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ヒップホップ映画祭

ソーレン・ベイカー著『ギャングスター・ラップの歴史』が面白い!!

キャッチフレーズは「スクーリー・Dからケンドリック・ラマーまで」。タイトル通りギャングスタ・ラップの歴史を学ぶという意味でも、また公民権運動以後のアメリカ黒人史の一面を学ぶという意味でも面白い。

1983年にマイケル・ジャクソンの”Billie Jean”が大ヒットするまで、黒人ミュージシャンの曲はMTVのゴールデンタイムには流れなかった、とか全然知らなかった。その後1988年に『Yo! MTV Raps』を試しに放送してみたら年間3位の高視聴率を獲得。やっと「ラップってこんなに人気があったんだ・・・」と偉い人たちが気づきレギュラー化、結果的にギャングスタ・ラップが生まれるような土地と縁のないような若い白人たちの人気も獲得していった、というエピソードはアツい。

自分の話をすると中高時代を過ごした2000年代のJポップのヒットチャートは軽いノリの日本語ラップとミクスチャー全盛でそれなりに聴いていたけど、2002年公開の『狂気の桜』を観たことがきっかけでキングギドラにハマり、「それはヒップホップじゃねえだろ」「ジャパニーズ・ヒップホップじゃねえのかよ」というセリフや歌詞を真似したり、痛いことをしていた笑。

洋楽では同じく2002年にエミネム主演の『8Mile』が公開され、洋楽自体初めて聴いたような子たちも「エミネムかっこいい!!」と言ってファンになってたくらい人気があったなあ。私もやっぱり洋ラップとの出会いはエミネムで、2ちゃんねるで「今1番ヤバイ音楽はエミネムだろ」みたいな書き込みを読んで立川のHMVに走ったのを覚えている。

その流れで50セント、D12、ドクター・ドレー、スヌープ・ドッグ、アイス・キューブなんかも好きになった。50セントに関しては「9発撃たれた」という宣伝文句を自分のことのように友達に自慢していたものです笑。

しかしそんな50セントが今や「最後のギャングスタ・ラッパー」と呼ばれているというのにはなんか複雑な心境になる。

この本を読みながらそんなことを思い出しながらいろいろ聴いていると、当然映画も観たくなる。という訳で、自分の好きなヒップホップ(関連)映画について語りたいと思います。

Style Wars(1983年)

ヒップホップ黎明期を映像に収めた作品。名作と名高い(けど私は未見の)『Wild Style』と同じく1983年の作品で、今年になって初めて日本で公開されたらしい。ニューヨークの地下鉄に落書きグラフィティする若者たちを追ったドキュメンタリー。

出演者がラップするシーンなどは出てこないけど80年代初頭のラップが流れて、ラップ・グラフィティ・ブレイクダンスを合わせてヒップホップという新しい文化を創り出していく若者たちのパワーと時代の雰囲気を感じられる良作。「ヒップホップはニューヨークから生まれた」と言われる理由がよくわかります。

先日、八ヶ岳にあるキース・ヘリング美術館に行ったのですが、館内で「東京・代々木公園で日本人の若者たちとブレイクダンスするキース・へリング」の映像を見ることができました。そういえば、彼もまたニューヨークのサブウェイ・ドローウィングで出てきた人だった。

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SLAM(1998年)

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10年以上前に見た映画なので詳細は忘れてしまっているけど、ワシントンが舞台のポエトリー・リーディングの話。主人公が逮捕されたことをきっかけに、刑務所の中で言葉の力に目覚めて詩を書いて朗読するのだけど、それがめちゃくちゃカッコイイ。爆発寸前の感情を言葉に込めて放出する。生きる上でのいろんなしがらみや不平等さから、詩を読んでいる時だけは解放される。ラップは元々こうして生まれたんだな、ということをなんとなくだけど摑める映画です。

ボーイズ'ン・ザ・フッド(1991年)

1988年にコンプントン出身のN.W.Aの『Straight Outta Compton』が発売され大ヒット、ギャングスタ・ラップ旋風を巻き起こしたあと、主要メンバーの一人アイス・キューブが脱退後に出演した映画。

アメリカ黒人社会における「父親」にフューチャーしているところが興味深い。男性は若いうちにギャングに関わって大抵暴力沙汰で早いうちに命を落とすので多くの子供たちは父親を知らず、それしか生き方を知らないのでギャングに入る。「あの子たちの未来は目に見えてる」という母親たちの言葉がリアルすぎて悲しい。抗争で殺されるために生んで愛して育てたのか?君死にたまふことなかれ。どうしようもない悪循環。抜けるには、それこそ大物ギャングになるか有名ラッパーになるかしかない。

同じくジョン・シングルトン監督の2001年の映画『baby boy』も、『ボーイズ’ン・ザ・フッド』よりはぬるい雰囲気だけど同じく父親がテーマで結構面白い。カッコイイけどクズな不良役のスヌープ・ドッグが良い。

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ストレイト・アウタ・コンプトン(2015)

2015年の大ヒット作。6年ぶりに見直したけどめちゃくちゃ面白い。かっこいい。ヒップホップに興味がなくても絶対楽しめる。

イージー・E、ドクター・ドレー、アイス・キューブが在籍した伝説のグループN.W.Aの伝記映画。これまでヒップホップといえばニューヨークで、最初は「コンプトンのことなんか誰も興味ねえよ」とか言われるんだけど、「ストリートのリアルを伝える」と始めた過激で攻撃的なラップが大ヒット。「ギャングスタ・ラップ」というジャンルを確立することになる。

メンバーはお決まりのパーティー・パーティー!ドラッグ・ドラッグ!女・女!な成功者ライフを送るけど、レーベルの社長でもあったイージー・Eと金銭面・契約面で揉めて結成から2年ほどでアイス・キューブが抜け、さらに翌年にはドクター・ドレーも抜ける。お互いをディスった曲を出したりしつつ、それぞれ八面六臂の大活躍。色々あって和解したすぐ後にイージー・EのHIV感染が発覚して亡くなるまでを描く。

イージー・Eがエイズで亡くなったのは、当時相当な衝撃だっただろうな…あれほどの女好きで、強く男らしいイメージのギャングスタ・ラッパーが、抗争ではなく、ディスの対象だった同性愛者のようにエイズで死ぬんだから。生好きをからかわれていたので当然の成り行きといえばそうなんだけど、「俺はゲイじゃないからエイズにならない」みたいな一般の意識を変えるきっかけにもなっただろう。

若くして亡くなったのはすごく悲しいけど、12歳で初体験して売人として稼いでその経験をラップにして成功し、モテ続けて稼ぎまくりのヤりまくり、あまりに生き急いだけど悪い人生じゃない。ラッパーとしては初心者でそこまで上手くないんだけど(受け売りです)、モロにLAのギャングって感じがリアルでかっこよくて、N.W.Aのイメージを確立したのはイージー・E。

音楽的にも、N.W.Aのガチャガチャした攻撃的で荒削りな音から、ドクター・ドレーの名盤『The Chronic』(1992年)で攻撃性は残しつつ後ろノリの洗練された音になっていく転換期がよくわかって面白い(『ギャングスター・ラップの歴史』で「クラックから大麻へ」と書かれててすごいわかりやすい表現!と思った)。

あとは2020年のジョージ・フロイドさん事件でBLM運動が注目されたことにも繋がるけど、黒人同士つるんでると何もしてなくてもいきなり警官に銃突きつけられて路上に押し倒されるような日々の経験から"Fuck tha Police"が生まれたこともよくわかる。

もちろん彼らも彼らで簡単に銃で人脅すしギャング的なんだけど、「これもまたリアル」ということ。男女の美しい愛を歌う曲だけ流してれば世界が良くなるわけじゃないからな。

ジュース(1992年)

これはずっと観たかったんだけど全然配信にならないし近所のTSUTAYAにもないのでついに買いました、DVD! めっちゃよかった!!!

あの2パックがラッパーとして有名になる前に主演した映画。北野武監督『BROTHER』に出ていたオマー・エップスのデビュー作でもあります。

小さい時から親友の4人組だったのに、銃を手にしたことで、全てが変わってしまった・・・という悲しい青春映画。

2パック、さすがシェイクスピア大好きで演劇学校に行っていただけあって演技うまいし、印象に残る。

上述の『Yo! MTV Raps』の人気ぶりがうかがえるシーンが時代を感じて面白いし、DJを目指しているQのDJバトルシーンがかっこいい。MCじゃなくてDJに焦点を当ててる映画って意外にない気がする。

オール・アイズ・オン・ミー(2017年)

これも今回5年ぶりに観ました。西海岸デス・ロウ代表として東西抗争の犠牲となり、わずか25歳で凶弾に倒れた2パックの伝記映画。

2パックの人格形成には、両親がブラックパンサー党員(マルコムXの思想を受け継いだ過激な黒人至上主義団体とされる)だったことがかなり影響を与えてることがわかる。どんなにワルっぽいこと歌ってても、根底にあるのは革命家精神。

2パックって知的好奇心が強そうだし、どうしてもトラブルに巻き込まれてしまうような地域で育ってなければ割と真面目な子だったのではないかという気がする。

歌詞が女性蔑視だと女性団体に訴えられたり、無実のレイプ事件で訴えられたり女絡みで苦労するけど、こんな優しい曲もある。

母親が面会を終えて刑務所から帰る中で流れる"Dear mama"には感動必須。


「俺は世界を変えないけど、俺の言葉を聞いた誰かが世界を変える」

これ、大好きなセリフです。

ノトーリアス・B.I.G(2009年)

バッド・ボーイズ・レコードでニューヨーク・ラップの復権を果たすも、2パックと同じく東西抗争の末に24歳で亡くなったノトーリアス・B.I.Gの伝記映画。

今回見直して、ビギーの曲が好きで人生にも興味があるから楽しめるけど映画としては正直微妙、という前観たときと同じ感想を持った。

ビギーの音楽のどこが革新的だったのかとかそういうところがあんまり描けてないから、「いろんなとこで女作ってトラブったけど、子供ができて改心し出した矢先に撃たれちゃった」というだけに見える。

「革命とか言い出す2パックは二面性があって面白いやつ」というセリフ、対するビギーはまるで主張なしにただ金を稼ぎたいだけの男みたい。

あと、愛人だったリル・キムの扱いがちょっとひどいなあ・・・。娼婦扱いされてるのに完全には離れない都合の良い女みたいにされてる。ライブシーンはセクシーな女ギャング風で超カッコイイのに!!

まあでも、ストリートでのラップ対決のシーンはカッコイイし、ビギーの短い人生をざっと追えるので一見の価値あり。

ノトーリアス・B.I.G-伝えたかったこと-(2021年)

本人映像を混ぜつつ、彼のお母さんや親友から話を聞くドキュメンタリー。新事実は特に無いものの、映画『ノトーリアス・B.I.G』よりずっと彼の音楽的ルーツや人となりが伝わる良作。

お母さんはジャマイカからの移民で、ビギーを連れてよく帰省していたらしい。ジャマイカでは歌手である叔父と仲良しでよく一緒に歌のイベントに行っていたとか、彼のソウルフルな曲作りのルーツを感じる。

余談ですがビギーのお母さんが去年亡くなった私の祖母に激似でびっくりした笑。私のルーツもカリブ海だったら嬉しい。

8Mile(2002年)

冒頭でも書きましたが皆が熱狂したヒップホップ版『ロッキー』、エミネムの半自伝的映画『8Mlile』。主題歌"Lose Yourself"も合わせて大ヒットしたのは記憶に新しい。何度観てもアツくなる。

デトロイトを舞台に、8マイルより向こう側に行けない「黒人よりも貧しい白人」であるラビット(エミネム)が、黒人優位のラップバトルで勝ち上がっていく圧倒的なカッコよさ。

前半は、文句を言いつつも母親と暮らすしかない冴えない日々を送るラビットのくすぶりを描いて、だんだん高まって行ってラストのラップバトルで最高潮に達する。映画として気持ち良い。

そもそもギャングスタ・ラップには白人優位社会への反発と反抗の意味があるから、白人であるラビットはラップバトルでは「シロ」とバカにされて格好のネタにされる。しかもラビットはギャングでもなくトレーラーハウスにママと暮らしている貧乏白人で、友達は間違って自分で自分を撃っちゃうようなダサい奴で、女はライバルに寝取られる・・・ネタの宝庫だ。それを逆手ににとって「俺はホワイト・トラッシュだ!文句あるか!」と自虐することで観客の空気を完全に自分のものにして、相手を「お前なんかギャングスタぶってるけど私立校出て家族は皆仲良しじゃねえか!」と一般社会では有利な点を痛烈にディスる。そりゃなんも言い返せませんて。

しかもすごいのが、メイキング映像によるとこの最後のラップバトルシーンは全部エミネムのアドリブらしいのだ。声を温存するためにラップするフリだけしてくれ、と言われてたのに我慢できず声を出してしまったらしい。天才だ・・・。

「フリースタイル・ラップバトル」がヒップホップファン以外の日本人にも広まったのはこの映画からだったと思う。そんなに馴染みのないジャンルだったのに日本でもあれだけヒットしたのは、やはり物語に普遍性があったからだろうなあ。主人公がギャングじゃなくて、貧しさから抜けられない若者だったことも日本人的には見やすかったと思う。

ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン(2005年)

エミネムとドクター・ドレーの後押しで一気にスターになった50セントの伝記映画。

同タイトルのデビューアルバム『Get Rich or Die Tryin'』は超名盤。大好き。

『8Mile』とは違い、ディーラーだった母親をコロンビアマフィアに殺されて「家業を継いだ」、本物のギャングだった50セント。しかしあんな子供が麻薬を売れるんだから恐ろしいよな、アメリカ。

そしてギャングとして頭角を表し、上にも気に入られて出世しそうだった時に逮捕され、刑務所でラップの道に行くことを決意。組抜けするけど、昔の仲間の悪事についてラップして9発撃たれる(実話)。それでも死なずに今に至る、という話。

一応メインテーマはヒップホップ映画だけど、実録物ギャング映画としても面白い。ギャング映画ファン・バイオレンス映画ファンにもオススメ。

SR サイタマノラッパー(2009年)

良い意味で日本らしくて、大好きな作品。

今や大作映画をたくさん撮っている入江悠が監督で、ゆうばり映画祭のオフシアター・コンペティション部門でグランプリを受賞してます(ゆうばり映画祭ってなぜかアウトロー系の映画がよく受賞してる気がする)。

上に書いてきたようなアメリカのカッコイイ、ワルいラップに憧れて「SHO-GUN」というグループを結んでるけど、抱えてる闇もバックグラウンドも月とすっぽんの、埼玉県深谷市の冴えない若者たちの話。これが逆にリアルで哀しいけど愛おしい。市役所で謎のラップを披露して職員を唖然とさせるシーン、最高。痛々しくてクソダサいんだけど、好きなのは伝わるんだよね笑。

元セクシー女優のみひろが地元でAV女優だって騒がれる役をやってて、良い味出してる。

これで人気が出てシリーズ化するけど、やっぱり1が1番面白い。

狂気の桜(2002年)

窪塚洋介主演の、右翼×ヒップホップ映画。

この映画で全面的に使われていた音楽がK DUB SHINE・ZEEBRA・DJ OASISの3人組キングギドラで、不穏な映画の雰囲気とも相まって当時アルバム『最終兵器』の歌詞は全部暗記するくらいハマった。

中学生ながら窪塚たちは右翼団体「ネオ・トージョー」なのにアメリカのヒップホップに影響されるのはいいのか?という疑問は持ったけど、思想はともかく、かっこよかったな、この映画。

右翼組織の会長役を原田芳雄がやっていて、愛国と叫び庭に桜の木を植えている彼が実は在日朝鮮人だった、という矛盾と悲哀に満ちたオチも、彼の人生を想像させて好きだった。

いろいろ忘れてるのでまた見直そう。

まとめ

今回まとめてヒップホップ映画を観てみて、映画だと、解説や和訳がないとわからない曲をその時の状況などと合わせてより理解できるようにしてくれるな、と改めて思いました。

名作らしい『wild style』や『ビート・ストリート』、Netflixの『ビート』など観たいものもまだまだたくさんあるので、続けて観ていきたいです。


★NANASE★




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