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グルール機体調整録 〜マジックのテンポって何だ?〜

0.はじめに

ここ数ヶ月、自分はチャンピオンズカップファイナルサイクル1に向けてパイオニアに少なくない力を注力していた。本戦の結果は3-4の初日落ちと惨敗で、翌週のビッグパイオニアフェスティバルも6-2で9位と決して輝かしい成績ではなかったが、シェアしたjgさんがPT権利を獲得してくれたこともあり、グルール機体というデッキ選択には満足出来たので、調整段階やカード選択の思考について整理して残しておきたいと思う。

1.パイオニアに対する見立て

自分にとってパイオニアというのは「テンポのゲーム」であると考えている。厳密にはmtgのどのフォーマットにおいてもそう言えるのかもしれないが、パイオニアというカードプールにおいては特にそうなる傾向にあるのだろう。
自分の考えるテンポとは、簡単に説明すると「相手より多くマナを使うこと」「相手が使ったマナよりも少ないマナで対応する」である。「序盤からマナクリーチャーをプレイして相手より重いスペルを使っていく」「相手の6マナのスペルを2マナの打ち消しで対応する」などが具体例として挙げられる。広義では3枚スペルをプレイして4マナの《弧光のフェニックス》を0コストでリアニメイトするのもテンポをとっていると考えられる。相手より多くマナを使うと言う観点ではマナをしっかりと毎ターン使い切れる軽い構成やミシュラランドを使うというのもテンポを意識していると言えるかもしれない。

テンポを上記のように定義するとテンポをとるために使うべきカードは
①マナクリーチャー、マナファクト

若者には殴れる託宣というと強さがわかるかも


②軽い妨害(interaction)

パイオニア最強除去


③実際のマナコスト以上の挙動をするカード=ズルいカード(例:《集合した中隊》、《弧光のフェニックス》)

ズルいカードたち

の3つに大別されると考える。

実際にパイオニアで活躍しているデッキはテンポをとれるものが多い。軽いマナクリーチャーを使った《緑単信心》、優秀かつ軽い妨害がこれでもかと詰め込まれた《ラクドスミッドレンジ》、《弧光のフェニックス》を擁する《イゼットフェニックス》、いずれも今シーズン初期からパイオニア環境を定義し続けたデッキだ。

2.テンポから分析するデッキ選択

理論上は1.で述べた①-③の特徴を持つカードでデッキを組めば最強のデッキとなるが、実はそれぞれに弱点がある。
①マナクリーチャー、マナファクト
→②の軽い妨害に弱い。軽いマナクリーチャーは軽い除去に弱く、マナ加速してプレイしたカードも打ち消しなどによってより少ないマナで対応されてしまう裏目が存在する。
②軽い妨害
→受動的であり、噛み合わせによっては相手の行動に対して裏目が幾重にも生じ得る。マナを構えることに終始して、結果として相手と使ったマナの差をつけられて大きな不利が生じてしまうことがある。
③ズルいカード
→メインボードでの影響力はあるが、サイドボード後に致命的なサイドカードが刺さりデッキ全体が機能不全に陥るという裏目がある。

これに加えて、デッキというのはそもそもシナジーというものありきで強みを発揮するものであるべきと考えると、デッキコンセプトを崩さない中で①-③の要素を出来る限り上手く組み合わせることになるのだろう。

それぞれについての裏目を考えたとき、より裏目が少ないのは当然受動的なものよりは能動的なものである(プレイするかしないかの選択肢がこちらにあるため)。また、コンボデッキは意識されていると弱いというのも気になる。その前提に基づいてデッキを選択するとなると軽いマナクリーチャーを使うデッキに白羽の矢が立つ。パイオニア環境で軽いマナクリーチャーといえば《エルフの神秘家》と《ラノワールのエルフ》であり、ここを主軸とするデッキが能動的なものとしては合理的な選択となると理解できる。

3.グルール機体の選択について

マナクリーチャーデッキとして有名なのは上述の通り《緑単信心》であるが、環境に増えた青いデッキに対して不利〜5分であることや有利対面としていた《ラクドスミッドレンジ》に強く意識されてしまったことから自分の選択肢から外れた。
環境に存在するもう一つのマナクリーチャーデッキ(著者注:《エルフ》や《緑単ストンピィ》、《アサーラックコンボ》については考えないものとする)としては《グルール機体》があるが、使用者が少なく、リストが荒削りな印象もあったため、こちらのテストを始めることにした。
MOで使われ始めたリストは《アクロス戦争》も《領事の旗艦、スカイソブリン》も4枚ずつであったが、いずれも特定のマッチでのみ劇的なものであり、さすがにメインボードにフル投入は多過ぎると感じた。また、《恋煩いの野獣》や《漁る軟泥》も特にシナジーはなく、ぼんやりと入っている印象であったため、デッキのフリースロットは意外と多いと感じた。サイドボーディングにまで目を向けると《エンバレスの宝剣》は確かに強いカードだが、《湧き出る源、ジェガンサ》を公開しないことで相手にケアされ易いことや《機体》デッキである都合上アーティファクト破壊でまとめて対策されてしまうことから実際に採用することには疑問があった。

グルール機体の祖sMann2.0のリスト


だが、③として《エシカの戦車》は全てのデッキに対して4マナ以上のパフォーマンスがあり、《緑単信心》との大きな差異として②が赤い除去という形で達成出来るため、総じて強いデッキの条件を満たしており、確かなデッキパワーを感じた

4.《鏡割りの寓話》の発見

ある日、フリースロットの研究を進めていると、思わぬ形で天啓を授かる。インスピレーションを受けたリストはチャンピオンズカップファイナル前のパイオニア神挑戦者決定戦トップ8のジャンド機体(https://www.hareruyamtg.com/ja/deck/442740/show/)であった。



大きなポイントとしては《ミシュラ》ギミックであり、緑単信心相手に強い点は非常に魅力的だが、自分たちのチームが注目したのは《鏡割りの寓話》の採用であった。

パイオニア禁止候補筆頭に躍り出たカード


《鏡割りの寓話》は衆知の通りパイオニア環境を定義するほどのパワーカードであり、普通に使っても③の条件を満たし得る。《グルール機体》は1マナクリを使う都合上、3マナのパワーカードを2ターン目にプレイ出来るという点で強いデッキの中で差別化される。既存のリストでは2ターン目にプレイして強いカードとしては《無謀な嵐追い》しかなかったが、《鏡割りの寓話》はその追加としての役割を持ち、なおかつ《ゴブリンシャーマン・トークン》がもたらす《宝物トークン》により、理論上1→3→5のマナジャンプが可能となる。3ターン目に5へのマナジャンプが出来ることで同一ターンに《領事の旗艦、スカイソブリン》がプレイでき、これはクリーチャーデッキに対してゲームを決定付けるインパクトがある魅力的なルートである。そうでなくても2マナ除去+3マナクリーチャー展開で盤面差を一気に引き離すことも可能である。
さらに《キキジキの鏡像》は《無謀な嵐追い》で変身後即起動も出来るし、《アクロス戦争》で奪ったクリーチャーをコピーも出来るし、作った《コピー・トークン》を《エシカの戦車》でコピーし、永続的に定着させることも出来る。


レジェンダリーが少ないのでコピーもしやすい


《鏡割りの寓話》の2章のルーティングも後引きで弱いマナクリーチャーや土地を新鮮のカードに変換出来るなど、引きムラの大きいグルールデッキの弱点を補完出来るため、全ての章に意味があり、《グルール機体》というデッキを上のレベルに押し上げると確信した。チームでMOリーグを数十マッチプレイし、勝率は75%程度あり、自信を持って持ち込めると思った。

5.チャンピオンズカップファイナルサイクル1

当日自分が持ち込んだリストは以下のものである。


メインボードの《漁る軟泥》1はリスト公開性のため、墓地利用デッキをみて採用したスロットとなっている。また一定数アグロデッキはいると考えて《恋煩いの野獣》も2枚採用した。1→3のマナジャンプがコンセプトではあるが、1マナの妨害を食らうと2ターン目に動きがなくなりがちなため、そこを埋めるという魂胆もあった。
実際のマッチは以下の通り。

バントスピリット 先○○
エニグマファイア 後××
アゾリウスコントロール(Noah Maプロ) 先○○
白単人間(佐藤レイプロ) 後○○
緑単信心 後×○×
エスパーコントロール 後××
緑単信心 先○××

3-1までは順調だったが、その後あまり有利ではないマッチアップを3連続で踏み、色々とつかないところもあり0-3し、3-4で初日落ちとなった。フィールド最多の《ラクドスミッドレンジ》を意識したデッキリストであり、デッキ選択は間違っていなかったが、全てのゲームでほんのちょっとの運に見放されたというのと、《緑単信心》相手のサイドプランが少し楽観的過ぎたというのが問題であったと感じた。しかし、リストをシェアしたjgさんは6-1で初日を抜け、その勢いのまま、8-3-1でPT権利を獲得してくれた。自分で結果を出せなかったことはこの上なく悔しいが、自分の代わりに結果を出してくれたことで救われた気持ちになった。

6.ビッグパイオニアフェスティバル

チャンピオンズカップファイナルで消化不良だったため、翌週のパイオニアの大型イベントである同大会に参加した。
リストはチャンピオンズカップファイナルでのフィードバックを経て多少の変更を加えた。


Main
4 Bonecrusher Giant
1 Boseiju, Who Endures
4 Cragcrown Pathway
1 Den of the Bugbear
4 Elvish Mystic
4 Esika's Chariot
4 Fable of the Mirror-Breaker
1 Forest
4 Karplusan Forest
2 Lair of the Hydra
4 Llanowar Elves
2 Lovestruck Beast
2 Mountain
4 Mutavault
4 Obliterating Bolt
4 Reckless Stormseeker
3 Skysovereign, Consul Flagship
1 Sokenzan, Crucible of Defiance
4 Stomping Ground
3 The Akroan War

Side
2 Cindervines
2 Fry
1 Grafdigger's Cage
2 Gruul Charm
1 Jegantha, the Wellspring
2 Rending Volley
1 The Akroan War
2 The Stone Brain
2 Unlicensed Hearse

ⅰ.ダブルシンボルの不採用

《探索する獣》は確かに強いカードだが、《湧き出る源、ジェガンサ》を使いたいマッチアップで入れるカードであり、相棒非公開で使うほどのバリューはないと感じた。対アゾリウスコントロール用のカードとして除去の枚数を減らさずに採用出来る《丸焼き》に変更した。アゾリウスコントロールがサイド後に入れてくる《悪斬の天使》や《夢さらい》などに対して使えるカードであり、非常にユーティリティが高い。
ⅱ.《燃えがら蔦》の増量
元々のリストでは置物対策が少なく、《創案の火》デッキに対してのガードを多少上げた。また、不利とする《イゼットフェニックス》に対してのキラーカードであり、これも苦手なデッキを広く見れるユーティリティの高いカードである。また、《緑単信心》のループに干渉しつつ、《領事の旗艦、スカイソブリン》対策にもなるナイスカードでもある。
ⅲ.《アクロス戦争》の増量
対《緑単信心》におけるキラーカードであり、環境最多の《ラクドスミッドレンジ》に対しても強いため、メインサイド合計で4枚はあっても良いと感じていた。

当日のマッチは以下の通り
no show ○○
ラクドスミッドレンジ 先○○
バントスピリット 先○○
ラクドスミッドレンジ(カツオくん) 後×○○
ラクドスサクリファイス 先○××
ラクドスミッドレンジ 先○○
ケルーガファイア 先○×○
イゼットオパス(ルーデンさん) 後××

鬼のように先手がとれた上に《ラクドスミッドレンジ》を3回も踏むバカヅキだったが、最後オポが高過ぎて勝っても負けてもトップ8に入れる相手に当たってしまい、しかも相性最悪のデッキであったため、一瞬で負けて6-2となってしまった。オポネントが高いためワンチャンはあったが、下からオポ75%の2敗が上がってきてしまい、無念の9位オポ落ちでSEならずであった。消化不良ではあったが、同じく《鏡割りの寓話》入りの《グルール機体》を使用したjgさんも6-2でトップ16であり、アベレージの高さは示せたとは言えよう。

7.サイドボーディングガイド

このデッキは骨格がかなりしっかりとしているデッキであるため、あまりインアウトが多くない。基本的には自分の動きを優先することと展開の順番を考えることで押し付けを続けることを意識したい。
以下にマッチアップごとのサイドボーディング案とプレイ指針を記す。

vs.ラクドスミッドレンジ


相性:有利
in +1霊柩車+1アクロス戦争
out -2恋煩いの野獣

《エシカの戦車》《領事の旗艦、スカイソブリン》の両機体のインパクトが強く、押し込める展開が多い。相手はマナクリーチャーに《致命的な一押し》を打たざるを得ず、後続の比較的重いクリーチャーが通り易いのも有利の一因と考える。

vs.緑単信心


相性:微有利〜5分
in +1アクロス戦争+1グルールの魔除け
out -2恋煩いの野獣

(後手のときは無謀な嵐追いを数枚燃えがら蔦に変えても良い)
お互いに序盤はマナを増やしつつインパクトの高いカードをプレイする展開となるが、軽い妨害がある分、こちらは後手でも捲るプランがあるため、微有利がつくと考える。マッチアップの肝は《領事の旗艦、スカイソブリン》と《アクロス戦争》であり、盤面の制圧を早期に狙う。《グルールの魔除け》はあたかも《白単人間》の《精霊への挑戦》のように機能し、ラスト数点を削る切り札となり得る。

vs.アゾリウスコントロール



相性:5分~微不利
in:+2丸焼き+2霊柩車+2燃えがら蔦
out:-3アクロス戦争-3抹消する稲妻

《至高の評決》や《放浪皇》に怯えずに展開し殴り続ける方が勝率は高い。その後も機体やミシュラランド、《無謀な嵐追い》などすぐに殴れるカードで淡々とライフを削る。また、クリーチャーの展開とミシュラランドでの攻撃を続けて、相手に《記憶の氾濫》を楽に打たせないことが肝要である。

vs.イゼットフェニックス


相性:微不利~不利
in:+2引き裂く榴弾+2丸焼き+2燃えがら蔦+2霊柩車+1墓掘りの檻
out: -3アクロス戦争-2抹消する稲妻-2野獣-2スカイソブリン

②の軽い妨害がありつつ、③のズルいプランがあるため厳しい展開となる。《氷の中の存在》や《帳簿裂き》を残すと相手は楽出来てしまうため、最優先で除去したい。サイド後はキラーカードが入るため、多少やり易くなるはずだ。

vs.白単人間


相性:有利
in:+1アクロス戦争+2引き裂く榴弾
out:-3無謀な嵐追い

盤面のサイズがこちらの方が大きく、軽い妨害もあるため、メインサイド通してやり易いマッチアップ。《精霊への挑戦》は赤、緑、《人間・トークン》、《変わり谷》と色が散っているため、多少ケア出来ることに注意

vs.スピリット(青単、バント)


相性:微有利
in:+2引き裂く榴弾+2丸焼き+2グルールの魔除け(バントスピリットには墓掘りの檻も入れる)
out:-3アクロス戦争-1抹消する稲妻-2無謀な嵐追い

メインは噛み合いもあるが、サイド後はインスタントの除去が増えるため、マッチを通してやや有利な印象。《形成術師の聖域》が厳しいが、《グルールの魔除け》がクリティカルなため、要所要所でアドバンテージを気にせず、盤面の制圧を意識していく。

vs.《創案の火》デッキ



相性:微不利
in:+2燃えがら蔦+2丸焼き(エニグマ相手は墓掘りの檻も)
out:-4抹消する稲妻(檻を入れる場合はアクロス戦争を減らす)

厳しいマッチアップだが、《一時封鎖》に怯えずに展開していけば、押し込めることも多い。《帰還した王、ケンリス》のために多少マシな除去の《丸焼き》を入れる。《一時封鎖》ケアとして《燃えがら蔦》起動用の1マナを残しながらプレイ出来るとよい。

vs.ロータスコンボ


相性:5分
in:+2燃えがら蔦+2石の脳
out:-3アクロス戦争-1抹消する稲妻
メインはお互いに干渉がなく、先手有利という印象。こちらはクロックが速いため、相手が躓けば速やかに介錯できる。
抹消する稲妻はブロッカーをどかせるため、意外と腐りにくい。サイドの《石の脳》はほぼ専用サイドであり、宣言優先度は《睡蓮の原野》>《演劇の舞台》>《見えざる糸》となっている。

8.最後に

ここ数ヶ月チャンピオンズカップファイナルサイクル1のためにパイオニアをひたすらプレイしており、正直かなり疲れたが、自分としては取り組み方を含めて納得出来る結果であり、総じて実りあるものだったと思う。チームでMOリーグや身内対戦の結果をエクセルシートで管理していたが、2ヶ月で1000マッチ以上をこなしており、チーム調整の凄まじさを感じた。


雑な切り取りだが、記録出来てる限りで左がリーグ、右が身内対戦


チームから9人も同大会に参加したこともあり、多くの人間で調整出来たことを喜ばしく思う。草の根チームで9人中6人もこのようなハイレベルなトーナメントで2日目進出者を出せて、PT権利獲得者も出せたことはただただ、素直に誇らしい。日夜議論を交わし、がむしゃらにマッチをこなし、質、量ともに充実した調整だと思っている。サイクル2でも同様の熱をもって調整を行えたら非常に幸せなので、自分も権利をとれるように微量を尽くしていきたい。
最後にここまで読んでくれた皆様とマスとんチームのみんなに最大限の感謝を込めて、この記事を締めたいと思う。本当にありがとうございました!!

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