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ニチアサの話がしたい vol,203


■今週のガッチャード

・2人の「父」の決闘

 アトロポスのモデルはりんねだった。ガエリヤはりんねのエネルギーを全てアトロポスに注ぎ込み、彼女を意志さえ持たぬ殺戮マシーン「キマイラ」へと変えようと企んでいた。娘のピンチにグリオンはなんと因縁のライバルである風雅を頼る。朝も早よからグリオンにいきなりドアをガンガン叩かれて、扉越しに喋るでもなく普通にガチャッとドアを開けてあげる風雅さんはいささか優しすぎる気もしないではないが、まあそれが九堂風雅という男なのであろう。事情を聞き、このままではりんねの命も危ないと知った風雅は、グリオンに対し「君のことを許すことはできない」と前置きしながらも「我々が力を合わせれば、必ず2人を助けられる」と言い、2人の父は共にガエリヤの元へ向かう。

 これを読んでくださっている読者貴兄は既に放送を観ている人がほとんどだと思うので言ってしまうが、結果的にこのグリオンの行動は、風雅の親心につけ込み、キマイラの主導権を自分に移した後でりんねが死にゆく様を風雅に見せつけ、彼の絶望の表情を眺めるための芝居であった。それが番組内で明かされるのはもう少し後なのだが、グリオン役の鎌苅健太さんがこれまでずっと「グリオンは悪だが、人ならざらぬ者だけが持ち得る不思議な無垢さもある」という解釈の余地を残した役作りをしてくれていたために、こうして急に手のひらを返して風雅にすがってもさほど不自然に映らず、グリオンのキャラクターとしてきちんと成立しているところが凄い。

 現場に急行した彼らは娘たちの命を人質に取られ、ガエリヤの作った異空間の中、ロシアンルーレットで決闘を行うことになってしまう。この独特なシチュエーションは、俳優としてキャリアのある鎌苅さんと風雅役 石丸幹二さんの重厚感のある会話劇をじっくり観せたいという作劇上の狙いがあってのことだと思うが、同時に、運命に翻弄される人間を眺めるのが至上の愉しみであるガエリヤの悪趣味っぷりも強調されていてナイスな演出だ。
 「私は、こんな形で君と戦いたくはなかった……覚えているか。私がまだ、君と共に錬金術を探求していた頃のことを……」と、グリオンが拳銃に銃弾を装填しながらとつとつと語り始める。冥黒王によって与えられた偽りの命を持つが故に、命を尊ぶ風雅の思想に羨望と嫉妬を募らせ、りんねをモデルにアトロポスを錬成するに至った彼。「君の持っているものは全て欲しかったのだ。私には君がもう1人の私のように思えた……」そのやや子どもじみた物言いに、やることなすこと嘘だらけのグリオンだが、この台詞群だけは彼の本当の気持ちなのではないかと思えてくる。「私には君がもう1人の私のように思えた」というのは歪んだ妄想に過ぎないのかもしれないが、それは「風雅と同じ存在になりたい」あるいは「自分のモデルが風雅であれば良かったのに」というような、人形であるからこそ生まれた強烈な憧れと執着心からだったとしたらと思うと、それは愚かしくもどこか切ない願望のようにも感じる。

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