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双璧の誓盟 第一話 旅の朝

あらすじ

緑に囲まれた平和な国、シレア。城下町には国に一つしかない時計台が立ち、時を知らせ国に秩序と安寧をもたらす。
シレア国の後継者カエルムは25歳にして辣腕をふるい、父亡きあと母の傍らで実質的に国を支えている。このたび彼は側近ロスと辺境に赴いている。
というのもカエルムの妹が王都から武具の原料になる鋼の不審な流出があるとの情報を得たのである。シレアは隣国テハイザと緊張状態にあるため不安要素は取り除く必要がある。怪しい薬草の商取引を耳にした二人は、事件との関係を疑う。そして商人の案内先で事件の核心に至る。
これは国を想い、国を守る王子の矜持と信を置く側近が、剣技と頭脳で事件解決するまでの話。

第一話 旅の朝

 山裾が次第に光の線で飾られ、夜の闇に紛れていた木々の葉の先が金に縁取られ始める。かと思えば、連なる峰のある一点を中心に、紫がかった明けの空へ鮮烈な輝きが放射状に広がった。
 山麓に開けた街の屋根は朝日を受けて鮮やかに色を変え、さらに道々にあった闇をも取り払っていくように、光は瞬く間に影に覆われていた市街全てを塗り変えていく。
 夜が去る。
 太陽が山の峰の上に完全に姿を現すと、ほどなくして澄んだ音色が鳴りわたった。一回、二回……時を告げる鐘の音である。しかし市街に鐘楼らしきものはなく、その清澄な響きは果たして、どこから聞こえてくるのか。
 この国の民ならば、その答えを知っている。このシレア国にあっては、時を知る道具を探す必要などない。国で唯一、時を刻み、人々に知らせるものは、王都シューザリーンに立つ鐘楼の時計のみ。常に正確に、しかし常に異なる音で、その瞬間にしか存在しない一度きりの時を国の全土へ伝える。
 シレアただひとつの時計の音は、国のどこにいようとも、シレアの民に「時」を教えてくれるのだ。
 それはこのような国の辺境であろうとも。

 たえなる鐘の音は、六回。
 最後の音が鳴ったのを合図に、市街へ続く道の途中、州境の門が開いた。

 はたしてそれを待っていたのか。栃栗毛と黒の二頭の馬が関所を抜ける。
 静寂を破る小気味良い蹄の音が、空気を震わせ天高く昇っていく。

この後のお話

第二話 微震(一):

第三話 微震(二):

第四話 微震(三):

第五話 探査(一):

第六話 探査(二):

第七話 探査(三):

第八話 密話(一):

第九話 密話(二):

第十話 密話(三):

第十一話 浄化(一):

第十二話 浄化(二):

第十三話 浄化(三):

終章 帰郷:



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