AI イラストに対して、現時点での個人的な見解

以前Skebにて、僕が非常勤で講師をしている専門学校の卒業生から
アドバイスの依頼がありました。
僕としては全然 Discord とかTwitter(もといX)から来ていただいても大丈夫だったのですが、わざわざお金を払ってSkebから来たりするところが、
依頼してくれた学生のらしさというか、真剣さというか。しみじみ。

以下、回答内容になります。

当然といえば当然なのですが、
やはり AI イラストの早すぎる進化は絵を描いて食っている人間からすれば
脅威です。

というのも AI イラスト、
上手い作家が描いたイラストから学んでいるのもそうですが、
人間が描いたらかなり手間がかかるものでも

作画コストが重すぎてイヤだな...

とか思ってしまうようなメンタルの部分で躓くことが無いので、
全力の描き込みで殴ってきます。

もちろん、作風はかなり流行りを取り入れたものになっているので、ウケも良いです。 

そんな感じで、パッと見るだけでもかなり人力で立ち向かっていくのは無理じゃない?
という気持ちになっ てしまう圧のある AI イラストですが、

きっとこれ、Photoshop が生まれた頃にカメラとか
写真を触っていた 人達が感じていた脅威というか、
そういうものに近いと思います。

実際、
めちゃくちゃにお金をかけて揃えた機材で撮った生の 1 枚のクオリティに
スマホで撮った写真をPhotoshop で加工したもので
素人目にはかなり近づけてしまいます。

カメラの畑の方々にふざけるなとぶっ飛ばされでしまいそうな戯言ですが
上記の通り僕はカメラとかかなり素人です。

同じように、
絵を描かない人や作画の工程にあまり興味のない買い手側の人たちは
だいたい同じような感覚で AI イラストを見ているかな、と思っています。

それでも写真の仕事があったり、カメラが売れていたりするのは
やっぱり生の写真ならではのあたたかみとか、
ちゃんとしたカメラでなければ出せない光の取り込み方だったりを
評価して、欲しがってくれる人がずっと居続けているから。
お客さんのおかげです。

きっとイラストも同じようになっていくと思います。

じゃあ、これからお客さんが欲しがってくれるような絵を描いて行くため、
AI イラストによる商売と戦っていくため
フリーランスの絵描きに何が必要なのか、本題に入ります。

フリーランスの絵描きに何が必要なのか


・作家性


作家性、と書きましたが
いわゆる絵柄とかそういう解釈で読んでください。

此度のAIイラスト問題で1番焦っているのは恐らく、流行の作品、絵柄をしっかり取り入れながら活動している作家です。

逆に言えば、独自の世界観や絵柄で創作をしている
SNS とかで流れてくる絵の中では、"マイノリティ側" にいる感じの作家はどっしり構えているように見えます。

イラストレーターって、人と違う事をやり続けられる人間にとっては最高の仕事だと思って生きてきましたが、
今まさにその辺が光る時なんじゃないかと思います。

独特の絵柄や、ヘタウマとか呼ばれたりする絵って
学習させるのはサンプルの少なさから困難であると同時に、
AIイラストで食っていこうとする側からすればあまりメリットがないので
同じ土俵で殴り合わなくて済むというか、
全然関係ないところで悠々とマーケットを構えられる強みがあります。

これは今も昔も変わらずといった感じですが。

そんなわけで、別に流行りに乗っからなくても自分の思うカッコイイとか
上手いのイメージが創れる作家になるのが 1 番かと思います。

別に思いっきり崩した作画とかでなくても、
目の描き方にこだわりがある、髪のハイライトに独自性があるとか、
そんくらいのワンポイントで魅せる作家性なんかでも十分だと思います。

イラストって、キャラクターって、どんなに自由な発想で描いても良いので。


・人間が描いているからこその粗さ


マジ?と思うかもしれませんが
これって AI くんが 1 番作りにくい要素です。
僕らにんげんのイラストレーターが

「AI の描き込みの精度ヤベー」

と思っているのと同じくらい、きっと AI くんも

「人間の手の抜き方やべー」

と思っている事でしょう。


人間の描いた絵のいい所は、その作家が見せたい所と
そうでないところの描き込みを明確にレベル分けできる所。

AI くんでも指示の仕方である程度は緩急つけられると思いますが、
それでもやっぱり人間ほど上手く加減できないのではと思います。
現時点ではね

人間ならではの、すこしガサッとしてしまう部分とか
そういう粗さはある意味人間が描いた証であるので
そういった所に価値を見出す買い手は必ず出てくると思います。

制作工程のタイムラプスなんかも、
人間ならではのものなので そういったものを fanbox とかで公開したり~
とか、没のイラスト、修正の過程なんかも
AI には無い売り方のひとつかもしれないです。

※この文章を書いていた頃はまだタイムラプスまでは生成されていなかったのです。


・即売会等での売り方


売り方というか、コミュニケーションというか。
当然人力で生まれたイラストには、描き手がいます。
コレと、買い手をダイレクトに繋いでくれるのが
同人誌即売会とかのイベントです。

一瞬の触れ合いですが、
ああいう場面でのやり取りに喜びを感じるファンは絶対にいます。

仮に、AI に呪文を唱えて絵を描いてもらった作家が
同人誌即売会の場に現れることがあったとしても、
実際に自分の手で絵を描いている作家と同じようにはいかないでしょう。

そもそも、AI イラストって
AI くんが人間の指示のもとにイラストっぽく生成した画像なので
その指示をしている作家って言うなれば魔法使いですね。

対して、僕ら絵描きは自力でイラストを描きあげている。
まあ、戦士みたいなもんです。

同人誌即売会って、イラストが好きな人が
戦士に会いに来るイベントだと僕は思っているので、
こういった場所にしっかり赴く事が
大切になってくるんじゃないかなと思います。

☆アナログ力(あるとなお良い)


AI くんが絶対に手を出してこない領域の話です。
まあ、やれんことは無いだろうけれど。

確実にAIくんが人間に太刀打ちできないのがアナログです。
色紙イラストだったり、スケブだったり、
お絵描き経験値をしっかり貯めてきた人間にのみ与えられる
対AI戦に置ける最強の武器がアナログです。
(本質的に戦うような相手ではないのですが、まぁ物の例えです)

PCが普及して、デジタルから入った作家が多くアナログには抵抗があるよ、
という絵描きも少なくない今日この頃ですよね。

しかし、これからはアナログが描けると
どんなに AI の技術が進歩しようとも

「おまえ、ひょっとして絵が描けるのか...?」

と、1 目置かれる存在になるのです。

アナログ絵の価値も確かなものになっていくでしょう。
余裕があれば、
自分の絵を簡単にバストアップとかでもいいので
色紙大くらいの大きさで描けるようになっておくと
イベントなどで役に立つと思います。


まとめ


さて、随分長い読み物になってしまいましたが、
まとめです。

AI イラストは驚異である。
しかし、AIイラストに取って代わられるほど、
人間の描くイラストはつまらなくない。

というのが僕の意見です。

なんで自信を持ってこんな事を言っているかといえば
やはり人間の描いたものには、どこまでいっても
"人間が描いたもの"だという価値があるのです。

まさかこんな事が
イラストにとっての付加価値となる日が来るとは
思ってもいませんでしたが。

むしろこれからは、
AIイラストから
人間が諦めてしまう部分の描き込み方だったり、
質感表現だったり、盗んでいけるポイントがあるかな
とさえ感じています。

あとは、たとえば 背景があまり好きじゃない作家が
「背景いい感じにつけてくれ」とサポートを受けたり、
みたいな作り方も生まれてくるのではと思います。


学生からの質問の中に、
今までの活動内容では生き残れない人も出てくると思う〜
といったお話がありましたが、それはその通りです。

そもそも、流行りに乗っかって
今風の絵柄で、というだけでは
AI の存在がなくとも、時間とともに息切れして
食って行けなくなっていくと思います。

そのくらい、アンテナを高く張り続け、
変わり続けるというのは大変な事です。

自分の絵の中にある、
ちょっと人とは同じでいたくない、こだわりの部分を大切にしながら
これから更に伸びていくだろう AI イラストですが、
せっかくの技術なので出来るだけ味方につけて、 共存していけたら理想かなと思います。

とにかく、見てくれる人、買ってくれる人ありきの商売なので
消費者が人間の描くイラストに価値を感じてくれているうちは
イラストレーターもまだやって行けるかなと思います。

単純な画力勝負のだけではないので
全然ビビらず、作家性、みたいなところをちょっとだけ意識しながら
前向きにやっていきましょう。 僕もそうします。

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