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見えても見えなくても

意外と知られてない話だけど、ポケットの中身は写らない。どんなにハイスペックなカメラを使っても見えないところを写真に撮ることはできない。

だよね。その人のポケットに何が入ってるのかなんて、透視能力を使わなければ見える訳がないんだよ。財布が入ってるのかキーホルダーなのか。もうひとつの鍵は実家の鍵なのかガールフレンドの部屋の合鍵なのか... なんて。

だけど何があるかを知ってて撮る写真はすこし違う。その人が持ってる角が擦れて色落ちした財布は近所のコンビニで買い物したレシートでいっぱいで、スポーツジムの会員証に秋葉原のホビーショップのポイントカード。

実のところ、ポケットの外側の世界は財布の中身で出来ている。

写真の話をしてみたけど、模型を作るときにも同じことが言えると思う。

T60の内部

最近のAFVモデルにはインテリアを完全に再現するキットがあります。ハッチを覗いて見える範囲だけじゃなくて、操縦席やトランスミッション、エンジンルームの燃料タンクまで再現されてたりするから、世界がどこまでも続いているように見えて、ちょっと不思議な気分。

だけど、インテリアは写真に写らない。装甲板で蓋をしてハッチを閉めてしまえば中は真っ暗闇。まともに考えれば、見えないものを作る必要あるのかという話ではあるけど、模型が外身だけのハリボテなのか内部に空間を抱えているのか、その差は途方もなく大きい。

内部の誘惑。閉じた空間の魔力とでも言うのでしょうか。囲まれた場所にはそこだけの時間が生まれます。窓ガラスの内側にはいつものコーヒーと日曜日の音楽が流れている、あの感覚です。だからインテリアは楽しい。

戦車の中にだって、時間が生まれて「生きている」ように見えてくる。

... 使い込まれてペンキが剥げて、靴についた泥で汚れた車内の床には何色が似合うだろうか。ロシアの麦畑なら黒土(チェルノーゼム)なのか。さっきまで外にいたなら湿った色だし、昨日の土なら乾いた色。

... シートのレザーの色は誰かが座ってた時間の跡。持ち込んだ私物はどんなものだろうか。壊れたシートをなんとかしようと見繕ったカフェの椅子は、プラハだったらトーネット社の椅子(No.14)かもしれない。

外の世界を想像しながら内部空間に作り込んだ物語は、外側の世界も変えていきます。心の内に抱えるものが人のちょっとした仕草や表情に現れたりするように、模型でもディテールの些細な「表情の作り方」に心が行き届くようになる。結果として、ハッチを閉めてしまうと内部は見えなくなってしまうのだけど、外から見てるだけなのに中にいる人が見える瞬間があります。

そうなってくると模型は面白いと思う。

グリレの内部



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