いま崩れはじめた「NFTはクリエイターにロイヤリティが還元され続ける」という神話

NFTが持つメリットの一つとして語られてきた「販売したクリエイターへ二次流通の手数料の一部が還元され続ける」ということ。つい最近まで、実質ほとんどの売買でロイヤリティが支払われ、クリエイター側の収益となっていました。しかし、ロイヤリティ支払いをスキップできるNFTマーケットプレイスが登場し、使用するユーザーも増加。いま、この神話は崩れつつあります。

▼追記:12/3最新状況を別noteにまとめました
OpenSeaが新規のNFTコレクションに対してロイヤリティをスキップするマケプレをブラックリストにいれるコントラクトを事実上必須にしたこと、またそのためBLURはじめ他のマケプレもロイヤリティを強制としたことで「ロイヤリティは発生するもの」という状況になっています。

■NFTのロイヤリティの仕組み

ロイヤリティはNFTを成立させるコード(スマートコントラクト)上で規定されているものではなく、マーケットプレイスと呼ばれる、NFTの販売サービスによって執行されてました。

消費者庁 資料「NFTの動向整理」 より

NFTを発行したことがある方は体験しているかとおもいますが、NFTを販売するマーケットプレイスごとにロイヤリティや支払先の口座を設定する必要があります。一部のマーケットプレイス同士では、ロイヤリティの設定について自動的に共有される仕組みもあります。

■ロイヤリティをスキップするマーケットプレイスの登場

NFTの取引にロイヤリティをスキップする仕組みが導入され、最初に話題になったのな22年8月のこと。マーケットプレイスではなく、自動取引所「SudoSwap」でした。これは1点ものアートではなく、数百~数万点を発行するコレクションに特化しユーザー同士でNFTの交換や自動売買をおこなうサービスでした。DeFiのように交換から派生したサービスであり、取引にロイヤリティは発生しません。

sudoswap

続いて、22年9月に中堅のNFTマーケットプレイス「X2Y2」がロイヤリティ支払いを選択性にする"フレキシブルロイヤリティ制"を導入。NFTホルダーは出品時にロイヤリティを支払うかどうかを購入者に任せるか、0%にするかを選択できるようにしました。実際、購入者のうち72%はロイヤリティの支払いを拒否する道を選びました。

X2Y2の出品画面。ロイヤリティを支払うかどうか選択可能

そして、22年10月。MagicEdenやLooksRareほか他のマーケットプレイスもこの動きに追随しロイヤリティをゼロに。あたらしくローンチされ人気となっているBlurはデフォルトではロイヤリティが発生しない仕組みとなります。

■市場の流れ

こうして、ロイヤリティが発生しないNFTの取引が増えていきました。特に11月にはいってから、Blurでの取引が増え、遂にずっと首位であったOpenSeaを凌駕する取引量で事態となりました。

Macro Data by @punk9059

■OpenSeaが方針発表

市場の動向を受けて、11/7にOpenSeaがロイヤリティについての方針を発表。NFTを構成するコード(スマートコントラクト)でロイヤリティを強制する方向を示しました。OpenSeaはロイヤリティが発生する世界を支持しています。

①ロイヤリティ支払いを強制するためのコードをgithubで公開

②このコードにはX2Y2やBlurなどロイヤリティをスキップするマーケットプレイスでの移転の禁止等が含まれている

③11/9以降に新規発行されるコレクションは、このコードを含まない場合はロイヤリティを設定できなくなる

■具体的にロイヤリティの設定はどうなるのか
NFTを独自コントラクトで発行の場合
・既に発行済:12/8までは徴収可、以降は検討中
・11/9以降:コードをいれれば手数料を徴収可

OpeSeaの共用コントラクトで発行の場合
・既に発行済:どうなるかわからない
・11/9以降に:現状、手数料の徴収は不可

OpenSeaBLOG(https://opensea.io/blog/announcements/on-creator-fees/)

11/10追記
※OpenSeaが方針変更。既に発行済のコレクションはコードをいれていなくてもロイヤリティが発生しつづけることになりました。

OpenSeaの思想方針は「ロイヤリティを徴収すべきかどうかはクリエイターサイドが決めるべきであり、市場動向よって判断されるべきではない」

一方、発行済みのNFTコレクションは追加でコードを組み込むことは仕組み上難しく、ロイヤリティを強制することはできません。新しく作り直してスマートコントラクトに移行させるなどコミュニティを巻き込んだ抜本的な変革が必要となります。また、このコードは競合他社となる他のマーケットプレイスでの販売をブラックリストにいれて排除するものにすぎず、市場の独占であり中央集権型であるという反対意見もでています。

「既存のコレクションに対して12/8まではロイヤリティを発生させる仕組みを継続するが、それ以降の対応については検討中」としています。ロイヤリティ支払いをスキップできる仕組みを導入する方向がほのめかされていますが、コミュニティと議論を進めて決めたいとしており、discordやDMで意見を募集しています。

▼OpenSeaの提案する新コントラクト

最近は仮想通貨の相場が冷え込んでいた影響もあり、フリーミントや超低価格で一時販売をおこないロイヤリティでの収益で運営資金を賄うコレクションが多くなっていました。そのビジネスモデルが一部成立しなくなる可能性がでてきています。

これまでもsolanaのマーケットプレイスExchange.Artや、ArtBlocksで活躍するTyler Hobbs氏も自身のコレクションではロイヤリティをスキップするマーケットプレイスでは取引できないコントラクトを導入していました。

ちなみに、1点ものアートを中心に取り扱うFoundationやSupeRareなどはロイヤリティを排除する動きはありません。新しくNFT販売できるようになるinstagramもロイヤリティは採用しています。

■ロイヤリティ問題への対抗案

ロイヤリティは、過去のNFTの普及を信じてきたマーケットプレイス、クリエイター、コレクターが作り上げてきた文化であり、無くなるべきではないという議論も繰り広げられています。

クリエイターのBeepleは、ホルダー同士が直接交換するケースを例にあげ、技術的にロイヤリティを強制するのは難しいとしています。コレクターのクリエイターとクリエイターの関係値により支払われるべきと主張します。

またマーケットプレイスのMagic Edenは、クリエイターへのロイヤリティを支払わずに取引されたNFTに対してフラグをたて、画像をボカすなどの変更を加えることができるツール「MetaShield」を発表。ロイヤリティを支払って取引されれば解除することも可能となります。

「MetaShield」

さらに、ロイヤリティに変わって販売済みのNFTコレクションが継続的に収入源を得られるようNFTの着せ替え機能を提供してます。

他にも、LooksRareはマーケットプレイス側の手数料を一律2%に設定、その中から0.5%がクリエイター/コレクションに支払われる形式に変更しました。

LooksRareの発表

デフォルトでロイヤリティ発生しないBlurは、ロイヤリティを支払った取引にトークンを付与するというインセンティブを予定しています。

■さいごに

いずれにしても「NFTはクリエイターにロイヤリティが還元され続ける」という神話は崩れはじめているように思えます。各マーケットプレイスや有識者により、持続可能なシステムのための意見が取り交わされています。



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