったのは、まるで日本国の凋落をものの見事に象徴しているように思えてならない。・・・玉丁の周りの店も「チープ」をわざわざ強調している店ばかりになっちゃってるけど‥なんとか呆れ返らずに、あスこから移転しないでいてほしいなぁというのが僕の願いです。

丸の内仲通りのジョエル・ロブションへ行ったついでに丸の内側の地下にあるイータリーへ行ってみた。嫁さんの食材の探し物である。
残念な話だけど日本のイータリーの失速ぶりは目に余るほどで、もちろんお目当てのものは既に取り扱ってなかった。おいてないどころか・・商品名を言ったら「なんですか?それ?」という態度を取られた。まあ、嫁さんが怒ること怒ること。「東京駅だからな。東京駅だからということだけで面接に来る人はいるもんさ」と僕が言うと「そんなのを雇っちゃダメよ。自分の店の商品知識くらいは教育されなくても、持っている人が面接に来るべきでしょう?」まあ、たしかにいう通りなんだが・・昨今の雇用状況を考えるとそうはいかないというのが実情だろうな。
怒り収まらない嫁さんが八重洲側に行くと言い出した。
「あいよ」そういって駅の下を通る通路に向かった。
「ところで・・東京駅って、どうして丸の内と八重洲を繋ぐ通路がふたつしかないの?すごい不便なんだけど」
おいおい、通路にまであたるなよ・・と思ったが、とりあえず説明した。
「くわしい事情はしらないが、昔から丸の内と八重洲を繋ぐ通路はこれだけなんだ」
「どうして?」
「わからん・・でも、もともと東京駅は八重洲側に改札が無かったからな。それをそのまま引きずってるのかもしれないな」
「え～八重洲口ってなかったの?」
「ああ、八重洲側は外堀の川に面していたからな。改札口があっても、みんな川におっこっちゃう。だからなかったんだ」
「大丸は?」
「大丸もなかった。出来たのは昭和29年1954年だよ。僕が3つのときだ」
「え～あなたのほうが大丸より年寄なの?!」と言いながら妙に嬉しそうで、機嫌が直ったようだ。
「そのときに、八重洲側にも改札口が出来たんだよ」
「外堀の川は?」
「無くなってた。空爆によって燃えた瓦礫を放り込んで埋めたんだ。昭和23年くらいまでには埋め終わっていた」
「外堀の川って、今の外堀通りでしょ?いま、八重洲地下街が有るとこ」
「八重洲地下街は昭和33年から工事が始まって、出来上がったのは東京オリンピックが有った翌年の昭和40年だ。というわけで、あの地下道はお前より若い」
「それ、一言よけいよ。すぐ敵取りたがるんだから!」
「ところで、八重洲地下街って中央区と千代田区に跨ってるんだ。東京駅に面しているからな。東京駅は千代田区にある。んじゃ、どこまでが中央区?」
「んんん～さっきの話の感じで言うと・・外堀が区の境のような気がするけど・・」
「正解!だから数寄屋橋の所で曲がっていた外堀に沿って、泰明小学校は中央区の学校なんだ。昔は京橋区といったけどな」
「ということは・・八重洲の地下街は・・益と並行に走る通路の東京駅側が千代田区で、八重洲側が中央区という感じ?」
「外堀地下1番通りというんだがな。よく見ると同じ通路なのに、道の半分には「グランルーフ・フロント」と書いてあるんだ。これは千代田区にある。昔はキラピカ通りったんだがな。オサレな名前に化けちゃった」
「へえ、そうなんだあ。なんども来てるのに、ここが何区かなんか考えもしなかった」
ははは。ようやく機嫌が直ったようで・・よかったよかった。