見出し画像

#01 マスクシース開発者 Saya Sayuri 第2回

アイディアが降りてきたって凄いことなんだけど―!!!
いよいよ、開発秘話に迫りますよ。ヒントって日常に隠れているんだな。



▶試作品は、ほぼ完成形だった


――そのきっかけとは ?

会社からの帰り道、電車に揺られていたら、目の前に座っていた人が、
突然マスクをあごに下げ、ガムを出したの。
真っ白なマスクを下げて、紙をひろげて、パッと出したガムをそのまま
つつんでポケットにしまったのを見て、「あ、これだ !」って(笑)

――ガム ?

幼いころの記憶が、ぱあっと心によみがえった。
初めて大人がガムを出すのを見た時の感動――
手で摘まんで出してしまうと、ネバネバと手にくっついて扱いにくく、
見た目もグロテスクなガムが、
あれほど機能的かつエレガントにとり出され、捨てられるなんて……
しかも、その所作自体ものすごく上品で、
「大人って、なんてすごいんだろう」って思ったことを、
鮮やかに思い出したんだよね。

――へぇ、またその記憶のたどり方が、いかにも Sayuri らしい(笑)。

久々に、体が震えるくらいの感動だった。

たとえばメガネケースのように、(メガネを) 外して→たたんで→入れる
いわゆる「ケース」だと、どうしてもマスク本体に触ってしまうでしょう ?
ならば、「顔の上からスタートして、一緒に外す」という手法であれば、
マスクに触らなくてすむ――

それから、その男の人のガムを出す姿が、両手が線対称の動きになっていて
なんともエレガントに見えたんだよね。

――その男の人がとり出したのは、何かおしゃれな紙だったの ?

ううん、普通のちいさなガムの紙。
でも、私の中では一瞬にして想像がひろがって――

あれがガムでなくてマスク全体を覆うものだとして、
夏だから浴衣地の、大きな花や花火や蝶をあしらったものだったら
どうかしら。
人々がマスクを外すたび、あちこちでパッパッと花ひらくように美しい絵柄が登場したら、見ている人はうっとりするだろうなーって(笑)。

――相変わらずピュアな空想力 !

アメリカ生活を経てきたから、日本の古典柄に愛着があった。
それで、頭の中に大きな花や花火や蝶が浮かんでいるうちに形にしようと
思って、家にすっとんで帰り、母が遺した浴衣の反物を引っ張り出して、
夢中になって試作品を作ってみた。

――その行動力もすごい(笑)

せっかく浮かんだ画像が頭からこぼれ落ちてしまう前にと思って(笑)

画像1

でも、イメージを形にするって、普通は10回ではきかないくらい試作品を
潰しては再トライっていうことになるんだけれど、
今回は、ほぼ一発で、「あなたでした~、私が逢いたかったのは !」
っていうものが誕生したんだよね。

ゴルフクラブの企画をしていた頃、デザインが頭に浮かんでから何十回も
試作を重ね、最後は熟練クラフトマンの手を借りて、ようやく納得のいく形に辿りつく――という感じだったけれど、
今回は試作品第1号から、ほぼ頭に描いたとおりだった。



▶モノの「極み」とは


――頭に描いたものがそのまま形になるって、それはなかなかないことよね

ずっとモノづくりをつづけてきた経験が、活かされたんだと思う。
「できるだけ製作の工程が少なく、機能性をしっかり備えながらも
 シンプルで、かつ美しい」というモノを一直線に目指した。

スティーヴ・ジョブスではないけれど、
シンプルであるということが、機能的にもデザイン的にも、
「極み」なんだろうな、って、今回つくづく感じた。

モノづくりの過程でのシンプルさではなく、行って返ってきたシンプルさ。
さまざまなコンプレックスの過程を経て、行きついた先の「極み」、
とでも言うのかな。

――モノの極みか……

日本の ORIGAMI を参考に、折り込みだけで機能性をもたせた内面に対し、
スクエアな面に、画竜点睛のごとく打ちつけたボタン1つ、
という、奇をてらわないシンプルな外面――
そうやって、文章ではないけれど、推敲すればするほど、
男女を問わず、年代を問わず、広い層に受け入れられやすくなるんじゃないかって……

さらに、副産物も。
男性用の浴衣って、それまで「温泉旅館」のイメージしかなかったけれど、
文様生地をあの紳士物のハンカチ・サイズに落し込んだ時、
「あ、シルクロード!」って思った。

――シルクロード !?

ガンダーラやバーミャンがわーっと迫ってくる感じ。
西欧人がよくいうところの、「シルクロードの終着駅」としての“Zipang”を感じた。
女性用の浴衣地以上に、じーっと見ていると面白くて(笑)

――私はそれをじーっと見ているだろう Sayuri の姿を想像すると
  面白いよ(笑)

画像3


――発売して3ヶ月。反響はどう ?

すぐに情報番組(※1)で取り上げられたこともあり、おかげさまで、
注文に生産が追いつかない状況が暫く続いていた。
シンプルなものだからこそ、
品質をおとさずにラインを増やしていきたいと、急ピッチで対応し、
今 (2020年11月現在) は緩和しています。

――多くの人々に受け入れられた最大のポイントは何だと思う ?

究極までシンプルにしたこと、と、
設計にあたり、アバウトさを心がけたことかな。

――アバウトさ ?

そう。コロナ禍では、“must” すなわち「こうでなければならない」が
多すぎる気がする。
「これは、こうしてください」「あれは、ああでなければならない」
と日々課される課題が多くて――
それ自体がストレスよね。

私たちには、実にいろいろな “must” ストレスが掛かっていて――
マスクを日常的にしなければならないのもストレス、
人前でマスクを外すタイミングを見計らうのもストレス、
自分がしていたマスクの内側を見ることもストレス、
外したマスクを一時保管する場所を探すのもストレス。

病気治療中だったせいもあるけれど、
マスクを外したあと、元の形に戻したり、たたんだりするのもストレス
だった。手でマスクに触れなければならないし、
結局また顔の上に戻るのだから、その形に近いまま休ませたい――
ふんわりと、
3Dの顔に貼り付いていたときに近い姿で包んであげたかったの。

――なるほどー。で、そうやって形になったマスクシースが、
  今や全国へ広まっているのね。

嬉しいことにね。
ふたをあけてみたら、ハードリピーターに男性が多いことに驚いてる。
「営業中、置き場に困って肘にかけていました。同じ悩みをもつ同僚のために大人買いします!」
といったメールが届くと、「生みの親」の感覚を通り越して、
たくましく成長し、ヒトのココロを癒しているシース君にエールを送りたくなる(笑)。

それから、効果効能ばかりでなく、withコロナの時代の文化的な価値を捉え
「これぞ、令和男子のたしなみ!」
「淑女の必需品ですね」
といった、コンセプトがきちんと汲みとられたことを窺わせるコメントが
多い。
日本人の美意識の高さに、今さらながら感動してる !

想定していた層ばかりでなく、幅広い層に受け入れられるモノになるという
ことが、スティーヴ・ジョブス氏や一流クラフトマンたちが言及していた「極み」の境地なのかな、とあらためて思ったりもしている。

<< 第1回はこちら                 第3回に続く >>



※1
マスクシースは、2020年8月25日放映のテレビ東京ワールドビジネスサテライト 「トレンドたまご」  で紹介されました。



美しい日本の織物と絹製品の店/Sayuri’s
代表 Saya Sayuri

◆プロフィール
青山学院大学国際政治経済学部・桐蔭横浜大学法科大学院卒業
商社勤務後、ミズノ㈱初の「クラフトウーマン」として同社養老工場試作室へ。当世一流のクラフトマンらとともに、内外のツアープロやトップアマのクラブ作りに携わる。その後、米国西海岸にて法律事務所勤務のかたわらSayuri’s設立。帰国後、聖路加国際病院秘書等を経て、現在に至る。

インタビュー:鈴木美香
写真:橋本剛 @合同会社ムーンベース


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?