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27歳の誕生日に、2万円のボールペンをもらう女

たしかに私は、新しいボールペンが欲しいんだよねえ、と言った。


手帳を手書きにしてから、肌身離さずボールペンを持ち歩いている。本を読むときも、気になった文やそのとき浮かんだ考えをすぐ書き込めるように、ペン片手に読書するようにしている。

最初に使っていたボールペンは、ジェットストリームの0.5mm。大変書きやすくて愛用していたけれど、替えのインクを買い損ねて今は空っぽのまま引き出しに眠っている。

次に使っていたのは、前職でディズニー研修を受けたときにいただいた非売品のボールペン。いただいた当時はもったいなくて使っていなかったものの、ジェットストリームに次ぐ使い勝手の良さで、インクが空になるまで使った。

非売品(とはいえ何かのメーカーのボールペンに印字しただけだと思うが)なので替え芯を探す考えもなく、これも引き出しの中で記念品化している。


ああ、そういえばボールペンどんどん無くなってきてるな。


最後の砦的な立ち位置で今使っているのが、東武鉄道が「自殺防止キャンペーン」とかいうなんとも不謹慎なイベントをしていた際にもらった3色ボールペン。3色だから形は太いし、他の2色は滅多に使わないので黒ばかり減っていく。おまけに書き始めはいつも霞むので、毎回手帳の端っこに試し書きのくるくるマークが多発する。なんともストレスのかかるペンを今、使っている。


こういうペンいいと思うんだよね、と年の離れた飲み友だちがスマホを見せながら提案したのが、細身でスマホも立てかけられる、(多分イタリアかどっかの)ボールペン。そんな機能いらんと思っていたが、本人的にはすごく激推しだった。「私、ジェットストリームでいいよ」っていう声はすぐ、酒で流れた。

ボールペンの写真から少し下に目を向けると、グレー色のおしゃれな字体で「220円(税)」と書いてあった。まあ220円なら別に、相手が買いたいもの買えばいいか。それと別にジェットストリームは自分で買おう。強く主張する理由がなくなって、ホッとした。


あれから約2週間後の誕生日前々日、丸がふたつ増えて返ってくることなど、全く考えもしないで。

彼と私の誕生日は1日違い。飲む日が決まると同時に、必然的にお互いの誕生日を祝う形になった。事前に予算を把握した私は、「無くなるものがいいだろう」と隣駅の花屋でドライフラワーの小さいブーケを買って行った。

当日会った彼はまず、ZARAの紙袋を持っていた。

え、ZARA?

お店に着いてプレゼントを受け取ると、紙袋の中にはいかにも高級そうな箱がふたつ。開けるよう促されたので、包装紙を丁寧に開けると、黒い箱に入ったボールペンが出てきた。

「いや、重いペンは書くのが疲れて嫌って言ってたじゃん?だから軽いのにしようと思って。あ、これ保証書もついてるから。あと替え芯もひとつ。また買うの面倒だと思うし」

たしかに私は、重いペンは嫌だとも言った。

でも、なぜあえてそこだけ覚えている?
なぜ重いペンは嫌なことは覚えて、ジェットストリームでいいって言ったのは忘れんの?


どこのブランドだかわからない箱に入った高そうなペンを、帰宅後に検索かけてみた。

22,000円

目が落ちるほど引いた。いろいろ。最初の220円はどこに行ったんだ……。


ちなみにもうひとつの箱は、ボールペンと同じ金額が入ったZARAのギフトカードだった。
私が与えられるのは500円のドライフラワーだけだぞ、と、思いながら「大切に使うね」と返した。

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