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町家に安らぐ、もののけたちの気配 「サーニャ・カンタロフスキー展」

京都新聞 2023年 5月13日掲載

奇怪な犬、ろくろ首、赤ん坊を抱いた女の幽霊、妖怪。ロシア生まれ、ニューヨークを拠点とするサーニャ・カンタロフスキーが描いた暗い色調の油彩画が、元町家のギャラリー空間に溶け合って、あたかもひとつのインスタレーションの内部に誘われるようだ。

カフェや住居として使われてきた築150年の歴史的な建物を、建築家の竹内誠一郎が修繕、改修を手がけた展示空間には、ギャラリーにつきものの白い壁は設けられていない。
照明も室内灯の地明かりで、スポットライトはほとんど使われていない。作家性と干渉しそうな生活感や時代的な様式を消すため、襖の引き戸をなくし、畳をあえて古いものに差し替えるなど、建物の元の姿からミニマリスティックに手が入れられた。

カンタロフスキーは、日本の怪談をひもときながら、そしてこの空間から触発されて、自身の内面の不安から引き出されたイメージをあらわした。作品は、ほの暗い室内の聚楽壁、舞良戸(まいらど)、走り庭の煉瓦の上などに馴染むように展示され、絵の中のもののけたちは、この屋敷に居場所を見出したかのように寛いで見える。日本人が怪談を身近に語りながら、怪異や死への恐れと和解してきたのと似たストーリーをが感じられる。

タカ・イシイ ギャラリー=綾小路通西洞院東入ル 27日まで、日〜水休


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