余談に滲み出るパーソナル性に、憧れと確信を得る。

私はライターになりたい。まずは、雑誌の編集やフリーペーパー制作などに関われる仕事に、一刻も早く転職しなくてはと焦っていた2017年1月。

でも、昔からライターになりたかったわけではない。文章がすごく得意なわけでもないし、実は読書もあまり好きじゃない。読み進めているうちに、前のことを忘れてしまうから。この人誰だっけ、なんでこうなったんだっけ、と、きちんと把握しようとすればするほどペースは遅くなり、結局読むのをやめてしまう。夏休みの宿題で最後に残していたのは、自由研究ではなく読書感想文だった。

なぜ今ライターを目指しているかというと、私なりの音楽との関わり方を見つけた気がしたからだ。好きな音楽を好きなままにしておきたくなかった。音楽への愛情を、人に役立つものにしたい、自分が生きていく手段の一つにしたいと、思うようになった。

3年前から私は、音楽にまつわるものをすべてやってみることにした。ボーカルスクールへ通ってライブハウスみたいな場所で歌ったり、ギターを習ってバンドを組んだり、ライブサーキットやフェスのボランティアスタッフになったり、イベント(主に物販)のバイトに登録をしたり、そしてウェブサイトでライティングスタッフとして活動した。

人前で歌うのは結構恥ずかしかった。イベントスタッフは中心で動いている人達のサポート的な役割だった。どれも楽しかったし、今も続けているが、一番やりがいを感じたのはライティングスタッフだった。私個人に依頼が来て、書いたものに対してしっかりチェックしてくれた。仕事にしたい。と自然と思うようになったのは、ライターだった。

早速フリーペーパーを扱う広告代理店の正社員募集を見つけ、応募した。書類選考は通過し、ぜひ面接に来てくださいとのことで京都まで行った。しかし1週間後に来た結果は「不採用」。何がいけなかったんだろう?と思い、ダメ元で問い合わせてみた。すると返事をくれた。「当日の試験の結果が、よりいい点を取った人がいたからですが、強いて言うなら雑誌以外あまり本を読まない(特定の好きな作家さんがいない)とおっしゃった点です」。

はは、おっしゃる通りだなと思った。例えばバンドでメジャーを目指してる人間が、あんまり音楽聞かない(好きなバンドがいない)と言ったら、どうだろう。それだけでその人の音楽性を判断しようとは思わないが、視野が狭そうだな、とか、ちょっと変わった奴だな、くらいは思ってしまうような気がする。とんだ正直者め!と自分を責めた。

反省した私は、翌日すぐに本屋へ向かった。

本を読まねば。だけど何を読んだらいいのだろう…。やっぱり村上春樹の新作?でもすごく分厚いし、2部作だ。読み終えてまともな感想を言える自分が全然イメージできなかった。

やっぱり私は、小説や自己啓発、ビジネス系じゃなくて、音楽関係のにしよう。できればフリーライターで活躍している日本人が書いたものなら、なおいい。

そうして、音楽コーナーの棚に並んだ本の、1つ1つタイトルと中身を確認していき出会ったのが、増田勇一氏の『ガンズ・アンド・ローゼスとの30年』だった。

ガンズ・アンド・ローゼス。去年会社の人に教えてもらったところで、ちょうどYoutubeで聴いていた。1月には来日ツアーもしていた。定刻通りに始まったという普通のことがおおごとのように書かれた記事を読んだ気がする。でもガンズかあ。洋楽かあ。理解できるのかなあ、なんて思ったが、そうだ私はそんな悠長なことを言ってる場合じゃないんだ。県外まで行った面接を一個落としてきているのだ。そこから何か学ばねば、行動に移さなければ、また落ちる!!と思うと汗が出てきて、本を握りしめて急いでレジへ向かった。

読み終えるのに1か月と10日ほどかかったと思う。でも結論から言って、内容も面白かったし、何より目指すべきライターさんに出会えたと思った。

著者の増田勇一氏は、1961年生まれの現役フリーランス・音楽ライターである。1984年より8年にわたってヘヴィ・メタル雑誌『BURRN!』編集部で活躍、その後1992~1998年までMUSIC LIFE編集長を務めたのちにフリーになった。国内外で多くのアーティストに取材している。2013年からは『シンコー・ミュージック・ムック ヘドバン』編集部の相談役や『BURRN!』への寄稿も行っている。

その増田氏の著書『ガンズ・アンド・ローゼスとの30年』は、頻繁に話が横道に逸れる本だった。本編が始まって5ページ目(いや、当時貴重な情報源だったとするアメリカ西海岸のフリーペーパーの切り抜き写真のスペースを除けば、2ページ目くらい)で、さっそく話が逸れてしまう。

それがこちらだ。

ただ、この『BAM』(フリーペーパー)については、インタビューやニュース記事はさほど載ってはいないものの、巻末にライヴ告知がたくさん掲載されていて、ハリウッド界隈のアンダーグラウンド・シーンにおける勢力図とでもいうべきものについて、なんとなく動向を把握することができたのだ。そういえばある時、「当方、メジャー契約のあるメタル・バンド。身長6フィート以上の白人ドラマーを求む」といった内容のメンバー募集が掲載されていたことがあった。あの広告主はおそらく、デビュー当時のドラマーだったトニー・チャイルズを欠いたW.A.S.Pだったのだろう。後任に迎えられたスティーヴン・ライリー(ご存知のとおり、その後にはL.A.GUNSにも参加)がその広告を目にしたのか否か、また彼自身の身長が6フィート以上あるのかどうかは定かではないが。実際に取材で遭遇した時の彼は、そこまで長身ではなかった記憶がある。

はて?と思った。そもそもガンズのことすらよく分かっていない私。なのにトニー・チャイルズ、W.A.S.Pって誰だろう。はたまた身長がそこまであったのか・なかったのかもはっきりしないの~?

でも、こういう余談をわざわざ書く人を私は初めて発見したのだ。もしかしたら、世の中にはこういう書き方をする人がほかにもいるのかもしれない。でもこれまで私は、いかんせんほとんど本を読まずに生きてきたし、そして音楽の記事については、雑誌やネットニュースでしか読んでいなかった。

前々から、音楽雑誌特有の言い回しや決まり文句、少し陶酔しすぎる・よいしょしすぎる傾向、ネットにみられる愛情が伝わってこない詳細を省いた淡々とした文章に、疑問を感じていた。決してライターを目指す者としてではなく、小学生の時のフェイバリットテレビが徳光和夫さんの「速報!歌の大辞テン」で中学・高校は吹奏楽部の、根っからの音楽ファンとしてそう思っていたのである。

たった5ページで、この本は、著者の音楽に対する愛情・情熱・経験値がきちんと見える本だと感じた。私はめずらしく、わくわくしながら本を読んでいった。この後約300ページに、あとどれくらいの余談が挟み込んであるのだろう?あと何回増田氏の人生を垣間見ることができるだろう?彼を通して見たガンズは、破天荒と言われるガンズ・アンド・ローゼスはどんなロックバンドだったんだろう?そんな気持ちになった。

そういう気持ちにしてくれるライターこそが、必要とされるライターなのだろうなと。

もっと言ってしまえば、読者としての私は様々なジャンルを網羅するようなライターが書いたライブレポートより、ただの音楽ファンが書いたライブレポートのほうが読みたい。私が好きなバンドやアーティストは、その人自身もあらゆるアーティストの新譜を、そのファンと同じようにチェックし、ライブへ行き、Twitterでオススメしている。例えば04 Limited Sazabysのボーカル・GENは音楽を聞くのが大好きで、彼が新譜を買ったと言っていたから聴いてみて、今やすっかりはまってしまったのがSuchmosだった。そういう人、そういう繋がりが私は大好きなのだ。

増田氏は、プロのライターでありながら、プロの音楽ファン。ライター志望の私に、目標の人ができた。


続く。


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