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シレア国 兄王子中編

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硬派ファンタジー、イケメン主従、アクションありのバディもの。 正統派イケメン王子と苦労人系イケメン従者です。 30000字なので、サクッと読んでください! よろしくお願いいたしま…
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#シレア

双璧の誓盟 第二話 微震(一)

 関所を抜けてしばらく走り、市門が先に見えてきたあたりで二頭は速度を緩めた。ややもすると栃栗毛の方が前に進み出て、門の前で足を止める。明るさを抑えた臙脂色の羽織を空に遊ばせて馬上の男性が軽々と降り、手綱を引いて門の方へ踏み出した。 「ちょっと殿下」  男性は足を止めて振り返った。平均よりやや高い身長か。細身ながら適度に鍛えられた身体つきは服の上からでもわかり、すらりと伸びた四肢と均整を取っている。腰に佩いた剣が飾り物でないことは、注意力のある者ならわかるはずだ。  だが彼が纏

双璧の誓盟 第三話 微震(二)

 シレア国王都シューザリーン。中心に国の宝たる時計台の建つ城下町のほど近く、シレア王城でのことである。  いつの間に秋が深まっていたのか、思いのほか気温が下がった。上着を取りにカエルムが日中に執務室から自室へ戻ると、扉の前で待つ娘がある。 「アウロラ。どうかしたのか、こんな時間に」 「お兄様!」  こちらの姿を認めるや、娘はぱたぱたと駆け寄ってきた。今年十六になったシレア国第二子第一王女アウロラ。カエルムの九つ下に当たる妹姫である。 「お仕事、お疲れさまです!」  兄に軽く抱

双璧の誓盟 第五話 探査(一)

 市門を入ってすぐのところには石塀が両脇に並び、二階建ての建物がその向こうに見えた。朝日を受けた煉瓦屋根は鮮やかで、道ゆく者は誰かと軒先から小鳥が首を出す。  この一角は市門を管理する役所兼担当役人の宿舎が占めるのだと、プラエフェットは説明した。そのため周囲は店も何もなく殺風景であるが、中心部へはすぐだという。  その言葉通り、人気がないと思ったのはほんの一時で、数区画もいかないうちに朝の仕事に繰り出す人々と行き交うようになる。田舎の街によくある市街設計で、行政や商業の中心は

双璧の誓盟 第六話 探査(二)

 狭い街だ。地面を鮮やかに彩る枯れ葉を踏みながら住宅街の道を進んだのはほんのわずか。すぐに街の中心が見えてくる。 「それで、叔父によれば鋼の類が国外に出た形跡はまだない、ということですね」  国境では手荷物調査があり、商人なら輸出品目の申告が義務である。役人に調べさせたところ一度に大量の持ち出しはなく、個人単位の荷物を合算してもそれらしい報告は無かった。一方、度重なる買付けがこの街からであるのは、シューザリーンで鋼を扱う業者の輸送先記録から確実だ。  並木沿いの花壇から栗鼠が

双璧の誓盟 第七話 探査(三)

 花茶への興奮をたちまち美男子の方へ切り替えた娘たちは、「も、もちろんですっ!」と叫んで自分のすぐ隣の椅子をカエルムに勧めた。礼を言ってカエルムが座ると、もう一人が「あっ」と羨望と妬みを露わに顔を顰める。しかし目の前の青年が話の邪魔を詫びれば、即座に不満顔を恥じらい混じりの笑みに変え、遠慮がちを装って話し始めた。 「えぇっとぉ、お兄さんも雪見花の効能とか気になるんですか?」 「いえ、単に茶の類が好きでして。雪見花茶は手に入りにくいですから試してみたいと」  嘘つけよ、とロスは

双璧の誓盟 第八話 密話(一)

 話に聞いた茶屋は飲食店街から一本向こうの通りである。食堂から出てくる人々を躱しながら早足で進み、地図を確かめて右へ折れた。  狭い横道なら人の目もない。角を曲がり切って小走りになろうとした時、前を歩いていたロスが「あれ」と足を止めた。 「グラカリスィタ嬢」  通りの向こうから来るのは、丈の長い茜色の巫女服を着た女性だった。灰青色の長い髪を部分的に結い上げ、後れ毛も組紐で簡単にまとめている。 「まさかここで会うとは。奇遇というか」  ロスの後ろから顔を出したカエルムの声音にも