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書けん日記:13 発熱書簡


バロウズの書いた麻薬書簡
あれはヤクで決まったときにやり取りした手紙の記録
コロナだかインフルだかわからん高熱に苛まされた私が、この状態でテキストを書いたら
ノンケの状態の私と比較しての、書簡が出来るのではないかと。
39度から下がらない熱の中で考えた。
もはや、悪夢のことを書いているのと変わらない有り様である。
夢の話ほど、他所様に聞かせて「どーでもいい」話は、めったにない。
それを書き留めることに、どんな意味があるか。
バロウズに聞けることがあったら、聞いてみたい。あの世で聞けるかな。あっ英語で話さないとアカンやつ。あー、でもあのひともう解脱してそう。

――悪夢というのは、己にしかわからないから悪夢なのだ、と。そうだろ? と。

お世話になっている某社のお仕事で。
書けんありさまでぐだぐだとご迷惑をおかけしているうちに、ある……夢を見た。
その某社には、グラフィッカーの、私とは親子ほども年下の女子がいらっしゃる。
夢の中で、その子が――
私の領分、テキスト仕事、新しい企画を立ち上げた そんな悪夢を見たことがある。
完璧な企画書。フォーマット、イメージ、プロット。プレゼント、全てが完璧。
ネタ自体はよくある、異世界系の、異種族の男たちが戦いの中で苦しんでもがきながら
種族の壁とか宗教とか政治とか、そういうものでお互いが険悪になるよう仕向けられながら……
お互いが、ギリギリの戦いの中で「おまえしかいない」というボトムズな関係性の中で
繋がりあう……手を握ることすら出来ない、最低のクズな男たちのラブストーリーだった。
…………それを見せられた書けん私。悪夢以外の、なにものであろう。

うわああああああああ

と叫んで起きたことが、人生で3度ほどあるが。そのうちの一度が、それ。
もう一度は、ねこ絡み。おもいだすたびに、泣く。
もう一度は、逆恨みのおっさんが枕元に立ったとき。成仏せいよ。
そして、グラフィックの子が書いた企画書、それは――まさに、紛れもない悪夢。物書き、書けん私専用のカスタム悪夢。
バロウズに後方彼氏面して「俺もこんなんだったよ」とニヤつきたくなるレベルの、高純度の悪夢。
ヘロインぬきで、この悪夢。その夜はアルコールも入れていなかったはず。書けん物書き専用の、悪夢。
なるほど――
地獄とは、人間が作り出すものなのだなと。
我が魂のゲーム、「PANZER FRONT bis.」の名シーンを思い起こす次第。
なお、私の手の内には、銀の砲弾は 無い。
ぶっちゃけ、亡くなった母の悪夢よりきつかった。あれもだいぶきついが、根っこが判明しているだけまし。仏壇はね、あれはね、携帯の端末なのです。うちは三河の浄土宗というキャリアと契約しているのです何百年もまえから。くそが、顧客に契約の説明義務を果たせ。はい、知ってます。それ説明してもらっても今の私だと無理、理解できない、バグだと思ってる……でもね、そこにすがるしかない。ちくしょう、うちの仏壇と位牌は百年以上前からそこにあって、私のパパ・ママも、じいちゃんばあちゃんも、ご先祖もそこにすがっていた。卑怯だぞこのやろう。俺に説明しろ。ええ、お布施と信心が足りない? わかってます浄土宗は、うちのお寺はそんな事言わない。ぜんぶ、私の妄言。だから……迷うのです、わたしは。だってさああ。
お盆のときに、仏間に現れる「あれ」はなんなのだ? ご先祖は、父母も極楽浄土にいったのではないのか??なんで、お盆で戻ってくる「存在」があるんだ? あれはなんなんだよ? 
この前も、コロナで死にかけたとき
発熱の前の晩に、仏間の電気を消そうと思ったら、ふと「ん?」と。
仏間に知らない女の臭いがした。いまではつけるものもいない、昔、祖母のやっていた飲み屋でしか嗅いだことのない臭い、古い昔の化粧「白粉」の臭いがして、もちろん、母もそんなもんは身につけるはずもなく――
記憶の中で思い出す。ああ、これ。昔、ガキの頃に見た女中さんとかのあれだ。あの臭いだ。
「あっこれはやばい」とおもったら案の定、死にかけた。
あれは何だったんだ。宗教ならば、説明してくれ。ただの幻覚、妄想ならそれを俺に分からせてくれ。誰か説明してくれよロンリーウェイ いきさきはー はるかかなたなー 夢なんて無くていいから説明しろこのやろう馬鹿野郎。来週も、見てください。

たかが、発熱の悪夢。
飲みすぎたときの明け方の儚よりもうすっぺらな妄念のくせこいて。
なぜ、俺は、俺の夢は。俺自身はこうまでして俺を苛むのか――
その答えは、俺が知っている 俺が悪くて、俺が愚かだからだ。
あれ、もしかして。
この発熱の状態で、アルコール飲んでグダグダになったら。坂口安吾先生とかあっちの領域にいける? B29の空襲で焼夷弾ばらまかれて燃える家の中でキマりながら書いてた坂口安吾先生に、この私が?そんなわけはない。あれは、先生たちは天才だから。ヤクは、アンフェタミンは関係ないのだ。才能。アルコールはやさしすぎる。酒はどんな状態で飲んでも脳にキマる。神の愛、聖母の母乳だ。
それとくらべれば、煙草とニコチンとタールというのは文明の香りがする。アルコールより、人間の文明にまっすぐ寄り添ってくれている……気がする。酒が飲み足りないとき、空腹のとき、仕事で詰まってどつぼのとき、知らない相手と会って愛想笑いをして休息のときにタバコ休憩が来たとき。
煙草には、文明の香りがする。そして……人間性を破壊する危うさの暴力性の匂いが、そこにはある。
タバコを吸うという行為は、殴り合いでわかりあう分からせあう行為のショートカット版であるとかんじる。
でも、いちばんキマるのは――
ああああああ 腹減った おにぎりか牛丼が食べたい。
熱があるのに酒のんじゃった、まだ熱がある、車に乗れない。牛丼はまた今度。
はらがへった  


二週間近く、こちらでの更新ができず申し訳有りません……私の記事を見てくださって、何かを楽しんで頂いて、サポートまで投げてくださっている皆様にお応えもできす、本当にすみませんでした……。
不肖こと菅沼、インフルエンザで発熱してしまいしばらく臥せってしまっておりました……。以前にコロナにやられたときよりはマシだったとはいえ、この歳で39度近い熱と神経痛がずーっと続くのは命の危機レベルでした。
今は、なんとかキーボードに『おおむね、まともな状態』で向かうことが出来ておりますが――数日前は、熱と体力の低下で意識が朦朧、でもなにか書かねば……と。

そして――
……なぜ、いま『麻薬書簡』の話を?
はい。私、この本のことをもっとしっかり書こうと思っていたら、発熱にやられまして。その光熱の中で悶え、のたうち回りながら――熱に侵され、いつも以上に朦朧とした脳で。
「あっそうだ(朦朧) 熱でボーッとした私がテキストを書いて」
「熱が下がった私が、そのテキストを見たら……ひとり麻薬書簡ごっこになる?」
「ヤクはキメていないから(ダメ、ゼッタイ)、ソロプレイ発熱書簡だな」
……などと、熱があるとき特有の、妄想にも等しい思いつきの中で――
39度の熱がある中で、私は文字通り、うなされるようにキーボードに向かい。
そして――
書いてはいたのですが。なんじゃこりゃと。わかってはいたのですが。
バロウズとキンズバークの書簡の、友情を越えた、殺意の香りすら漂う幻想のやりとりなどは、発熱していた私のテキストには、微塵もなく……発熱書簡は、出落ちにもならずに終わりました……。

熱の下がった今、しばらく更新もできなかったお詫び、にもなりませんが――その時の、発熱書簡。熱にうなされていた私のテキスト、校正もチェックもなにもない、ある意味、素の私のテキストを公開させて頂いて……。
皆様の小さな笑い、苦笑、失笑。うわあ……という、また変なもの見ちゃった、感。私のテキストが、それらの、皆様へのゆらぎの一つにもなればさいわいです。


『麻薬書簡』 著 ウィリアム・バロウズ アレン・ギンズバーク 訳 山形浩生 河出文庫

第二次世界大戦後のアメリカで起こり、ベトナム戦争の60年代のアメリカで広まったビート・ジェネレーション。その波の一つ「ビートニク文学」の旗手にして巨匠の二人、バロウズとギンズバーク。
この二人が同時期に、別の行程で中南米を旅し、彷徨い……現地で二人は、ヘロイン、マリファナ、ペヨーテなどを体験しつつ、その危うい陶酔や覚醒、そして幻覚の中でメモを、手紙を書き、お互いにその手紙を送ることで意見交換をして。そして。
昨今、巷を騒がせる幻覚薬「アヤワスカ」を二人はもとめ、そしてそれをキメる、が……ビートなふたりが、同じ薬物で、同じ幻覚剤で見た別々の幻覚、方向性の異なる幻想、決別よりも深い自意識と自意識の谷間という……。
放浪、ドラッグ、幻覚、同性愛。何でもありありの、実に刺激的な書簡。その本。
ぶっちゃけ、ヤクでキマった状態で書かれた私信のような手紙テキストは読みにくく、??な部分も多々あるのですが――上記の新書判では、誤訳が正されたり、編集が入って整理されていたりとだいぶ読みやすくなっているはず。
――アメリカンなマフィアたちの物語を手掛けさせて頂いたときにも、南米の熱と泥に膿んだ空気感、絶望に堕ちることも出来ない弱さと貧しさの人々、世界。二人の巨匠のキメキメだったり、ダウンだったり。あるいは同じ幻覚もの を見ているはずなのに、絶望に近しい決別を目の当たりにする……これらの書簡の香りは、不肖はちょくちょく影響を受けてしまっているかもしれません……。


私はもう元気です。
……すみませんすみません、仕事に戻ります……。



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