詩集「月光苑」大原鮎美著  
 
詩集を手にしたとき。本に月がかかる、そしてトカゲと植物の交わり。独特な装丁は作者の詩集に対するこだわりを強烈に感じた。
本詩集はV冊目で、七〇一から詩がはじまる。それぞれの詩に題名はなく、短い詩が二〇〇篇、綴られている。

一篇、一篇が、作者のインスピレーションの源のよう。夢の一部のような部分もあれば、日常のひとこまのひらめき、子どもこころをくすぐるようなおもしろさ、奇抜な発想。玉手箱をあけていくようなおもしろさ。作者のひらめく感性があますことなく、この詩集はで表現され続けている。

七三一「一本道を歩いている途中/街灯が上からつぶやいた/「今日は月がきれいですね」/君それはI LOVE YOU と訳すといいよ/僕は先を急ぐけど君は一晩中/そうやってみているんだろう」街灯を君ととらえ、童話の一部のシーンでもあり、ロマンチックな発想でうっとりする。

七八〇「金魚はお喋りだ喋るがゆえに愛される/まだ言葉は意味を成さないが/ここまで来るには時間がかかった」小学生の頃に毎年縁日に金魚救いで買い、育てていた金魚を思い出した。金魚に対する表現がぴたりはまり、金魚に話しかけ、お喋りしていたことを鮮明に思い出した。懐かしく、心を豊かな幼き感性を刺激された。大原さんの詩は感性の一部をくすぐられ、また別の世界が広がっていく豊かさを孕んでいる。

*「詩と思想」2015年9月掲載

よろしければサポートをお願いします。私の活動の励みになります。頂いたサポートはクリエーターの活動費として使わせていただきます。