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カラスが舞い降りてきて遊んだ日々①|アニマル・コミュニケーション(カラス)


「漆黒の祝福」「カラスの愛」は、野生のカラスと触れ合った実体験をもとにして書いた詩です。ある夏の日にこんなことがありました。


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【カラスのくちばし】

  早朝の草原を裸足で歩く。

  七色に光る朝露で覆われた大地の感触は
  波がキラキラ反射する海を泳いでいるかのような
  水のエネルギーで満ち満ちている。

  そんな自然の大きさに
  唐突に平伏すような気持ちになり
  大気を満たす音と溶けながら
  祈りともいえないハミングを歌っていた。

  カラスが一羽飛んで来た。
  私から数メートルの場所に降り立って、
  しきりに頭を傾げていた。

  ハミングを不思議な音として
  聞いているような、
  そんな気がして
  そのカラスに向かってハミングをした。

  音を聴くのに夢中すぎるカラスからは
  警戒心という野生の勘は抜け落ちていた。
  まるで私が見えていないかのようにだった。

  しばらくすると何か思い立ったように
  ぴょんと一歩、ぴょこんと一歩
  とうとう私の膝頭まで近寄ってきた。

  お互いにまっさらな気持ちで向き合う
  ふたつの生き物。

  濡れているように光る漆黒の羽。
  意外に太い胴体の肉感的な質量。
  空間から切り取られたような存在感の密度。

  不思議そうに私をみつめるまん丸い眼は、
  好奇心だけの透明なガラス玉。

  その美しさに見とれていると
  私の膝をツンツンと突っつき始めた。
  
  オランダの木靴のように、
  ざっくり大きなクチバシは
  それほど鋭利な武器には思えず
  手加減しているのはわかるけれど

  「何してんの?」

  そして気が付いた。
  こやつは私のペットボトルを狙っていたのだ。
  つかもうとするそのクチバシはあまりにも不器用で
  むしろ遊んでいるかのような姿に
  ペットボトルを出したりひっこめたり。

  猫じゃらしならぬ、カラスじゃらし。
  瞬発力を競う駆け引き遊び。

  ひとしきり遊んだら、
  「もういいや」
  という阿吽の呼吸で
  彼は飛び去り、
  私は家路へ。

  自然とひとつに溶けた瞬間にやってきたカラスとの時間は
  なんだか宝石がこぼれおちたかのような
  一日の始まり。。。

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そしてカラスは、その後も何度も舞い降りては、ただ一緒に遊んだ。

ひとしきり遊んだ後は、私の中も空っぽに透き通って
野生に戻ってしまうのだった。

ただひとつになることに
愛するなんて
理由はいらない。


(Photo: ©MiikaRin)



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