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飲み会デビュー

わたしも今ではマナーを学び、その一環でワイン
のこともお話するまでになっています。

しかし、教員として中学校に就職したての頃はま
るでお酒も飲めない状態でした。

4月から務めることになった中学校で、歓迎会を
催してくださることに。場所は町内にある古い仕
出し屋さん。

当時、わたしは授業以外にクラブも担当していた
ので、他の先生方と同じようにクラブ活動を終え
た後、一度自宅に戻ってからお店に向かうことに
していました。

と、言うのも歓迎していただくのに、多少なりと
も身だしなみは整えて行かないと失礼にあたるの
ではないかと考えていたからです。

慌ただしく帰宅し、着替えて出ようとした矢先、
突然父から声をかけられました。

「飲み会ならコレを飲んでいけ!」

父の方を見ると、なんとユンケルを手にしていた
のです。

(そんなの飲まなくても喉乾いてないんだけどな
 ぁ・・)

ボンヤリ父の方を眺めていると父は追い打ちをか
けてきました。

「飲むためには体力がいる!」
「これを飲んで元気出せ!!」

どうやら、喉が渇いているだろうからドリンク剤を
飲めというのではなく、お酒を飲むために体力をつ
けろということのようでした。

まだ22歳のわたしは普段飲むこともないドリンク剤
に抵抗感がありましたが、父が傍で睨んでいるので
渋々飲み干しました。

「ヨシッ!!これで大丈夫じゃ!!」
「気を付けて行ってこい!!!」

わたしは良くわからないまま「行ってきます!」と
言い、指定されていたお店に向かいました。

早めに出かけたつもりなのに行けば既に何人かの先
輩先生方の姿がありました。

初めてのオトナの飲み会。緊張しながら待合のお部
屋で外を眺めつつ、他の先生方が集まるの落ち着き
なく待っていました。

すると、次々と先生方が来られて、お部屋まで案内
されることになりました。校長先生や教頭先生の姿
もあります。同じ学年を受け持つ厳しくて怖い先生
もいらっしゃいます。

出来ればすみっこの目立たない場所を確保しようと
キョロキョロしていると、

「かおさんはココに座って!!」

席は自由ではありませんでした。
古い仕出し屋の大広間は大奥でも見ているようなし
つらえ。わたしの席はその一番前の上座。歓迎され
るモノ全員そこに一列に並べられました。

(さいあくだ。目立ち過ぎて落ち着かない。)

一人ひとりお膳が目の前にあり、座布団に正座する
スタイル。仕方なく、上座の目立つ場所に座り、次
々運ばれてくるお料理をいただいていると、あっと
言う間に時間が過ぎ、いつも会議を取り仕切ってい
る先輩先生がこんなことを言われました。

「では、新しく来られた先生方から1人ずつ挨拶を
 していただきましょう♪」

(!?!?!?)
(挨拶をしなくちゃいけないの?)

緊張と薄い座布団の上に正座していることで足は言
うコトをききません。そして先輩先生方が納得して
くださるようなお話をしなくてはいけません。

焦るばかりで何をおしゃべりしたらいいのか頭の中
は真っ白な状態。あっと言う間にわたしの番になり
ました。

(どうしよう・・・)

「かお先生、ごあいさつをお願いします!!!」

もう逃げるコトはできません。意を決して痺れてジ
ンジンする足で必死に立ち上がりました。

「かおと申します。」
「今日は・・あの・・・初めての歓迎会(飲み会)
 というコトで・・。」
「父がドリンク剤を飲んで行きなさい!というので
 飲んできました。」
「これから頑張りますのでどうぞよろしくお願いい
 たします・・。」

それだけでしたが、精一杯、蚊の鳴くような声で挨
拶をしました。今でこそ

「話し方と言えばかおさん」

と言っていただけるまでになっていますが、当時は
いまのわたしからは想像もつかないくらい、それは
小さな声でした。

にもかかわらず、他の同期達の挨拶には何の反応も
なかったのに、なぜか体育の先生を初め、教頭先生
、校長先生と沢山の質問や声援を受けることになっ
たのです。

「ドリンク剤まで飲んで何をがんばるのですか?」
「ドリンク剤をお父さんが飲みなさいと言われたん
 ですか?」
「ドリンク剤の効果は出てますか?」
「ドリンク剤を飲んでるので今日はいっぱいお酒飲
 めますね!」

わたしは恥ずかしくて仕方ありませんでした。
同期には男性も女性も複数人いたのですがみんな笑
っていました。そして大奥の様な和室の大広間全体
が笑いの渦となっていました。

その後、また薄い座布団の上に正座し、次々と運ば
れてくるお料理を静かにいただいていると全ての先
生が1人ずつお酌をしに来てくださいました。

学生時代も殆どお酒は飲んだことがなく、目が回っ
てきます。それでも先輩先生のお酌を断ることは失
礼なのではないかと思い全ていただきました。

すると教頭先生がやってきて、

「かお先生はいつも明るくて元気なのがいい!」
「今日も明るく楽しい挨拶でよろしい!」
「まぁ、一杯飲もう!」

美術担当の教頭先生はわたしが退職するまでひいき
にしてくださいました。そのあと校長先生も来られ


「学生を頼みますよ」


と優しくお声かけくださいました。こちらも学生か
ら慕われる人望のある先生。わたしを高く評価して
下さり、ずっといられるようにと気を配ってくださ
いました。

最後に校長先生が挨拶されて、緊張しっぱなしの初
飲み会はお開きとなりました。

わたしはと言うと、みんなからお酌を受け、頭はズ
キンズキン痛むし、足元はフラフラ。

わたしは先輩先生の車に乗せていただき、勤務先の
中学校まで戻りました。そして中学校まで家族に迎
えにきてもらい帰宅しました。

若かりし頃のほろ苦い想い出です。

↑ 仕出し屋和室イメージ図

~かおのことが気になるあなたへ~

分かりやすそうに見えて、
なにか掴みどころがないと言われるわたし。
他のnoteも手にとってみてくださいね。
そこにヒントがあるかもしれません。
大切にしてきたベースとなる考え方などお話して
います。どうぞこちらもご覧くださいね。


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