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石とのやりとりを刻む/山添潤展


京都新聞 2021年11月13日掲載

床一面に、約100個の石のオブジェが並ぶ。素材は御影石だが、墓石のように研磨されて黒光りする姿ではなく、まるで丈夫な織物でびっしりと包まれたような、独特のテクスチャーがある。石の表面をくまなく覆っている微細な凹凸は、手で刻まれた無数のタガネの刃あとだ。「名付けるとしたら“刻み仕上げ”でしょうか」と山添潤は言う。

 山添は2000年初頭から石の彫刻を発表しているが、その作風は変遷を繰り返した。空間を圧倒する大型の彫刻作品から、技巧を凝らせた造形のオブジェへ。多くの彫刻家が取り組む、力と技で石にフォルムを彫り起こす「かたちの仕事」だ。しかし、山添が一貫して抱いてきた制作への想いは「石から力を引き出したい」ということだったという。今回の作品で試みた、石の表面を刻み目で覆いつくす表現には、コツコツと小さな力を集積させて、石の力を内部に圧しこめようとする意図がある。力の網目で石を包むことで、逆に石の力を内部に開放し充満させる。

 台座に小さな円筒を載せた形の作品もある。これは、空間を大きさで威圧する彫刻の常道とは逆に、観客が「自ら小さくなって」視界を縮小し、作品の上に空間を感じるように促す。ちょうど、鉢の上の小さな植木に山や崖の雄大さを感得する、盆栽の鑑賞者ような創造的な認知の転換へと、観る人を誘うのだ。

 これらの石の彫刻は、力ともの、こととの作用についての新たな視点を示唆する。その原動力となったのは、石という硬く重い素材に対して、コツコツと小さく重ねる、あるいは認知を転換するという「ソフトパワー」だ。彫る主体から彫られる対象へ、という一方向の力ではなく、山添が言うところの、石との「押せば返ってくるやりとり」を通じて、その力は獲得された。

(揺=銀閣寺前町 21日まで、月休)


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