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書けん日記:5 背徳感という名の調味料

書けん。
土日の休日、物書きという名の――書けん物書きという、無職おじさんと限りなく境界が曖昧な存在である私は。土日くらいはしっかり手を動かし、仕事を、テキストを進めて。
週明けには、依頼先の仕事始めに合わせて新規のテキストを納入し、そのチェックをお願いしつつ……とか。
そんな理想ばかりを脳内でこね回しているうちに、机に、キーボードに向かい合っていても時間は無為に過ぎ……気づけば昼過ぎ。気づけば夜半。気づけば……何一つ出来なかった、週末が終わり、そして。
仕事をしなくては、と焦る月曜日。キーボードに向かうも。無為だけが打鍵され、消されて。
また夜。それを何日も、たちの悪い悪夢のように繰り返してしまう。
ああ。無為。
そして。そんな無産の苦しみの中で、逃避する先を探しだすと、もう。
ここで、外に出ると駄目。酒に逃げるともっとだめ。
それは痛いほど、火傷という名の経験則で思い知っている私は――だが、本に手を伸ばす気分にもならないときは。そう。

――ゲームを してしまいました……。
しかも。T氏に見られたらなにを言われるかわからん、レベルの時間をゲームモニタとコントローラーに費やしてしまいました……。

そんなゲーム。私の、最近のお気に入りがいくつか。
以前は、コンシューマーゲームやら、ネトゲのMO、MMOなどをちょこまかと遊んでいた私だが――最近は。
書けん=パソコンに向かう時間が無為=そのパソコンで遊んでしまう
という、じつに「あかん」流れで。
Steamのゲームをすることが多いこの不肖。

私のライブラリの中には、いかがわしい、18歳未満は遊んだらだめなやつもいくつか混じっておりますが――
今回、紹介するのは健全カテゴリの大ヒット名作ゲーム
Steam『theHunter:Call of the Wild』。

世界中で大ヒットしている、大自然の中で野生動物を狩るハンティングゲーム。
私が語ることなど、おこがましいレベルの大ヒットゲーム。
世界各地、大自然の中。銃を手に、野生動物を探し、それを仕留め(たまに仕留められ)てゆくという、シンプルだが飽きることのない、実に奥の深いゲーム。やりだすと止まらない。
そして、他のゲームにハマって遊びこんだあとも――なんとなく戻ってきてしまう。また銃を手に、お気に入りの森の中で独り、たたずんでしまう。
そんなゲーム。『theHunter:Call of the Wild』
……そのゲームの、どのへんをあえて書けん私が書いて語りたいか。
……このゲームの、どのへんが、無為の中でうめく私の狭い琴線に触れてしまったか。
……それには、まず――こちらの画像を御覧いただきたい。

うしです

牛です。
こちらは『theHunter:Call of the Wild』のマップ、オーストラリアはエメラルド海岸。
そこにはオーストラリアの野生種、カンガルーやイリエワニのほか、人類が持ち込んだ外来種の動物たちも多数生息――その内の一つが、この牛。『バンテン』。
バンテンは、元はインドネシアなどに生息していたジャワヤギュウが、オーストラリアで繁殖、野生化した牛。
エメラルド海岸のマップには、この牛。バンテンが群れをなして暮らし、平和に草を食み、南洋の眩しい日差しの下で平和に暮らしている光景を見ることができる。
そして――

ゲームは、the Hunter。つまり――

うしです もう牛肉です

――牛を狩ります。銃で撃って、ころします。
このオスのバンテン、海岸近くにいた群れの長の雄牛で。私に発砲され、傷つくと。群れのメスと若い牛たちを逃がすために、闘牛のように私の前に立ちはだかり、そして――彼は50口径マスケット弾を至近距離から受け、喉元から肺、心臓を射抜かれてその場で絶命した。
だが彼の死により。私の射撃と再装填の10秒ほどの時間を稼いだ彼の死により、彼の群れはライフルの射程外まで逃亡することが出来ていた。

あああああああああああ

この背徳感。
シカやクマ、ワニ、ライオンを撃ち殺したときとは全く違う、この……。
背徳感。罪悪感。己の行いへの嫌悪感。それらが湧き上がるのは……。
三河もんの百姓のソウル。私の遺伝子に刻まれた、逃れられないカルマ。
その農民のドグマが。魂が。遺伝子の奥底が震える。
牛を殺した という罪悪感。そして……。罪の味、禁忌を犯した陶酔、やってはならぬことをやってしまったという、破滅の高揚。
昔から甲斐性なしの男を表すのに使われた「一盗二婢三妾四妓五妻」なる、男のダメさを表す熟語がありますが、それにも近しい……禁忌をやらかしたからこその、興奮。陶酔。
――昔ながらの百姓にとっては、牛は、今の高級車にも勝る財産であり、農耕をともにする伴侶でもあり、殺すなどとんでもねえ、という。何千年にも渡って、私の遺伝子に書き込まれた聖域、禁忌。
思えば、私の父親。生まれながらの三河の百姓である父も、隠居するまで、農機具倉庫の一角で、もう時代遅れの牛を飼っていたなあと。父には、あの牛の存在が誇りであり、大切な生き方の一つだったのだなあ、と。
それを。その牛を。

ああああああああああ やっちまったあああ 快感……

これがじつに、たまんねえのです。
非常に狭い、もはやひんまがった性癖並の。たぶん世界に数人ぐらいの性癖の……この高揚、この……アドレナリンが脳を熱く駆け巡ると同時に「やっちまった……」感が、サーッと脳髄から延髄までを冷たくするような。ゲームの愉悦。
ごんを撃った兵十も。いつも栗をくれたのが目の前の子狐だったと気づき、筒口からまだ青いけむりを立ち上らせている火縄銃を落としてしまった兵十も、きっとこんな(絶対違)

こんなひん曲がった愉しみにひたる元百姓の私はおいといても。
とても楽しいゲームですザ・ハンター。おすすめです。


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