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「先生ぇ、独身どすか?」とシナを作る16歳が、花街の“行儀見習い”の成果です?

元舞妓さんのツイートの「個性を潰される」の言葉に、ふと思い出すことがあったので書いておく。


20年前に大学病院の脳外科に入院していた。相部屋に置屋の女将さんが脳溢血で運び込まれ、2−3日して舞妓さん二人が病室に見舞いにやってきたのだが、その挙動が、おかしかった。

挨拶もなくコソコソ入ってきて、真っ直ぐ女将さんのベッドに向かい「おかあさーん、大丈夫どすか」と言うも、そのあと同室の我々に対しては、ものも言わず、顔を逸らしたりソワソワしたそぶりで落ち着きがない。

同室の患者のご家族が来られたときには「こんにちは」とか「お世話になってます」とか挨拶されることがまあ普通だが、その舞妓さんたちは、病室にいるおかあさん以外の誰とも関わりたくない、いや、頑なに視界にも入れまいとしているようだった。

舞妓さんたちの、ちょっと異様な愛想のなさを見て、「幼いとはいえ接客のプロなのに、おかしな態度もあったもんだな」とちょっと呆れていた。

それがである。

主治医の先生が女将さんのところにやってきた途端、いままで石のようだった彼女たちの態度が豹変。医師の元に小走りでつめ寄って、黄色い声で放った言葉がこれである。

「先生え〜、独身どすか?」

なんだなんだなんだ?
先生の答えもふるってた。「独身だったら、なにかいいことあるんでしょうか?」

この瞬間、合点がいったのだが、彼女たちは人を見たら、見込み客と、そうでない人間を峻別してふるまうように教えられているようなのだ。

これから自分の価値観を構築してゆく時期の十代の女の子が、「客かそうでないか」という人の見分けや、見込み客の男が目の前に現れたら、下半身をはんなりとつかんで喜ばせるような(笑)営業トークが反射的に口をついて出るような「行儀」を見習わされている。

その花街流儀の完成形を見たのが、雑誌の仕事である芸妓さんに取材した時のことだ。
着物や舞についての一般的な質問にたいして、その芸妓さんは「そんなん、お客やない人は、知らんでええことちゃいますか〜」と、私の方に顔も向けなかった。撮影とインタビュー時間分の花代を払ってお願いしている仕事なのに、それでもプロかと呆れていたら、カメラマンと編集者(40代男性)がスタンバイしたところで、この芸妓の態度も豹変。

ライトに下に立つや
「先生ぇ〜、はんなり撮っておくれやすぅ〜」
「先生ぇ〜」
「先生ぇ〜」
舞妓よりもさすがに熟練のプロである。この芸妓も「見込み客と、そうでない人間」の区別、そしてはんなりと男の下半身をつかむ営業トークが見事であった。プロなのに、ではなく、プロだから、客筋に関係ないインタビューには関わらないのだ。後日、仕事でお世話になっている社長さんの宴席に招かれた時、まさしくこの芸妓が座敷にいた。するとなんと、今度は私に「先生ぇ〜」と手のひら“逆返し”で、「上客のお連れ様」に昇格扱いをしてくれやがる。「行儀見習い」とはこんな姉さんたちの行儀に倣うということだ。

今思えば、病室に見舞いにきた彼女たちは無愛想なのではなくて、客でもない入院患者に挨拶したりしたら、女将さんに「無駄なことをするな」と叱られていたのかもしれない。それが怖くて身を固めていたのだろうか。逆に、医者が出てきたら反射的に尻尾を振るようなそぶりも、調教されて自発性を押さえつけられた犬みたいだった。

舞妓さんの修業の「行儀見習い」の内実は外の人間にはわからない。それを教え込む環境が住み込みの置屋で、外の世界と断絶されていることに、当事者へのメリットはあるのだろうか?

もし修業が「通い」で、家族や同世代の女の子との会話で修業の内容を話すようなことがあれば「え? オッサンにそんなこと言うの?キモ〜」と笑う友達がいたりして、「そう感じる人もいるわな」と、客観的にものごとを見て、いろんな意見と接しながら、自分の芸と個性をのばしてゆく、そんな学びかたができるんじゃないか。

自分の言葉で話す個性的な舞妓さんってどうだろう?

「そんなの舞妓じゃない」と言う人は、じゃあ重たい着物を着ている10代の女の子に一体何をさせたい、どうあってほしいと思っているのか。
そして、その願望を正当化しているものはなんなのか?

花街と女性の人権についての問題提起に「伝統だ」「舞妓さんがいなくなったらどうする?」と感情的になる男っていますよね。いつも他の話題にはないような「話にならなさ」を感じる。
ちなみに、雑誌インタビューの時は、芸妓がなにも話さなかったことを編集担当に訴えても、彼ら「東京の出版の先生」がたは、「そんな話で、俺のいい気持ちに水を差すな」と言わんばかりのプチ逆ギレを見せた。

これ、ご本人に自覚なくても、花街に下半身を握られてるからだと思う。なので上半身の話が通じない。下品な言い方で申し訳ないが、これ以上の例えが見つからない。




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