作品か、製品か、創造か、産業か。その全てである「陶」に歩み寄る梅津庸一展「ひげさん」。
京都新聞 2024年1月27日掲載
美術家の梅津庸一と信楽の丸倍製陶所の神崎倍充の2 人展。梅津の作品は、混沌とした色彩の絵画と、それを立体化した遊具のような陶オブジェ。神崎は自社製品の傘立てや花器を出品。陶の「作品」と「製品」が並ぶ違和感に戸惑った。
梅津は日本のアートを問う評論活動も行っており、今展は2021年から神崎の製陶所を借りて作陶する中で立てた論点にもとづいている。展覧会タイトルは「ひげさん」。髭をたくわえた陶芸作家を、信楽の職人は揶揄してこう呼ぶそうだ。
「ひげさん」は一点ものの作品の独自性を誇るが、信楽では量産陶器も手で作られ、その意味では「一点もの」だ。梅津は信楽の業者から粘土や釉薬を入手して、業務用の大型の窯で焼いている。つまり、作品は窯業の産業構造に支えられている。ここでは作家と職人、創作と生産技術は不可分で、影響しあってもいる。展示されている神崎の製品――火色を際立たせた焼き締めや造形的な花器は「ひげさん」作品の量産写しで、こうした製品は「ひげさん的表現」に大衆的な認知を与えたはずだ。
「美術/アートと産業をセットで捉え直すことで、『ものをつくるとはなにか』『文化の担い手は誰か』という命題に少しでも近づきたい」。展示を観て感じた戸惑いは、梅津の問いを不問にしてきた気まずさだったか。
(艸居=東山区大和大路古門前東入ル 1月31日まで、日月休 艸居アネックスでも開催)
限られた文字数に、いろいろ書いたので「なんじゃそりゃ?」と不審に思われた方、梅津庸一さんの制作については、こちらの先行レポートが詳細かつ愛情に満ちているので。ご興味ある向きは、どうぞご一読。
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