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オトナの世界を少しだけ

3歳から始めたお琴。

わたしが住む市には「三曲会」と言う、琴、三味
線、尺八で演奏する会がありました。師匠もその
メンバーであったため、春と秋に師匠と共に演奏
会に参加していました。

いつも公民館で開催される文化祭に三曲会の一員
として出演。小さすぎて記憶が定かではないので
すが初めて出演したのはわたしが5歳くらいだっ
たのではないでしょうか。

日頃は師匠とわたしだけで練習をし、演奏会が近
くなると、特別に全体練習を行う日が決まり、三
曲会のメンバーで集まっていました。

和室の大広間に入ると、尺八を演奏するおじさん
達がいてポマードの香りに、わたしはいつも気持
ち悪くなっていました。

ポマード軍団のほかにも、あの人やこの人、詳し
くは知らないけれどいつも見るおばさん達がいま
した。

正確に言うと、みんなお琴の師匠ですごい方ばか
りなのですが、当時のわたしには”ただのおばさん
達”でした。

横におっきなおばさん。頭が田んぼにいるタニシ
みたいにクルクル巻き上げたおばさん。色が黒く
ていつもお化粧をしていない緑の着物を着たおば
さん。

名前がわからなかったわたしは、見た目で勝手な
呼び名をつけては覚えていました。名前は知らな
いけれど、顔だけは特徴でシッカリ記憶していま
した。

そんな演奏会前のお稽古も終え、本番当日。自分
たちの発表が始まる直前に皆が楽屋に集まり、お
琴の糸が緩み、音がくるっていないかなど各自で
確かめたりしながら出番を待ちます。

けど、わたしは子どもなので自分で音を確認する
ことが出来ません。要するに楽屋には行くけれど
何もすることがないと言うコト。

いつものおばさんたちが世話しなく調弦をしてい
る邪魔をしないように1人着物姿でポツンと立っ
ていました。

すると、見たこともないキレイな女の人がやって
きて、わたしの前でお琴の音を確認し始めました。

(このキレイなひとは誰だろう?)

思っていたら、また少しだけ若めなポマードの臭
いのしないおじさんがやってきました。

「今日はまた一段とキレイだ。」
「口元も美しい。」

その言葉は自分の頭の上で聴こえていました。意
味がよくわからないのに、なぜか不思議とわたし
はドキドキしていました。

その言葉を発しているおじさんを見てみたくなり、
つい頭の上を見上げてしまいました。しかも、言
葉に反応してしまったのか?わたしは口元に手を
あて、見上げてしまっていたのです。

すると、

「あ、君も可愛いよ。」

見上げた先の少しだけ若めのおじさんはわたしの
顔を見て微笑んで言ったのです。なんだか本当に
よくわからないけれど急に恥ずかしくなりました。

(わたしはどうして見てしまったのか?)
(わたしはどうして・・・手を口元に当ててしまっ
 ていたのか?)

決してわたしも見て欲しいなんてアピールのつも
りではなかったのです。良くわからないけどタブ
ンそういうことなのだと感じました。

自分も女子として見て欲しいなんてこれっぽっち
も思っていなかったのに。わたしはとても恥ずか
しい思いでいっぱいになりました。

ほんとうは、出演前の大切な時間。だからこそ、
深呼吸して、気持ちを落ち着けることもしていな
くてはならない時間。

そんなトキに、本当は見てはいけなかったオトナ
の世界を少しだけ見てしまったような気持ちでい
っぱいでした。もちろん、その後の舞台での演奏
がどうだったのかすらも記憶にありません。

いつもの横におっきなおばさんやタニシみたいに
髪をグルグル巻きにしたおばさん。ポマードのお
じさん軍団だけならこんなことにはならなかった
はずなのに。

少し若めのおじさんと知らないキレイな女の人が
あらわれ、一転した演奏会。

あの時の恥ずかしいような、気まずいような、ド
キドキした感覚が今でもわたしの記憶にあり、時
々当時を思い出しては俯いてしまいます。


↑ 演奏会 イメージ図

~かおのことが気になるあなたへ~

分かりやすそうに見えて、
なにか掴みどころがないと言われるわたし。
他のnoteも手にとってみてくださいね。
そこにヒントがあるかもしれません。
大切にしてきたベースとなる考え方などお話して
います。どうぞこちらもご覧くださいね。


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