特に有名なイラストレーターでもない僕が絵の描き方を教えている理由

イラストレーターという仕事に対して僕はずっと、
夢のある仕事だな というよりは、夢を見ている人間が志す仕事だと思っていた。
日本の学生の大半は、大抵世の中で大切とされることの基礎は学校というところで教えられて、いい大学に入って、いい会社に入って、みたいな事を良しとする環境の中で生きている。

図画工作だったり、美術だったりが人よりちょっと出来たくらいで、先生からその努力を称えられたり、クラスでヒーローになれるような世界はあんまりない。
せいぜい、才能があっていいねと言われるくらいだ。

こんな世界に、ずっと理不尽さを感じていた。
お前たちが必死になって勉強したり、部活をしたりしている間、こっちは必死になって絵を描いて、手に入れた画力であるのに。
進学や就職、はたまた承認欲求のためにやっているようなお前たちよりずっと純粋に打ち込んできただけなのに。

学校で、絵の描き方なんて教わったことがない。
絵で飯を食っている人間なんて周りにいないから、道標もない。
いざ働いてみりゃあ、普通の会社員となんも変わらん割に合わない仕事なのに、人々は無責任に夢のある仕事だとか才能のある人間の仕事だと言う。

正直、僕が業界に入ったくらいのタイミングでは、技術や知識についてインターネットで教えてくれたりする人間やサービスが今ほど無かったので、適当な独学ベースでも人よりちょっと上手いだけの自分はプロと呼ばれることが出来たし、僕より上の世代なんて僕が中学生くらいの時の画力でもプロになっていると思う。

上のところを読んでムッとしたり、僕に対して憤りを感じた人間はまさに僕と同じかその上くらいの世代の人だろうし、そこからこれといった努力もせずただ新しい世代の実力に翻弄されている弱者であるので、少し気分が悪くなった今のタイミングでブラウザバックをおすすめする。

でも、今の若者は違う。簡単に絵描きになれた僕らのように生ぬるい環境にはいない。
YouTubeや添削サービス、SNSに流れてくる大量のイラスト。これほどの物量と知識に溢れた時代に、これを1からやれるなんて思える人間がどのくらいいるかというはなしだ。

もちろん僕らの世代にも当然バケモノみたいな奴らはいて
こんなヤツらとまともに肩を並べて戦えるわけが無い、と結構しっかりめに心を折られたことがある。

高校生のころ、親に黙ってマンガの新人賞に出したり
編集者に生の原稿を送り付けてみたり、担当がついてちょっと喜んでみたりなんてことをした事があるが
マンガの読み切りひとつ作るのにもとんでもない労力と時間がかかって、やっとこ捻り出した傑作は何の賞にもかすらなかったりした。
でも、週刊少年ジャンプとかいうやつで連載している奴らは、これを週に1本、それ以上のペースで描きあげて世にはなっているのである。
そんな人間たちと、肩を並べて戦っていけるビジョンは1ミリもなかった。
今思えばろくに絵も学んだことの無い高校生風情がプロと比較して勝手に負けた気になっているなんて、傲慢もいいところであるが。

本当にやる気のある人間なら、それでもその中から輝いて売れる人間になっていくだろう
みたいな気持ちも正直無くはないが
歳を重ねて、仕事にして、それなりに絵が描けるようになると ここはとんでもない魔境では無い、というのが分かるようになった。
バケモノがどんな鍛錬をしてバケモノになったかが分かるようになった途端、バケモノに囲まれた世界での息の仕方が分かるようになった。
僕が迷い込んだ魔境はマンガではなくイラストレーターの住む魔界であったが。

あの頃に、もっとこういう感覚がしっかりあったら
こんなとんでもないところで生きていける訳が無い…みたいな、高校生のあの日に味わった程の絶望はせずに済んだのかなあ

みたいな気持ちが、僕が人に絵を教える仕事をやってみたりするようになったおおまかなきっかけである。

あと、特にこれといってネームバリューで稼いでいない僕みたいな絵描きがいるってのも知って欲しいなという気持ちがある。
世の中名前を出して出来る仕事ばかりではない。
特にゲーム業界の仕事なんかは、名も無きイラストレーター、グラフィッカー達の努力で成り立っている。

僕は、
とにかく人と関わらず目立たないこと
好きな格好をしていてもおこられないこと
もうやりたくないなと思ったその日にやめても人の命に関わらないこと

というのを条件に仕事を探しイラストレーターという選択肢にたどり着いた訳だが
特にこのグラフィッカーという仕事は天職だった。

名前も特に晒されないので目立たないし
版権元がキャラクターデザインとかをくれるから
指示に沿って作画をするだけでいいし
かといって絵を描く仕事であるからこれといって
新しく覚えなきゃいけない事もそんなに無いし
毎日ソシャゲのデイリーをこなすような仕事だと思っている。(これに関しては僕の感覚がぶっ壊れているだけで多分そんなことは無い)

人に知られることはないが、自分たちが作ったものが形になって世に出る。人の手に渡る。

娯楽でしかなかったお絵描きが確実に人に認められる瞬間がある。

フリーランスの絵描きとはちょっとちがうけど、こういうクリエイターとしての楽しみ方もある
というのを、知って欲しいなと思う。
きっと僕と同じようなタイプの絵描きはたくさんいるとおもうから。

なんで人に絵を教えているのか?みたいなことを聞かれることが多くなったので、僕なりに適当にまとめてみました。

なんか読み返すとめちゃくちゃな文章だけどまあいいや。おわり。










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