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ヘルシンキ隔離日記(空港で陽性出ました)

5月末から北欧旅行をしていて、6月10日の帰国予定が、コロナ感染で2週間フィンランドに隔離と帰国待ちになりました。

そもそも個人的な過失が招いたことで色々な方にご迷惑おかけしたことではあるのですが、ひょっとして今この時、同じ境遇の方が、藁をもすがる気持ちでいろいろ検索されていたら。ちょっとお役に立てることもあるかと思い、あえて備忘録として書きます。

収束期に向かっているとはいえ、まだまだ活動めざましい新型コロナウイルスに、帰国の足を引っ張られた話。(写真はフィンエアーのHPより)

原因:浮かれて、往きのことしか考えてなかった


コトが発覚したのは10日間の北欧旅をおえて、ストックホルムからヘルシンキ経由で成田—関西へと帰るというとき。コトというのは、搭乗前PCR検査をしていない、陰性証明をもっていことだ。書くのも痛いくらい本当にボケボケなんですが、理由は、単に調べてなかったから。

日本からスエーデンへの行きの渡航にPCR検査はいらない。
実に、ここで調べをストップ。帰りのことを考えていない。浮かれていたんですね。帰国は3回接種証明のワクチンパスポートさえあれば良いと思いこんでいた。言い訳になりますが、このワクチンパスポート申請の手続きで、超段取りの悪い役所を相手に何度もキレたので「ここまでしたんだから、これ以上何が要る?」状態に心がドヤっていたのは事実。

思い込みをよそに、本邦は北欧より格段に厳しい水際対策で挑んでいるので、帰国には72時間以内の検査での陰性証明とアプリでの事前申請が必須だ。

ストックホルムーヘルシンキー成田ー大阪の予定だった帰国便に乗ろうとすると、搭乗口でたたみかけられた。「陰性証明は?」「アプリもダウンロードしてないわけ?」
この時の私はワクチン3回証明で帰れると思い込んでる迷惑客。真顔でゴネて、スエーデンからヘルシンキ間のフライトには強引に乗ってしまった。(この区間には陰性証明はいらないので、乗務員さんは間違ってない)。
しかしヘルシンキー成田への便の搭乗口はそうはいかない。日本の水際対策の関所を守るフィンエアーのミムラ姐さんは、頑として疑わしき旅人を芝居のように温情で通すことはない。
「搭乗できません。帰国の条件を知らなかった?あなたのせいでしょ」

ごねてストックホルムーヘルシンキ便に乗ってしまった。今から思えば、ああお恥ずかし。しかしコペンハーゲンやストックホルムに比べて、閑散としていたヘルシンキ。人が少ないのはなんで?

ヘルシンキでルール通りにPCR検査を受け、陰性証明を持ってフライトを予約し直すしかない。入国審査は閑散としていて誰もいない。コペンハーゲンやストックホルムの空港と全く違う、このサブさ。待ってるとひとり現れた係員が「入国の予定なかったのに入国ですか?帰国予定は?」と聞いてくる。それワタシが聞きたいです。

もう日も暮れていたので、次の朝イチに空港の医療機関に向かい、スピード検査を申し込む。結果は3時間後にスマホに送信される。お値段は破格の300ユーロだが、陰性証明さえ出たら、この日の夕方飛行機に乗れる可能性もあるんだから、それならお値打ちと狸の皮算用。

帰りの便の予約に目星をつけて、余裕で街をぶらぶらしていたら、昼頃にメールでの検査結果が届く。お、早いじゃないですか。

でも見たら、大文字でPOSITIVEとある。
前向きな性格ってことじゃなくて、この場合、コロナ陽性だ。
え?感染? 熱もくしゃみもないのに? 
、、、、心当たり、ナッシング!

がっくしな結果ではあるのだが書類でPOSITIVEと言われると、ちょっと胸張っちゃいますね。
(こんなマヌケ具合だから、帰国の準備がまともにできてなかったともいえる)


感染経路:四方八方。北欧の街は、全方位感染源

心当たりは「ない」はずである。
コロナに感染した人がよく「あの飲み会で、、」「職場で陽性者と濃厚接触して、、」と、経路をいろいろ類推していることがあるが、北欧諸国では、とうに感染への警戒を解いて、人はノーマスク、街では、のめや歌えやの賑わいも通常通り。観光客も群れをなして歩いている。
「そういやあの時」的な、感染の心当たりはないが、逆に言えば、北欧に入って以来、エブリデイ感染しそうな状況しかなかった。

全く無症状だったかといわれれば、そうでもない。検査した数日前から、軽い風邪のような喉の痛みや鼻詰まりは感じてはいた。しかし、旅行中にはよくあることなので、いつものように葛根湯で治めていた。
ワクチン3度打ったのに、なぜ感染するのか。3度のワクチンのおかげでこんなに軽かったのか。

北欧大感染まつりの図。ストックホルム・アーランダー空港でのチェックイン待ちの、全員ノーマスク超密行列(2時間以上)。ちなみに、この待ち時間を笑顔ですごすスエーデン人には、日本人とは違う種類の忍耐があると感じた。この人たちを怒らせると、絶対怖いとおもう。

街ブラしてる場合ではないので、あわてて電車で空港のPCR検査所に戻ったら、受付のナースが私の顔を見て「あー、残念だったわね」。
へ、それだけ?
「私はどうすればいいのでしょうか?」。
ひょっとして北欧デザインのサウナ付き療養施設とかに入れるんだろうか。知り合いは東京での隔離中毎日カツカレーだと言ってたが、ご飯はIKEAの食堂みたいなミートボールか。
 
そんなしょーもないことを考えてるのを見透かしたかのように、ナースから「まずマスクして」とマスクを手渡される。いまやコロナ患者の私である。予防じゃなくて感染させる側だ。みだりに物にも触るまい。

陽性判定=いきなり防護服の人に囲まれて隔離施設に連行される絵ヅラがうかんでいたのだが、ナースの指示は、超そっけなかった。
「自己隔離は明日から5日間、それ以降にまた検査してください」。「あの、隔離施設はどちらですか?」。「どこでもいいですよ」。「それは‥‥街なかの好きなホテルでいいってこですか?」「(めんどくさそうに)ええ、どこでも。一番近いのはヒルトン。そこ真っ直ぐ行った先ですよ。帰国便に乗る時には、陰性証明とドクターの診断書、「fit to fly」証明ももらってくださいね」。

北欧デザイン・サウナ付き隔離施設はなかった

サウナ付き療養所への案内はなし。行動制限も監視もない。感染者を野に放ってしまっていいんですか?
アドバイスにを書いた紙をペラっと手渡されたが、「空港近くのホテルに直行してソーシャルコンタクトを避け、自己隔離を」とあり、症状が急変した時の緊急連絡先も書かれていた。自覚症状は今のところないが、滞在期間が長期化することや、重症化もないともいえない。
便利で医療機関に近い、中心街のホテルに予約を入れた。

安さを考えるとアパートタイプという選択もあるが、フロントの人がいてくれちたほうが何かと安心だ。結果、ちょっとお高い宿に決めた。

スウェーデンでもデンマークでも、整然と並んでいたキックボードが、なぜヘルシンキでだけ、歩道にぐちゃぐちゃに散らばっているのか? きっちりするのが嫌い?何かに反抗?好感もてる。

非オサレ北欧の雄‥‥ヘルシンキは「北欧の西成」だった

しかし、そもそも滞在する予定のなかった外国の街を遊びでも仕事でもない目的で歩くというのは、ソワソワするものである。
外国の街に長めの滞在をするのだから、ちょっと嬉しかったりしてもいいのだが、しかし状況的には「いやー大変なことになった」と悲壮感でも出しとくべき気もする。
派手でも陰気でもないヘルシンキはそんなもやっとした気持ちで歩くのに、にぴったりの街のようにも思えてくる。
最後にきたのは15年くらい前か。変わってないなあーと、歩くごとにだんだん記憶が蘇ってくる。
そしてその時とは明らかに印象が違う。
初めてきた時は、石畳に反響する人の声の静けさにジーンときたり、真っ白で金髪の女性たちに目が釘付けになったり、路面電車にヨーロッパらしさを感じたり、もっと憧れ目線でみていた気がする。でも明らかにそうではない感じ、外国と思えないような親しみも感じるのだ。

15年前と違って見える理由はすぐわかった。
今の私の目が、他の北欧の街、スエーデンのストックホルム、ウメア、マルメとデンマークのコペンハーゲンを見てきたばかりだから。他の都市との大きなギャップが、今はくっきり見えるのだ。

秩序と整然、意識の高さがプンと匂ういかにも北欧な街からヘルシンキの空港に着いたとき、一番に気づくのが人のルックスの違いだ。スエーデン、デンマークには、判で押したように黒シャツにパンツ姿でシンプルなファッションに決めてる高身長スレンダーな人が多い気がしたが、こちら、身なりはざっくばらんなうえに、体型はずんぐり、横に大きい人も多い。
目を引くのが、若いくなくてもやんちゃなおしゃれの人たち。ヘヴィメタやパンクのおっさん、アキ・カウリスマキの映画から出てきたような野犬みたいな爺さんもうようよいる。女性も負けてない。セルライトをブルブル揺らしたホットパンツの大きなおばさん、びっくりするような蛍光ピンクやグリーンの髪のマダムもすんごく多い。ひと目を気にせず自由度が高い。

アキ・カウリスマキの映画から出てきたような「イタかっこいい」おしゃれリーダーがいっぱいいるヘルシンキ。このニューヨーカーさんのふくらはぎのタトゥーに注目。前に回ったら男だった。

街の様子にも激しい違いを感じた。

ショッキングだったのが、歩道に散らばってるキックボードだ。北欧ではシェアキックボードは自転車を超える気軽な交通手段だが、スウェーデン、デンマークでは均等にきっちり並んで駐車されている風景が、まるで環境彫刻のようだった。なのにヘルシンキはぐっちゃぐちゃ。
さらに道にゴミも落ちてるし、街のウインドウは曇ってたり汚れたりしてる。それまでの北欧2国では、巨大な清掃車が道を磨き上げているのを何度も見たが、単に行政サービスの違いなのか。
これみんな、比較してみないと気づかないことだった。

北欧の特殊都市・ヘルシンキを、よそのおしゃれ北欧タウンと一緒にしてはいけない。
スエーデン、デンマークが東京都港区(阪急芦屋川でもいい)のようにシュッとした街だとしたら、ヘルシンキは、野放し感がエキサイティングな庶民の街・西成だ。(大阪出身のワタシが、愛着込めて命名)。

15年ぶりのヘルシンキは、ゲイに優しくなっていた

6月末は、ちょうどミッドサマーの時期、天気はいいし日曜だし、人も楽しそうに歩いている。若い頃のヨーロッパ旅はたいてい航空券の安い冬だったから、こんな明るいヘルシンキにいられるのは、やはりラッキーなことだとおもう。

フィンランドの若き女性首相サンナ・マリンはレズビアンのカップルに育てられた。街のあちこちにはためいてるLGBTQのシンボル、レインボーフラッグは、15年前に来た時にはなかった光景。


予約したホテルの入り口に、大きなレインボーフラッグが掲げてあった。ゲイフレンドリーの表明だ。インテリアデザインもクールで、朝食メニューもビーガンフード多めでダイバースだった。レセプションの片隅に、ひっそりTOM OF FINLAND のグッズ販売コーナーがあったのはちょっとびっくりした。ヘルシンキから「歓迎」されているようでほっとする。

入り口にレインボーフラッグがはためくホテル。スタッフもおしゃれで朝食にももトレンディなメニューが。

感染者の宿泊にNOと言わないホテル

アドバイスを書いた紙には「ホテルには予約時に陽性であることを告げてください」とあった。ワタシは告げずに予約している。レセプションでちょっと迷った。もし陽性だと言って宿泊拒否されたらどうしよう。しかし、万一ほかの宿泊客を感染させたら、それも大迷惑な話だ。言うしかない。
「あのー。陽性が出ていて、いまからこのホテルで自己隔離したいんですが」。係のお姉さんが「えーっ、それは残念ですが‥‥」。「あーヤバい」と思ったが、お姉さんは「滞在中、ルームクリーニングはできかねますが、いいですか?」。
いやもちろんです。スタッフのかたの入室は避けていただきたい。
多くの人が利用する朝食サロンでの食事も拒否されなかった。おおらかすぎる。せめて自分の使った食器をスプレーで消毒しまくったが、逆に気味悪がられたかもしれない。
北欧の感染対策のおおらかさにクラッと来た。

隔離の食事をスーパーで買い込む。ダメだと分かっていても手が出るパック寿司はやっぱりダメ。
日本にない味のカップ麺はいろいろ試してみた。日清はヨーロッパで魂を売って頑張っている。

海外旅行保険に初めて相談する

「北欧の西成、ヘルシンキ」という発見につい夢中になり脱線。ようやく話を戻す。宿に着いたら真っ先にとりかからなければならないのが、旅行保険会社、旅行代理店への相談だ。安さと便利さだけで商品購入しがちだが、お世話になる段になると評価が全く違う。

フィンランドでコロナ感染隔離生活で、どんなサービスが役に立ち、何がいまいちだったか。「個人的な経験」とお断りして、ちょっとメモしておく。

トラブルの渦中にいるユーザーが眼中にない保険会社

まず保険。
今回私が加入した旅行保険はネット販売のリーズナブルな商品。陽性反応がでて隔離が確定となったのは帰国予定日で、保険の終了日でもある。
保険会社から「本日で保険期間が終了になります」とメールが届いた。保険がなくなると手も足も出ない。メールには「帰国予定が伸びた場合、延長手続きを申請ください」とある。早速延長だ。
ところが、そこに表示されている問い合わせ電話番号は、海外からかけられない0120発信。当然、かけてもかからず、なぜかからないのかがわからないから、なお焦る。
「ネットからも延長手続きが申し込めます」とあり、リンクをあけると、表示されたのはPC版のサイト。
ワンタイムパスワードを入れないと手続きページにいけないのだが、ワンタイムパスワードをみるためにスマホの画面を切り変えると、手続きは一からやり直し。再度ワンタイムパスワードを請求され、以下同じ無意味なやりとりが続く。いじわるゲームか、これ? と泣けてくる。われながらおかしいと思うのだが、テンパっているので判断力も赤ちゃん以下。

実は、加入時に、問い合わせ先など、必要な情報とダウンロードできるガイドブックなどが案内されていたのだが、これをうっかりそっくり忘れていた。これに従えば、そんなに苦労なく手続きもできたかもしれないのだが、なんせテンパっているので判断力も赤ちゃん以下。

延長手続きが必要なユーザーは、海外、しかも旅先で通信手段はスマホになる。0120発信の電話、PC版のサイト。なんでわざわざ使えないサービスを案内するのか? のちに電話窓口の方から「スマホ版もあります」と説明されたのだが、スマホ版のリンクを優先して表示しないのは何故?

結局、手続きを前に進めることができないので、窓口違いとは知りつつ、緊急事故対応の番号に電話をかけた。「海外からも通話ができ、延長手続きができる窓口番号」を教えてもらってお電話すると、自動音声で「日本の営業時間内に掛け直してください」といわれる。
ここまでのプロセスで相当に疲れたので、「世界時差時計」アプリをダウンロード。日本の午前10時にアラームをセットしてひとまず就寝。

電話はやっぱり混んでいて、しばらく待ってやっと要件を伝えることができた。「状況を詳しくお伺いしたいのですが、国際電話になりますので、日本から電話口様(電話サービスの人が相手に対して呼びかける言い方)にかけなおすこともできます。しかし、受信にも料金がかかる場合がありますので、メールでやりとりしましょう」といわれる。保険の終了日を過ぎていたが、更新できなかった事情をくんで、保険期間は帰国日まで延長しますといわれる。
ひとまずほっとするが、「手続きできなかった事情を汲んで延長措置」をいただくよりも、「誰もが自分でスムースに保険期間延長の手続きをできる公平でユニバーサルなサービス」をいただく方がいい。
しつこいようだが、ファーストコンタクト時に「加入時にお送りしたメールを再確認せよ」と一言言っていただくのが一番親切だった気がする。

メールで質問が送られてきて、それに回答すると、次の日に返答があった。
自分都合のキャンセルなので帰りの航空券の補償はなし。帰国までの滞在費は精査対象。ただし帰国のために必要な検査費用、診察代金は精査対象外。
そして「隔離と帰国までの待機のための宿泊は、三つ星以下のスタンダードシングルが精査対象」とある。
いま滞在してるホテルがそれに当たるのかがはっきりしない。保険期間延長の時点で、ホテルを保険会社さんのお世話になることが予測できたので、この条件は先に知っておきたかった。

加入時に送られてきたメールと保険の説明をよく確認していなかったばっかりに。こういう必要な情報が後手後手にまわってゆく。自業自得なんだが、それにしても、メールは24時間どこからでも送受信できる。対応は眠らないロボットが受け持つこともできる。会社の「営業時間」に依存したサービスで、さまざまな時差のある国や地域にいるユーザーに対応するのは不合理ではないか。ロボットに電話番させて適当な部署に振り分けてくれるサービスとかないんだろうか?

「日本はロボットを人間の補助としか考えていない」と揶揄されるが、実際はそこにまでも至っていないように感じた。

たまたま日本語ニュースから、馬型四足歩行ロボットのニュースがでてきた。これが最先端の技術を使った「日本の企業が未来に提案するものづくり」なのだ。ロボットを万博と遊園地のアトラクションに囲い込み、頭脳を生かす現場に配置されていない。日本のハイテクは昭和の漫画のまんまだ。

一番役に立ったのは、相談窓口のスタッフとの雑談

あわせて、クレジットカードの付帯保険にも問い合わせてみる。

景気のいい頃(20年前)に会員になったゴールドカードで、会費が高いから退会しようと思っていたが、この付帯保険を運営する保険会社を調べると、ヨーロッパのいくつかの主要都市の担当者が日本語対応してくれるという情報がすぐに表示されて出てきた。

ただ、カードのランクによって受付可能時間が違っていて、会費の高い私のカードは24時間対応。うーん、こういうところに出費を惜しまない富裕層が、結局いざというときにラクできるんですね。勉強になる。

電話はすぐにつながって、担当の若い女性とお話しできた。口調が明るい方で、ほっとする。
調子に乗って「症状もないし、もうウイルスに感染力もないのに、海外にひと月置き留めはキビシイですよね」と愚痴ってみた。

日本のルールでは、帰国には陰性証明が必要。一度感染すると、体内のウイルスは感染力を失ってからも1ヶ月陽性反応を出し続けるといわれため、陽性者はその間、滞在を続けて陰性が出るまで検査を続けることになる。

日本では感染者は隔離期間が終われば、感染させる危険のない患者として普通に行動できる。それが海外で陽性がでてしまうと「帰国には陰性証明取得」という規定が、隔離の終わった人の帰国を阻んでしまう。「建前」を強く感じるルールだ。

(VIPでなくても)大使館にお願いしたら、陽性でも帰国できる?

窓口の気さくさんは、こちらを慰めるように、「案外、早くに陰性が出るかたもおられますよ」と仰る。「最初の陽性判定から1週間くらい後で陰性出た方もおられますし」。
「24時間電話対応」の真のバリューは、こんな所にあった。今何がどうなるわけでもないが、異国のホテルで八方塞がりなこんな時には、知らない人との雑談が精神衛生にとても良い。同様のサービスが使える人は、迷惑でない範囲で話してみるのがおすすめだ。現地で邦人のトラブルを数多く見聞してきた経験値は頼もしいものがあり、思わぬ解決策が見つかることもある。
それが、彼女がこれまた気さくな口調でお話しされた一言。

「大使館にお願いして、早めに帰れたお客様がおられましたよ」。

なんと!VIPでもないのに、大使館にそういうお願いをしていいものなのか。誰に、どうお願いすれば? 問い合わせ先と担当者、教えてー!

ぜひとも詳しく聞きたくなったが、あえて彼女が「お客様の話」として雑談のように口にしたニュアンスは重要であるように感じた。(つまり、保険会社からのユーザーケアの範疇ではない)その意を汲んで、そこはグッと堪えて、自分でなんとかしようと決めた。早速メールだ。

ネット旅行代理店の、意外に親身な顧客対応

次は旅行代理店。
この旅では宿泊と航空券はエクスペディア経由で購入した。途中、変更・キャンセルの問い合わせで複数回、窓口の方にお世話になったのだが、これが感じのいい対応で驚いた。
過去に他社のネット格安航空券を購入したとき、電話がつながらない、出ても無愛想なインドなまりの担当者が「ノー」というだけだったりして話にならなかったりした経験があり、「ネット旅行代理店のアフターケアは無きが如し」と期待度ゼロだったのだが、考えを改めた。

旅程の中で、ワタシの予約ミスで振替しなければならない便があったのだが「キャンセル不可」で返金不可能とわかっていたが、念のため相談してみると、電話に出た李さんは「一部でも返金してももらえるよう、交渉いたします」という。実際、代金の3割ほどが返金されていて驚いた。搭乗できなかった便への質問に関して担当いただいた金さんは丁寧な説明のあと「残念ですね」という同情まで表現された。
エクスペディアはアメリカの会社だというが、対応してくれた日本語流暢なアジア系のスタッフの方々は、どこのコールセンターで仕事をしている人なのだろう?日本語みたいなマイナーな言語での問い合わせを、24時間、地球のどこかで応える顧客対応に、イマドキのサービスの工夫を感じた。

レトロ対応で「遅れた日本」代表していたJAL


逆に、「遅れた日本」を感じて残念だったのがJALだ。

滞在したひと月の間、北欧では屋台飯やコンビニにいたるまでの全ての会計をカードでおこなえて、いまだキャッシュレスがすすまない日本の遅れっぷりを痛感したが、その日本を代表するJALの対応もまたレトロな窓口対応をみせてくれた。

乗れなかった便がJALーフィンエアーの共同運行便だったため、フィンのスタッフから「振替便について一度、電話で問い合わせてほしい」とJALロンドン支局の電話番号を渡された。
電話をかけると自動音声で「お得意様番号を入力してください」とあり、私がお得意様でないからなのか、保留音を30分も聞かされた。
折り返しかけ直してくれるシステムもないようなので、ここで電話を切ったら振り出しに戻ることになる。待ち続けるしかない。

流れ続けるイージーリスニングなミュージック。
イライラするのを通り越してノスタルジックな気分になった。学生時代、極寒のヨーロッパの安宿の部屋で冷や汗かきながら、つながらないリコンファームの電話を延々かけ続けたことあったよな‥‥そんな、10年前、20年前とまったく変わらない対応だ。
思い出サービスはいいとして、「品質向上のために会話を録音します」と自動音声で告げて顧客を牽制する前に、そもそものサービス品質の向上を考えていただきたい。
折り返し電話や、簡単な質問に応答するAIチャットやショートメールを採用すれば、対応もずいぶん楽なのではないだろうか?

ついでにいうと、JALはオンラインチェックインにも、画面によけいなメッセージが多いからなのか、説明が簡潔でないのか、イラッとさせる煩雑さを感じた。「イラッとした」理由をちゃんと説明しないままこんなことを書くのは卑怯と存じるが、できないのはワタシが情報弱者だからだ。情報弱者ユーザーにも「気づいたら手続き完了させている」のが、よくできたサービスだと思う。
ちなみに、エミレーツもSASもフィンエアーも、手続きしたことすら忘れそうなストレスフリーなオンラインチェックインができた。このワタシでも。

機内食やCAの若さに「旅の非日常」を求める時代じゃない


安くない航空券で出かける海外への旅行は、あこがれの非日常ではある。ことに日本人にとって。しかし、コロナや頻発するテロの時代を経て、外国へ渡航することは、特権的な贅沢のことばかりを意味しないことが、いよいよ身に迫る現実になってきた。旅の「非日常」を思う時、それはいつ自分がまきこまれてもおかしくない不測の事態でなければ危ない。

保険会社と航空会社の「非日常態勢」のサービスをちょっとだけ体験して感じたのは、旅で楽しい思い出をつくりたいなら、小ましな機内食や、少しばかりの安さ、CAの見た目なんかに「非日常」の楽しみをもとめてはいけない。安全な旅のためには、アクシデントという「非日常」にちゃんと対応してくれる業者選びに命を預ける覚悟がいる。

タイムリーにも、全日空のCAが「高齢」になってきたことに苦言を呈しているひとりの株主のツイートが話題になっていた。


この日本人男性は、若い女性にサービスされるというちょっとした(銀座クラブ的な)「非日常」を機上の顧客満足だとしている様子なのだが、飛行機は地上一万メートルを飛んでいる。そこは、いつなんどき「若くフレッシュ」な乗務員だけで対応し切れないトラブルに襲われるかわからない「非日常」だ。対処するにはキャリアを積んだ乗務員や力のある男性乗務員がいてくれたほうが安心だというのがまともなリスク感覚ではないか。
私はCAに体のラインを強調した動きにくい制服を着せている某エアラインも会社の意識に疑問を感じるので乗らない。

話がずれた。すいません。

PCR陽性でも帰国できる「領事レター」

保険会社の窓口さんのお話ででてきた、「大使館にお願いする陽性でも帰国できる手段」を調べてみたら、小島慶子さんがそのことをエッセイに書かれていた。

在フィンランド日本大使館のホームページをあけて、メールを送ってみた。
VIPじゃないんで「領事レターよこせ」とは書きません。小島さんのように「あの、健康なのに日本に帰れないって切なすぎませんか?」と可愛くやるのも芸風が違う。
「日本とフィンランドの定めを軽視するつもりはないのだが、隔離期間を終えているので、日本でのように行動制限を解除いただける方法はないか?」という平身低頭な文面にした。

返事はすぐにいただけて、
コロナウイルスに感染後、回復後も陽性反応が出てしまい、帰国が困難になっている日本人/再入国者は、必要書類をもって領事レターの申請をすることができます。

と回答があった。必要書類として、①最初の陽性証明、②自宅待機解除後に取得した陽性証明と回復証明、③帰りの便の情報と領収書、④パスポートのコピー
あくまで申請の条件なので、レターはこれを提出後、各方面に確認してからということのようだ。判断に2−3日の日数がかかるともある。

形としては、「隔離が済んで、回復が確認されているのにかかわらず帰国予定日に陽性反応が出ない状態」を大使館に確認いただいたことを記した手紙、ということになる。

②は医療機関による診断が必要なので、さっそく病院に次の日予約を入れる
③は、「この便に乗りたいのに陰性証明が間に合わない」という形をとるため、遅すぎず、申請からレターをいただける2−3日後以降である必要がある。余裕を見て1週間後の便を予約した。

ポップスが流れる北欧デザインの病院で、半パン先生の診察を

病院の受付&会計。

AAVAという大きな病院に予約の電話を入れる。空港のPCR検査もこの医療機関がおこなっていたので、パスポートナンバーを告げると、ワタシの検査記録が既に保存、窓口と共有されており、話が早かった。電話は英語の選択ができ、電話口は、いつも野太い声の女性だ、ワタシのたどたどしい英語の説明に「オオッケエ〜」「イヤア〜ッス」とがっつり相槌打っていただけ、安心する。

病院は、銀行のプライベートバンキングサロンみたいな雰囲気だ。受付で予約を告げ、診察室の場所を指示されて5階へ。スケルトンのエレベーター、ドアも床もサインも北欧ブルーで、ものすごおしゃれ。待合にはポップスが流れている。コーヒーを持ち込んだら相当くつろげそうだ。

カフェみたいなヘルシンキの病院

診察をご担当いただいたのは、若い男性の医師。学生さんのようだとおもったら、プールの帰りみたいな半ズボンでスリッパばきである。
「回復証明書って、何を書いたらいいんでしょうか?」と頼りない。それワタシが聞きたいわ。そもそも症状ほとんど出てませんので、というと、
「もう回復されてるんですね?」。それ診断するの、先生では?
熱も測らず喉も覗かないまま、一心にキーボードをたたいて何やら書いておられる。「回復証明書」の決まったフォーマットはないらしく、先生はワタシから聞き取ったことを一通り書いて、最後に「この患者は回復しています」と書いてサインして完成。その場で書類を受け取った。

回復証明と、再度のPCR検査の陽性結果と合わせて領事レターの申請書類は揃った。メールで添付して送信してひと心地。
しかし、なにか不備があったらすぐに対処できるようにホテルで待機。

提出書類はすぐにチェックいただいたようで、お返事は数時間後にあった。やっぱりあった、書類の不備。
「回復証明書に日付けがありません」。
やってくれるわ、半パン先生。
AAVAに戻って事務所に訴えると、おばさん事務員さん達がわちゃわちゃ集まって「これでいいんじゃないの?」と日付ゴム印を取り出し、テキトーな場所に日付印をボーン。以上。ゆるいなあ。
しかし、ヘルシンキに置き留め1週間。これで帰国が見えてきた。

病院で出会った、おそろいマリメッコ土産袋の日本人オヤジたち

お揃いマリメッコなおっさんたち。集団&同調行動。21世紀の絶滅危惧種として真空パックだ。

日付印をまっている間、事務所の前で、出張のついでに遊んでいる風の日本人サラリーマン3人組(一人は女子社員)がPCR検査証明(手書きバージョン)をとりにきていた。
時節柄、ほとんど日本人観光客を見なかったこともあり、そのあいかわらずで異様な感じに目が釘付けに。
揃ってマリメッコのでかい土産袋を下げており、一人は院内で写メをとってはしゃいでいる。もうひとりは一日観光チケットの期限についてムキになって話していて、しかもこのおっさん達、女子社員を添乗員扱いしている感じもある。いまどきまだいるんですね?公私混同、おのぼりむき出し、団体同一行動の日本人観光客。レトロな「変わらない日本」の動態保存だ。

公共機関のあちこちでユニセックストイレが普及し、見上げればレインボーフラッグ。首相に若い女性を選ぶフィンランドで、嫁はんか娘にマリメッコ買って帰るこのおっさん達は何か感じるところがあっただろうか。

日本が知らない間に遅れた国になってしまったのは、若者や決定権のある大人が海外旅行に行かなくなり。旅で見聞を広げることが少なくなってしまったからではないかと思っていたが、その人が「変わらない日本」な人だと、どこへ行ってもレトロ日本の真空パックのまんま、コンベアの上を延々、転がってるだけだ。

中に手洗い場がある個室トイレ。これに慣れてくることを「北欧化」という(?)

陰性以外、入国不可という建前を崩す、お役所プレイ

毒づく元気が戻ってきたということは、回復した証拠。

申請書類受領のおしらせを受け取り、あとはレターを待つだけになる。
大使館の窓口の方はとても丁重で、邦人をかくも手厚く扱ってくれることに、日本人であることは、なんとありがたいことかと心から思った。

とはいえ、まだ現地で陰性反応を待ち続けて何度も検査に通っている人の話も聞いたので、やっぱり解せないとおもってしまう。
隔離を終えて帰国できる状態の陽性者に対して、帰国の条件に「建前としての陰性証明」を求めるのはいかがなものか。そして、それが不合理だから、領事レターでその建前を崩すという措置は、不思議なお役所プレイのように見える。
領事レターは次の日にメールで送られてきた。

「権威ある当局から情報を得て、帰国までに陰性証明が困難であることを確認する」という文言が書かれてある。
あわせてメールでSOSアプリの検疫手続き事前登録に「陰性証明に相当する書類」としてアップロードできるとも。
まさしく「クロをシロとする」威力があるレターだ。
予定より早くレターをいただけたので「帰国便を前倒しして、明日帰ることにしよっかな」と浮き足だったが、申請内容を航空会社や検疫に連絡いただいたようで、「変更をなさらないよう」と釘が刺してあった。察しがいい。

帰国便のチェックインから、成田の検疫まで、なんら問題なく、関空まで到着できた。関守から止められて領事レターを掲げて「勧進帳」を一幕やるチャンスはなかった。
ヘルシンキ空港の搭乗口では、搭乗拒否されたときの係の方と再会でき(向こうは覚えていなかったが)、今日搭乗するまでの事情をお話しして、その時の無礼をお詫びすることができた。
「今後、そういうケース(検査し忘れていて搭乗できず、緊急に検査したら陽性判定)が増えてきそうな感じです」とおっしゃり、なるほど、まだまだ関守のミムラ姐さんたちも、まだまだ気は抜けない様子であった。

以上が、陽性判定から、大使館のお力添えで2週間後に帰国した私が、手続きや相談のなかで考えたこと。トラブルを得ていないと気づけないことも多かったし、保険会社や航空会社には、ユーザー目線に立っていただければもっと向上できるサービスもあると思う。
とはいえ、いちばん頼りになったことを振り返ると、お電話での会話であり、関わっていただけた皆様とのやり取りの中でのまじめなお仕事ぶりだったりした。

お世話にならないに越したことはないが、次に利用することがあれば、もっと年取ってて、もっと要領が悪いとおもわれる。
ストレスのないサービスに誘導されるとうれしいが。

改めて、皆様お世話になりました。











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