見出し画像

インスタントコーヒーで描く[技]

コーヒーで描く。珈琲水彩。
これ自体はそんなに珍しくないし、「あぁ、描こうと思えば描けるだろうな」と考える方々はとっても多いと思います。実際に検索をかけると、専門で描いてる画家さんもいらっしゃるし、水彩の画家さんが「描いてみた」のノリで描かれることも多いみたい。

でも、僕の印象ではですね…。
もっとコーヒーで描いてるひと多いと思ってた。

で、実際に自分で描いてみて、実験を色々重ねてみると、描き手が少ない理由もなんとなくわかりつつ、思いがけない魅力を見つけることもできました。

今日は、「コーヒーで描く」研究の成果発表をしましょう。
どうぞ、お楽しみください。

画像1

本日の道具はこんな感じ。

・インスタントコーヒー(ひとつまみ)
・水彩専用紙(ここではワトソン紙)
・水筆(細字)
・ミリペン(0.5mm)
・ガラスペン
・ガラス棒(コーヒーと水を混ぜるのに使います)
・小瓶(作ったお絵描き用コーヒーを保存したりする)

他にもちらほらありますが、とりあえずこんなところで。
楽に描きましょう。

(1)コーヒーを絵の具にする

画像2

小皿にインスタントコーヒーをひとつまみのせます。
そこに少量の水(スプーンひと匙くらい)かけてガラス棒で混ぜます。

右側のお皿はコーヒーの粒を細かく砕いたもの。ペンのお尻とかで簡単に潰れます。これはこれで別途使い道があるので用意しておくと楽しめます。

画像3

混ぜたあとはこんな感じ。

注意点は「できる限り水を少なめに濃く、ドロドロに作る」ことです。薄めるのは簡単ですから、最初のコーヒー絵の具は濃い目に作っておくのがよいです。この水に溶いた状態のコーヒーをここでは「コーヒー絵の具」と呼びますね。

小瓶に粒と水を入れて瓶を振って混ぜるのも良いでしょう。フタを閉めておけば乾かないので、いつでも使えるようになります。あと、ガラスペンを使う時は瓶の方が使い易いので、オススメです。

これでコーヒーの絵の具が完成です。

(2)水彩絵の具として描く。

さて、まずは普通に描けるか試してみましょう。

画像4

適当なバラです。うん、描けますね。
透明水彩と同じく、水が多ければ薄く、少なければ濃い。その理屈で描けます。

透明水彩と違う部分は、「乾いてからも水で濡らすと溶ける」こと。なので、扱いとしては水溶性の万年筆インクとかの方が近いです。

(3)コーヒーならではの表現

さて、ここからが本番です。

「コーヒーで透明水彩とほぼ同じように描ける」というのはひとつの魅力なのは間違いないです。でも、それならば表現としては「茶色の絵の具」と大差ありません。絵の具として考えるならば、色が薄く、濃淡のコントロールが難しいので、「じゃあ、透明水彩でよくね?」という気持ちになるのが自然です。きっとね、そこが「身近なものなのに今ひとつコーヒーで描く人が少ない」ことの理由じゃないかなーって思うんですよ。ちゃんと描くなら絵の具を使おうっていうことですね。

でも、何か個性があるはず。そう思って色々と試していたら、みつかりました。それがこちら。マクロレンズで撮影したものです。

画像5

画像6

わかりますか?
コーヒー絵の具の濃いところです。

・黒々とした発色
・こんもりと盛り上がって立体になってる
・独特の透明感をもった光沢がある

これです。これね、まだ濡れてるから光ってるんじゃないんです。乾いてるのに、光ってるんですよ。

さすがコーヒーです。めっちゃくちゃ美味しそうなニュアンスが出るんですよ。印刷で言うなら、樹脂をのせた「バーコ印刷」だったり、ニス引きをしたような感じでしょうか。薄い色の部分は普通にマットな仕上がりなのに、濃いところは絶妙なさじ加減で光る。

たいへん美しい!

インスタントコーヒーって画材としても面白い!!!!

と、ひとしきりはしゃぎましたよ。
でもですね、実際にやってみると「再現性が難しい」のです。
偶然ならいくらでもできるのに、「ここを濃くしたい!」とか細かくコントロールするのには結構コツが必要です。

なので、いっぱい実験しました。
こちらは実験中のスナップ写真。努力が見えるでしょう?(笑)

画像7

というわけで、色々描いているうちにわかってきたことを次の項でまとめました。

(4)コーヒーの濃淡と光沢をコントロールする

さて、簡単そうに見えて再現性が難しいのはなぜか?ってことですよ。
その理由がわからないと、解決しませんね。

まずは普通にコーヒー絵の具を紙に置いて、グラデーションを作ってみましょう。

画像8

できました。

どうですか?キレイですが、「淡い」ですよね。
これ、水が多いってわけじゃないんですよ。絵の具皿にあるコーヒー絵の具の黒々しい発色はどこにいったのやら。これでは濃淡の「濃」がまったく表現できていません。出したい色は、もっと濃ゆくて、ドロッとしてて、光るやつ。

ということで色々と試した結果、次のやり方が「濃い色」を出しやすいことがわかりました。

画像9

(1)一度塗ったところに、もう一度コーヒー絵の具をたっぷりとのせる
(2)塗ったところが乾く前にコーヒーの粉末を直接のせる。

するとですね、黒々とした色がちゃんと出てくれるわけですよ!デキた!

画像23

艶も立体感も出ています!

僕なりにコーヒーの色が黒く見える理由を考えてみたんですけれどね。どうやら「厚み」が大切なようです。コーヒー絵の具がこんもり、厚くのっているところが濃くなる、ということなんです。

コーヒーは粘度が高いんでしょうね。乾かして、水分を飛ばしてもギュッと体積をある程度維持したまま固まってくれるんですよ。で、厚みがあるところは光沢を持った個体になってくれて、色も黒々と濃くなるみたいなんです。

これは、透明水彩と一番違う点です。

透明水彩(例えばチューブ型の場合)の場合は「チューブに入っている絵の具が一番濃い色」になります。一方でコーヒー絵の具は「厚みをもって固まった部分が一番濃い色」になるんです。

なので、濃い色を作るには「表面張力でこんもりさせたまま乾かす」描き方をするイメージになります。

(2)の粉末の場合は、粉末自体が高さをもっているので、「粉末自体の色」+「厚み」の分だけ濃くすることができる、という理屈になります。

面白いですねぇ。とっても面白いです。
コーヒーをこぼした時の染みが黒く乾くことがありますが、コーヒー絵の具より断然薄いはずなのに黒く発色する。その理由がようやくわかりましたよ。

では、理屈がわかったところで…
後半はコーヒー絵の具で描く「エクレア」の描き方。
こちらが完成品です。

画像20

チョコの部分がてらてらになってますね!
理屈はわかっても、作画となるとまたいくつかポイントがあります。
どうぞ、ご覧くださいませ。

(5)光沢と立体感で、美味しそうなエクレア

さあ、描いていきましょう。
エクレアで使用する道具はこちら。

ここから先は

1,229字 / 13画像
このマガジンを購読すると、「本編」「横道」の全ての記事を読むことができます。

絵本作家サトウヒロシがお送りする、動画とわかりやすい解説で学ぶ、note型絵画教室です。月額800円(初月は無料です)。楽しく描きたい。色…

よろしければサポートをお願いします!記事充実のため、画材の購入費や取材費にあてさせていただきます。