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書けん日記:1

ある日――
不肖「日記を書くと言いましたが。気づけば今日とか私、家から出てないんですけど」
T氏「金は家から出ていく一方なのになあ」
不肖「ぐぅの音も出ねえ とはこのことであったか」
T氏「だったら家で見た本とか映画とか。そのこと書けばいいじゃないか」
――なるほど。
思えば家で、何度も読み返した本をまた読んだり、何度も見た映画をまた見たり。傍観すれば、無駄以外の何物でもない、そんな私の時間。ではあるけれど。
というわけで。それを本日はお題に、ひとつ。

私の大好きな本から。
イタロ・カルヴィーノ著『マルコ・ポーロの見えない都市』――
お話は、かのマルコ・ポーロが少年時代、父とともに東の元帝国の都、大都にて皇帝クビライ・ハーンに謁見、マルコはハーンに、外で見てきた摩訶不思議な、実在なのか幻想なのか、諸々の都市を語って聞かせる。と、いう。都市という、人間社会の象徴であり宿業でもあるそのそれを。人間社会へのアレやこれやを、マルコの語る見えない都市は、読み手、そして読むタイミングによって変幻する幻想となって、さまざまの「物語り」を聞かせ、見せてゆく……そんな一冊です。
本の中では、一つの都市を語るのに、短いマルコの語りで本の見開きで一編。その構成も、謎めいた内容も。寝る前に読む本としても最適な一冊。

なぜここで『見えない都市』かと申しますと。その物語の冒頭で。
皇帝に謁見した紅顔の美少年(私ビジョン)マルコが、皇帝に「なんか面白い話をしてみいや」といきなりの無理難題をふっかけられるのですが、マルコは涼しい笑み一つ。そして
皇帝ハーンよ。物語を支配するのは、唇ではなく耳でございます」 と。
そんな、生意気な箴言めいた言葉にも、それを言った少年の唇に。頭脳も耳も聡明なクビライは トゥンク(私ビジョン)してしまい――ここから、千夜一夜物語のような「見えない都市」の語りが始まるのですが。
――物語。語られること、書かれるもの。ストーリー。テキスト。
それを支配するのは、唇ではなく、指ではなくペンでもなく、キーボードでもない。
……物語を支配するものは―― という。
書けぬ。書けぬ。書いてもアレれ?な私が、このnoteで、そんなことを思い出しつつ。
私がこうして書いているテキストは、お仕事は。基本、人様にお出しして見て頂く、ストーリー。物語。それを紡ぐのは、唇というか、キーボードをちょこちょこ叩く指。
そして、そのテキスト。物語を支配するのは――それを鑑賞してくださる、耳、目。
つまり。被支配者である、ある意味、都市の民衆以下の奴隷である私は「物語」を書いても、支配する能力はなく――お出ししたそれを、どう楽しんでもらえるか。どう受け止めてもらえるか。
そもそも、見てもらえるのか?
それは、支配者である耳、目であるお客様。世間の皆様の支配におすがりするしかねえ、という。
――なるほど。
それは、私がこのお仕事を始めた30年前も。それどころか人類が、他のヒトに何かを語って聞かせたその頃から不変なのではあるまいか。
そして。歴史に名を残す、輝ける太陽のような天才たちなら、支配者たちが自分からこぞって見に来る大傑作を創り上げ残すのですが……線香花火が ポスッ っとなったような私の場合は、その不変にして普遍である支配からは逃れられられないのだなと。

少し昔の映画ですが――
1981年アメリカ 巨匠メル・ブルックスの『珍説世界史Ⅰ』

人類の歴史を、なんか見覚えのある猿人たちの群れから始めて、原始時代、ローマ帝国、フランス革命からⅡの予告ではちょび髭のおっさんまで――を、面白おかしく描くコメディ映画の傑作。
その石器時代編で、人類がエンタメなるものを発明するのですが……。
ひとり演劇して、滑稽なポーズで笑いを取ろうとする原始人のおっさん。
最初はバカウケだったのに、同じ演目に即飽きて、ブーイングすら出ない原始人の観客。
そこに。いきなり恐竜(首だけ)が来襲。演劇のおっさんは、あわれ、悲鳴を残して恐竜の餌食に――そのハプニング、サプライズ演出に。観客の原始人おっさんたちは爆笑、拍手喝采という一編が。
我が身を犠牲にしてでも、名作を残すべきなんだよなあ(違)。
などと、書けない言い訳を私がT氏にして、馬鹿話で誤魔化(せてない)していると。
不肖「つまり、私は無力なのです。はっきりわかんだよね」
T氏「そもそも書かないと。作品がないと支配すらされないだろ。勝負に、奴隷にすらなってねえ。だからはよ書け。評価そんなもんはお前の客と、あと俺が決めてやる。死後に」
 ぎゃふん
と。斯様な紆余曲折、無為無策と四苦八苦で 書けぬ 書いた? 書けぬ を行き来しつつ、また今日も終わる。明日も来る。次の日記のネタが来……るといいなあ。
次も書けるかな。

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