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アメリカ製保健室(毎週ショートショートnote)

「食欲ないから保健室行ってくる」
 昼休みにそう言うと、隣の前田は眉をひそめた。
 今年導入されたアメリカ製保健室――「同調圧力に疲れた日本の高校生を自由と多様性の精神で癒す」というものだが、馴染めない生徒も少なくない。僕はあまり抵抗ないのだけど。
「おお!いらっしゃい!」
 ウェンディ先生が明るく迎えてくれた。白衣に包まれたアメリカンサイズの体は椅子からこぼれ落ちそうだ。室内にはいい匂いが漂っている。
「気分が塞いでしまって」
「心当たりは?」
 机の上にピザやフライドチキンが並んでいた。へぇ、先生も昼食にこういうのを食べるんだな。
「課題のプリントを失くして提出できなかったんです。僕だけだったので恥ずかしくて……」
「鈴木君は気にしすぎ!さっき私も大事なものを失くしましたが、全然気にしてませんよ!」
 大きな体を揺らして笑う。僕は失くし物が何なのか気づいたけど、気づかないふりをした。先生の明るさとアメリカンフードの匂いを浴びて、五分も話すと僕の食欲はすっかり戻っていた。
 お礼を言って保健室を出る。ちょうど前田と鉢合わせた。
「鈴木、もう大丈夫なのか?」
「うん。お前は?」
「これ拾ったから……ウェンディ先生のだろ?」
 手にしたものを見せて、彼はまた眉をひそめた。
「いくら自由と多様性が大事だからって、やっぱ養護の先生がハンバーガーなのはちょっとキツくね?」
 彼の指先で巨大なピクルスがひらひらと揺れていた。


(606字)


お題「アメリカ製保健室」+どんでん返し、という課題でした。
1000字以下でどんでん返すのは、なかなか至難の技ですねぃ。


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