「あー幸せ」に変えてみた
時刻は20時。
子供の就寝というゴールを前に、私の疲労はもうすぐピークに達しようとしていた。
ゴールまで、あと少しだ。
頑張れ、私。
疲れ過ぎて泣きたくなる時もある。
40代になり、本当に疲れやすくなった。
ミュージカル俳優を目指していた20代の頃は、毎朝5時に起きて横浜を出て、品川で朝8時から16時までバイトしていた。
終わって速攻着替えて、品川駅構内を風の如く猛ダッシュ。
品川から山手線に乗り、ミュージカルスクールがある池袋へ。
17時からダンスレッスンを1本受け、そのあと22時まで芝居のレッスン。
家に着くのはいつも深夜の0時を過ぎていた。
そんな生活を毎日やってた。
全然平気だった。
あたすぃ、若かったなぁ〜(遠い目)
若さもあるけど、やっぱり、あの頃の自分の熱量ってすごかったな。
やりたいことがあるって無敵だ。
なんて思い出しながら、散らかり放題のLEGOを箱に入れて行く。
あー、しんど
余力がある時は、ポンポン箱に入れていけるんだけど、もうMAX疲れている時は、LEGOが、君たち鉛ですか?ってくらい重く感じる。
あー、しんど
そんな時、息子は言ってくる。
「絵、描いてもいい?」
生きる屍状態の母に容赦ない。
ああ、なんなんだあのキラキラした瞳は!
なんたる生命力
心の中で、マジっすかーと思いつつ、NOと言ったところで一筋縄じゃいかねぇ坊やはゴネゴネ言うに違いないから、ここはもう、はいどうぞぉ〜って言った方が結局はスムーズだということを、いい加減母は学びました。
幾度となく息子との攻防戦を繰り返してきたからね。
るんるんで描き始める息子。
へとへとふらふらの母。
LEGO一緒に片付けよっか!と誘う気力すらないので、息子が絵を描いている間に、散らかり放題の部屋を片付ける。
「あー、しんど」
心の中で呟いていた声が、いつの間にか表に出ていた。
その言葉は呪いのように私の体に重たーくのしかかり、言えば言うほど、どんどんしんどくなっていく。
重い・・・。
そういえば。
ある子育て番組の中で、どうやったらイライラしないかみたいなのがテーマだった時があった。いろんな方法が紹介されていく中で、
あるママさんが
語尾に「にゃー」をつけると、イライラしなくなりますよ♡
と、言っていたのが衝撃的でやってみようと試みたことが一度だけあった(一度だけ・・)。
夕方、兄弟喧嘩が勃発した時のこと。
夕方といえば、夕飯の支度をし始める時であり
私の1日の疲れが出始める時である。
つまり、そんな時の兄弟喧嘩は超絶イライラする。
例のアレを試す時がきた。
いざ、イメトレしてみる。
もう、何があったにゃー
とりあえず離れるにゃー
お母さん夕飯の支度があるから仲良くしてにゃー
言えますかこれ
確かに、「にゃー」をつけることで、なんていうか毒ばすっ飛ぶけど、こちらはMAXイライラしているわけで、そもそも「にゃー」をつけるメンタルじゃないわけで、言ってみたところで、息子たちの冷ややかな目線が飛んでくることが目に見えている。
想像しただけで心が折れそう。
なので、この語尾「にゃー」作戦は、あのママさんすげぇ、と思うだけに止まった。
話を戻そう。
しんどいしんどいって言っていたら、LEGOは鉛に変わるわ、自分はどんどん生きる屍になるわで、、、だからといって「にゃー」をつける元気もない。
ピカーンッ
私は、閃いた。
「しんどい」という言葉を「幸せ」に変換してみたらどうか。
やってみた。
「あ〜、幸せ」
と、言いながらLEGOを拾う。
「あ〜、幸せ」
LEGOを箱に入れる。
「あ〜、この時間いっちばん幸せやわぁ」
LEGOを拾う。
「あ〜、なんでこんなに幸せなんやろ」
LEGOを箱に入れる。
心なしか、さっきより気持ちもLEGOも軽く感じる。
「いいね!それ!こっちまでなんか幸せな気持ちなってくるよ」
と、お絵描きに付き合わされている夫が笑った。
息子は、「何言ってんだか」という目線をこちらに飛ばしてきた。
チッ、ドライな男だぜ。
私はLEGOを拾いながら続ける。
「あ〜〜〜〜〜〜〜、めっちゃ幸せ!!!!」
なんだか、しんどかったのに、どんどん幸せな気持ちになってきた。
夫が笑う。
私も笑う。
息子はドライ(チッ)。
就寝前の生きる屍母さんは、ちっとも寝ない息子と、散らかり放題の部屋を前に息絶えるところだったが、なんとか生き延びることができた。
言葉には力がある。
自分次第で、目の前のしんどいことが、フッと明るい何かに変わる。
心の中で言うんじゃなくて、実際に、声に出して言ってみるってところがポイントだ。
母が体現することで、ドライな息子にも伝わっていくといいな。
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