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スぺース・マウンティング展と表具の未来

京都新聞 2021年7月23日掲載

タイトルを直訳すれば「空間表具」。表具とは、掛軸、巻物、衝立、パネル、襖など本紙(書画)を、紙や裂地を取り合わせて補強、装飾する仕立て。作品を守り、引き立ててきた、日本美術の伴走者だ。

 77年生まれの京表具伝統工芸士・井上雅博は伝統的な仕事に加え、写真や現代アート、ストリートアートまで、多様な表現に新しい表具を試みている。現代アーティスト・加藤泉の作品は、100年前の古裂の更紗を用いて掛軸に。描かれた宇宙人の顔のような絵にはエキゾチックな雰囲気が加わり、和洋問わない空間で楽しめそうだ。現代建築に映えそうなモノクロの写真掛軸は、写真をインクジェットプリントした和紙を、軸に巻ける薄さに剥いで、本紙にしている。漫画『へうげもの』の千利休と弥助の対面シーンの掛軸は、原画データを染料で布に写した本紙を、墨色に手染めした裂、貴重な竹屋町裂、しかも茶の湯にちなんだ緑色を取り合わせてある。新旧の表具の技法を駆使して、井上の思い入れを表した作品だ。

 床の間や茶室が姿を消しゆく現代で、表具が空間にどんな効果を与えるか。模索の一例が、GRAND COBRAとのコラボレーション、鉄の風炉先屏風と、大型の“空中表具“だ。これは本紙パネルと額縁を個別につくり、一体化させず吊り下げることで、絵とフレームの間にスペースを持たせた。

「表具は紙や裂など、伝統工芸の集合体。完成されたものをミックスするところは、DJのようだと思う」と井上。DJは今や選曲を“作品”とするアーティストだと認知されている。作品を選定し展覧会の構成をするキュレーターや、バイヤーやスタイリストの存在感が、大きくなっているのも、同じ傾向ではないか。

 作品を単体でなく、環境や場との関連、要素の連なりを通して楽しむことは日本文化の特徴。表具も一つの形だ。井上の仕事は、それが“セレクト”という現代的な創造に通じていると気づかせてくれる。(京都伝統産業ミュージアム=みやこめっせ地下1階 8月29日まで 26日、8月16、17日休 ※有料)

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