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「国事史 月海暦 千四百九十八年 盛秋新月。 天の標が失われ、蛮族、城内に厄をもたら…
終章 旅の終わり 石壁に囲まれた部屋の中は、水面に落ちる滴の音さえしない。 何ものも…
第十五章 火焔(ニ) 常ならぬ状況を察知したのか、馬の足取りに困惑が感じられる。それも…
第十五章 火焔(三) 暁色の中に真南の水平線を浮かび上がらせた薄明は、刻一刻と王都の空…
第十五章 火焔(一) 上階から降りて窓硝子を割り武装した男たちが部屋に乱入してくる。怒…
第十四章 鳴動(三) 水道は次第に狭くなっていく。渡り廊下の下は、やっと小舟一つ通れる…
第十四章 鳴動(二) 窓の桟を軽く蹴って、カエルムは宙に身を投げた。視界の右側に例の不可思議な水面が見える。半円形の部屋で左端の窓から出たのだ。自分の目指す落下点は真南にある水面からやや東にずれたところに当たる。 脚の裏に空気抵抗を感じながら真っ逆さまに落ちる。肩口で留めた紅葉色の羽織が吹き上げられ、頬の横で布が風に叩かれて鳴った。頭上から聞こえていた騒音は羽織の音に邪魔され、どんどん小さくなる。それに反比例して城に面した蒼い水面がみるみるうちに近くなり、城の最下層の壁
第十四章 鳴動(一) ロスは窓辺に駆け寄り、大鷲の脚から書簡を手早く取った。組紐から解…
第十三章 真意(三) 差し迫った問題を真剣に案じるカエルムとは対照的に、テハイザ王は心…
第十三章 真意(ニ) 「貴殿の訪問の申し出を好機ととらえました。私がシレアと友好を強化し…
第十三章 真意(一) その人物は、窓の外に広がる大海を背に三人を真正面から出迎えた。長…
第十二章 抜刀(三) 通路はなだらかな弧を作りながら下方へ向かって伸びていた。向かって…
第十二章 抜刀(二) 鋼のぶつかる音が空気を震撼させ、硝子が小刻みに鳴った。その音が鼓…
第十三章 抜刀(一) カエルムの発言に、居並ぶ全員が息を呑み、驚愕が室内を支配した。凍りついた空気の中で、ただ一人カエルムのみが、目の前の男を見つめたまま不敵な笑みを浮かべている。 驚いたのはロスも例外ではなかった。確かに国の章を衣に示す男は「王」と呼ばれ、自分の主も成人したテハイザ王と会うのは初めてと言っていたはずだ。 場が固まっていたのがどれくらいの長さだったのか。誰一人として息も付かずに動きを止めた、その静寂を破ったのは大臣だった。 「聡明と誉れ高いシレア国のカエ