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コンビニ店員の憂鬱【年確編】

お疲れ様です。
「10月毎日書く」と言っていたのですが、朝から日付変更線通過まで一日中アルバイトに従事していた日を境に完全に執筆ストップとなり、数日坊主で情けない限りです。
言い訳しても仕方がないので、また書きます。
というか、今日ちょうど書きたいことができまして。

私の働いているコンビニは二階部分がイートインスペースになっていて、トイレや喫煙所も設けているせい(おかげ)で、毎日いろいろな人が来店します。
近くの病院や市役所、銀行で働くスーツ姿のサラリーマンの方々や杖をついた高齢者の方、高校生、大学生、マジックテープタイプの財布片手にコーラガムだけ買っていくちびっこ達まで。

そんな風にいろいろな人が便利に利用してくれているということはとても喜ばしいことなのですが、だからこそ起きる問題も少なくなく。
その問題のうちのひとつが、未成年の男の子たちがお酒やタバコを買いにやってくる、というものなんですよ。
この問題こそ、コンビニ店員の憂鬱【年確編】の起こりとなったものです。

というのも、彼らは2階のイートインスペースで放課後(?)たむろっているらしく、その集会のお供となるお酒やタバコを買いに来ることが多いんです。しかも、私の働いているコンビニは夕方から深夜にかけて学生のみでお店を回していることが多いためか、「年確がゆるい」ということで彼らの格好の餌食になっているそうで。

彼らは若い店員にわかりやすく目をつけていて、入店するや否やこちらからぎりぎり目視できるかできないかの角度からレジの方へ目を光らせ、「今日のレジ、いける奴だ」と指差して「年確ゆるい店員」を見極めてくるんですよね。猛禽類の狩りか。
私は昨日、2人組のやんちゃそうな兄ちゃんたちのその様子を見て「あ、あの子タバコ買いに来るな」とわかってしまいまして。こんなところで、22歳のカンってやつが働いてしまいまして。

レジで待っていると、彼らの1人が来ました。ハジけてる、超えてアヴァンギャルド、とでもいえそうな。ごくせんとか、池袋ウエストゲートパークとかにでも出てきそうな、重力に逆らってツンツン上を向いた髪が、まるでハリネズミのような男の子。せっかくなので(?)彼のことを「ハリネズミ君」と呼ぼうと思います。

彼は手ぶらでレジに来て、私の後ろのタバコ棚をキョロキョロと横揺れしながら見始めました。タバコを買う人にはよく見かける動作です(店員じゃない方でも容易く想像していただけそう)。店員を超えて向こう側に目線をやり、自分の馴染みの銘柄を探すその動きは、全喫煙者共通のもの。しばらく探した後彼はボソボソ声で「ピースのライト・・・。」と呟きました。
私はサッとタバコ棚を振り返って指定の銘柄を手に取り、一旦レジに通します。
「年齢確認をお願いしております」
レジが喋ります。
ハリネズミ君側の画面で「はい」とボタンを押すと、次に
「身分証明書のご提示をお願いする場合がございます」とレジの声。

ここで、身分証を出させるか、出させないかが分かれ目です。
断らなかったら、買えてしまう。
少年のレジを担当する、この私の一存にかかっているわけです。


この時、クールにお断りしたい気持ちでいっぱいな店員こと私ですが、身体は言うことを聞かず心臓バクバクです。「どうしよう」「怖い」という感情が昂りきった動悸です。というか彼がタバコを注文するその時より、彼がレジに来た時よりも前から、彼らがレジを覗いて「あいつ行ける」と話しているその時から、動悸が止まらないんです。怖くて。逆立てた頭のハリで刺してくるかもしれないじゃないですか。というのは冗談なんですけど。


歳下とはいえ、彼らのいかつい風貌や表情に怯んでしまうんです。相手は男の子ですし。私は、女の子ですし。髪の毛、立ってるし。しかも、「いける」と言われているのもなんだか腹が立つし、同時にいけると思われていたのに断って、恨みを買うのも怖くなって。
情けない限りなのですが、とにかく動揺しまくって、タバコをレジに通すときの私の手はブルブル震えていました。
しかし決意こそ堅かった私は、ここできっぱりとお断りを入れます。

「身分証とかお持ちですか?」

「・・今日持ってなくて」

「それだとお売りできないんですよ、すみません。」

「あ、はい」

カルトン(レジの青いトレー)に置いた小銭を回収し、彼は2階のイートインスペースへ姿を消します。
ハリネズミ君の姿が見えなくなると、緊張感が解けるとともに、どっと疲れが襲ってきました。
なにより、動悸・ため息が止まらない。

じっとしているのも辛くて誰かに言いたかったので、一緒に働いている高校生の女の子に
「〇〇さんさ、年確ってどうしてる?」
と聞いてみました。
すると
「私何も聞かないで売っちゃってますね・・・」
との返答。

確かにその子からしたら、あの子達って同い年か年上だもんな、尚更怖いよなぁ。と。自分もやらなくていいなら、やりたくないくらいだもん…
これも立派な店員の仕事だってわかってるけど・・・それでも、私はただのコンビニのアルバイト店員。普段の仕事が「レジ」「品出し」「揚げ物作成」「賞味期限チェック」なのに突然木槌を叩く法律の番人になるみたいな気持ち。突然、特大のプレッシャーが降りかかるんですよ。
ていうかそもそも挑んでくるんじゃねえ、未成年たち、という話なのですが。

ハリネズミくんがレジに来たあと、ハリネズミくんよりは少し背も大きくガタイも良くて、ノースリーブに重そうないかついネックレスをつけた中ボスみたいな子が来ました。その子もまた、タバコチャレンジをしに来たんです。

こちらからみたらみんな完全に未成年にしか見えないけど、少し大柄な彼はハリネズミくんたちにとって大人っぽく見えるのでしょうか。そうやって送り出されたのだとしたら、なんだか可愛いですね。
ですけどこちらも諦めません。同じ流れです。

「身分証とかお持ちですか」

「これしか持ってなくて」

彼はカルトンの1000円を指差します。

「ならお売りできないです。すみません。」

「ダメですか?」

「はい」

私はバックヤードに引っ込んで、

「なんでぇ!?なんで何回も挑んでくるのぉ!?」
と女子高生に愚痴をこぼしつつ、お茶を飲んで気持ちを落ち着けます。

それでしばらくした後、今日はこの後も1件年確ハプニングが。

年齢確認って、多くの居酒屋やコンビニで同様にに行われていると思うのですが、基本見た目での判断なんです。なので仮に未成年でも私が20歳以上と勝手に判断してしまっていたら、未成年の子達にも売ってしまっている可能性があるんですよね。

今日、ハリネズミ君ら若い子たちの年齢確認に疲弊しまくっているところに、見た目30歳手前くらいといった感じの風貌の、髭の生えた男性がやってきました。
余裕で大人に見える場合だとか、自分より全然大人に見える時は、セルフの年齢確認ボタンを信用してわざわざ身分証を提示してもらうことはないのですが、
今日はその男性にタバコを売って「ありがとうございました」と言った直後、

「余裕やん」
と言って連れのもう1人の男性と嘲笑していたんです。
「やってしまった・・・・・。」と泣きたくなりました。
完全に見た目に騙されて、売ってしまったみたいなんです。
でも彼ら、そこら辺の大学生よりも大人っぽくて、本当に「そろそろいいおじさん」みたいな見た目をしていたんですよ。
でも目の前で「余裕やん」と言っていくあたり、心が未成年ですよね。私、もう見逃しませんから。

今日のイートインスペースが閉まる時間になって、イートインの出口あたりからハリネズミ君御一行が一列に並んでこちらを見ていました。
彼らに私がどう見えてるのかはわかりません。でも、私は別に意地悪したいわけじゃなくて、未成年君たちの健やかな人生を想ってるんですよね。しかも、警察にお世話になる1歩手前で。コンビニのマリア様だとでも思って欲しいものです。

しかしながら、彼らがタバコを購入できてしまうお店はおそらく他にもあるわけで、きっと彼らの問題点はお酒やタバコだけではないので、私の一言や一つの行動が彼らの健全さに力添えできてるとは思えなくて。私のやってることの意義って一体なんだろうな、と度々考えます。
けど彼らのワル経験を1回でも2回でも少なくして、彼らがどこかのタイミングで何か感じてくれたり、そして何よりお店を健全に保つためにも、私のちょっとした勇気が一躍買ってくれてたらいいなぁ、なんて思います。
一コンビニ店員、兼「売ってくれねえお姉さん」である私が、かなり凹みながらも頑張ったアルバイト奇譚でした。

今日もバイト頑張ります。


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