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三瀬夏之助展 golden silver

2020年3月20日 京都新聞掲載

「東北画は可能か?」。これは三瀬夏之介が、東北芸術工科大学の学生らと行ったプロジェクト名で、京都市京セラ美術館で開催中の『平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ) 1989−2019』に、平成期を象徴する集合的表現として紹介されている。
三瀬は山形を拠点とする以前、京都で行われた「日本画ジャック」(2005)という集合展の中心メンバーだった。企画の発端は、伝統と権威性で語られ、定義となると曖昧な「日本画」への問題意識だった。明治時代に、洋食に対して和食という呼称が生まれたように、日本画は西洋の絵画に対立する概念で、「世界における日本」が強く意識されている。三瀬はそれを、「日本の自画像を描く絵」と規定している。では、日本の中の地方であり、美術業界の中心・東京とある意味対立する東北で「日本における、東北の自画像」を描くことは可能か?「東北画」という問いを立てたところへ東日本大震災が起こり、東北と、そこでの美術の実践は、平成日本の表現として強い意味性を持つことになった。

京都市京セラ美術館にはこれまでの東北画への取り組みが展示され、ここではそれを補完するように、三瀬個人の作品が並ぶ。テーマは金と銀。大きな旗のような作品には、日の丸を思わせる正円が切り取られ、あるいは抜かれた円がずらされている。中心だと信じていたものが抜け落ちた不安、また、ずらされた円は強制移動させられる人のようにも見える。作品に留めつけられたハトメ金具や紐は、崩壊した現場を養生する不器用な手立てのようだ。金色の日本地図が逆さまになっている作品の題は「日本の絵」だ。

金と銀は「日本画」の屏風や障壁画に権威の輝きを与えてきた。ここでの金銀は、自然の色彩や生気を無彩色の中に沈め、人の目を眩ませる。
「震災から10年という節目が、ある種のピリオドとして切り捨てられるように思える。それを声高に言うのではなく、アートの持つ抽象性や持続力を持って、山形での思索を京都での二つの展示に現出させようと思った」。椅子と机は、山形の廃校跡にあるアトリエの再現。そこが、三瀬の思索と創造の中心だ。

イムラギャラリー=丸太町通川端東入ル 4月10日まで、日月祝休

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