詩集「to coda」清野裕子著
 
題名の意味をひいてみると、「toコーダ」という記号の位置からコーダCodaへとぶ、ことらしい。桜ではじまり、桜でおわる。母と娘の関係、娘である作者と子どもの関係、母と祖母との関係、「toコーダ」の響きが詩集全体に響いているよう。母と作者のどこかわだかまりを感じながら、通い合う親子関係のスケッチは生々しく、共感ができた。

母の記憶が失われていく、その現実をしっかり受け止めようとする姿勢はとても勇気があることで、作者の生きる芯のつよさを感じた。

『川』二連目「よく知っていることだったのに/いつも川は不意に現れた」五連目「おまえが生まれたときには…/で始まり/こんなに大きくなって…/と終る/それはいつまでも/川といっしょに流れ続けていた」
「いつも不意に」日常から裏返しされ、非日常の世界に引き込まれ、五連目の「いつまでも」祖母に映る私は永遠に同じ場所に居続ける。哀切のメロディと波打つ激しい感情もあり、小さな家族の物語が詰まっている。

『となりのひと』一連目「ひとり住まいのおばあさん/ということしか知らなかった/資源ごみ回収の日にだけ挨拶した/品のいいひとだった」四連目「いつの間にかいなくなって/ブルドーザーがやってきて/コンクリートの基礎だけになって」都会の淡白なひとの繋がりの中の死の捉え方。静かに確かに胸を撃たれる。

*「詩と思想」2015年10月掲載

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