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Stranger in plastics

1945年3月27日。フランクフルト南郊、米軍第180歩兵連隊の兵士たちがベンスハイムの街を通過する。アンナ・ミックスは妹のマルガレータが暮らしていた家の廃墟の前で呆然としていたところを写真に撮られている。初めて見る写真なのに老女にはどこか見覚えがあった。


Mini Artの1/35ミニチュアシリーズ『ドイツ市民1930−40年代』のあの老婆だ。片手を頬に当てたまま杖をついているところまでそっくり模している。靴のヒールは写真の方がわずかに高い。およそ荒れ果てた街には不似合いな靴が突然に見舞われた悲劇を物語っている。プラモデルになった彼女の靴はジオラマの中を歩きやすいように少しヒールの低いものに履き替えられている。

1945年7月。敗戦後のベルリンで交通整理にあたるドイツ警官。彼は米軍が撮影したカラーフィルム『Berlin and Potsdam 1945』の14:00辺りに登場する。

彼もまたMiniArtのプラモデルとして金型に刻まれている。

ヘルメットを検問するポーズと警帽を被って交通整理をする二つのポーズを演じられるようになっていて彼はなかなか忙しい。

1933年、野戦電話のケーブルを敷設する演習に取り組むヒトラーユーゲントの少年も、腕のポーズは少し違うがモデルとなっていることは明らかだ。


ロンメル将軍など特定の有名人でない限りプラモデルの一般的なフィギュアが特定の個人である必要は全くない。しかしスケールモデルが過去に実在した車両を参照することが模型の存在基盤であるならば、MiniArtのフィギュアは類型化した人間という曖昧な対象でなく過去にカメラを向けたその先に間違いなくそこいたはずの誰かを選んでいる。

極めてスケールモデル的な誰かに似たプラスチック。

(2023/7/27  Post に掲載)

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