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並木柑子
2020年9月9日 22:28
顔も知らない女と2人、名前も知らない町まで逃げて、数週間が経った。自分でも、気が触れていたとしか、そして今でも、気が触れているとしか、思えなかった。東京の大きな駅の構内、たまたまそばを歩いていたというだけで、女は私に声をかけてきた。三十がらみの少しけばけばとした女で、重たそうなキャリーケースを引きずっていた。逃げるべき理由も、義理も、私にはなんにもないのに、気づいたら女と2人で、逃げていた